<第9回>
老舗の覚醒
~大倉恒吉(月桂冠)のFilling Power
(同志社大学名誉教授 石川健次郎)
場所:大阪企業家ミュージアム(11月26日)
企業家研究については、貧困(本人がそう言っている)と富裕かという大きく二つの属性に分かれるようです。富裕のほうは高学歴で財を活かしてというパターンで説明できることが多いようなのですが、貧困のほうは多くのバリエーションがあるようです。
そのバリエーションとしては、徒弟修業から出世していくパターンと郷党(きょうとう:その人の郷里。また、郷里を同じくする仲間。)からの融資を受けて高学歴を得て、企業で出世していくというパターンがあるようです。
そしてそれらとは異なるパターンとして、「老舗」の企業家というパターンがあり、今回は月桂冠の第11代目である大倉恒吉を取り上げられました。
大倉の時代は、ちょうど富裕層/貧困層という二層から新たに新中間層というのが市場に出てきた時代であり、義務教育の就学率も90%を超えたり、電話の普及、電気エネルギーへの転換など、大きく社会環境が変わる時代でありました。
そんな中で大倉は、引継ぎ時には400万石だった月桂冠の出荷を6万石という150倍もの量に拡大という偉大な実績を残しました。大倉は、特に技術革新、流通革新という二つの革新を成し遂げました。
技術革新:防腐剤サルチル酸使用禁止に対する早期対応
流通革新:明治屋との取引(文書による契約、早い決済、販売情報の共有)
老舗の語源は「仕似せ」。しかし、老舗は老舗性(過去の踏襲)を否定することで存続を許される。新規を禁じしきたりを重んずることは老舗の成長を阻み、滅亡を招く。
老舗を引き継いだ者は、引き継いだ時点の業績を下げることは許されないという大きなプレッシャーを背負わされる。その中で、生き続けていくためには時代を先読みし、革新的な施策を行い続けなければならない。
大倉はまさにそれを成し遂げた企業家であった。