デジノグラフィ インサイト発見のためのビッグデータ分析

デジノグラフィ インサイト発見のためのビッグデータ分析

著者:博報堂生活総合研究所,堀 宏史,酒井 崇匡,佐藤 るみこ

著者について

博報堂生活総合研究所
1981年、「生活者発想」を標榜・実践する博報堂のフラッグシップ機関として設立。人を消費者だけにとどまらない多面的な存在:「生活者」として捉え、独自の視点と手法で研究している世界でも類を見ないシンクタンク。主な活動として、生活者の変化を長期にわたって追う時系列調査や生活者と暮らしの未来の予見・洞察などに加え、近年はデジタル空間上のビッグデータをエスノグラフィの視点で分析する『デジノグラフィ』の研究も推進中。その成果は書籍はもちろん発表イベントやWebサイトを通じて広く社会に発信している。

デジノグラフィとは、デジタル×エスノグラフィ。データサイエンスの機械学習の視点はどうしても「効率」というところになってきますが、それを打破して新しい仮説を見出す非常に有効な手法だと感じました。以下、気になったところを抜粋しました。

●10の技法

ッグデータの観察技法 1 ボーダーライン分析法 前後で状況が一変する境目の値、閾値を見つける技法
2 ウェーブ分析法 波形の動き、重なりから周期性や構造の変化を見つける技法
3 ホットスポット分析法 生活者の動きが最も活発な中心点や新しい動きが起こる変化点を見つける技法
4 トライブ分析法 生活者の行動特性から新しい群や集団を見つける技法
5 3Gの法則 人々に興味を持たれやすい3つのGを分析に絡める技法
キラーデータの抽出技法 6 アジェンダ発想法 人々が注目している“話し合うべき課題”を起点とする技法
7 ロングデータ発想法 長期時系列データが示している継続的な変化を起点とする技法
8 イベント発想法 インパクトのある社会イベントを分析の起点とする技法
9 俗説発想法 世の中で定着している俗説や常識、固定観念を起点とする技法
10 違和感発想法 個々人の生活の中で生じた違和感や驚きを分析の起点とする技法
これまで私たちは、長期的な視点を含めた生活者の意識変化を読み解くには定量調査、生活者の中に生まれた兆しを深堀するには定性調査、というように2つの眼を使い分けていました。そうした中で生活のデジタル化が進み、様々な生活者の行動や生声が調査という形によらずにビッグデータとして蓄積されるようになってきたわけです。そこには、これまでの2つの眼では見えなかった人々の暮らしの隠れた領域の情報、一人ひとりの行動としては微細すぎて追うことが難しかった領域の情報があふれています。デジノグラフィはこれまで触れることができなった情報を可視化し、あなたがより立体的に、奥深くまで生活者を見通すことを可能にする、いわば第三の眼なのです。(p.29)
デジノグラフィで行うビッグデータで行うビッグデータの分析は専門的な知識をほとんど必要とせず、逆に言えば新しい発見ができるかどうかは、分析者の“視点の切れ味”にかかっています。・・・重要なのは最初の着想です。データサイエンティストは、あくまでも解析技術の専門家であって、新しい生活者分析の視点を着想してくれる人ではありません。最初の着想は、生活者の隠れたインサイトを掘り出し、新しい発想、新しい価値を生み出したいと思っている人、つまりあなたがするしかないのです。(p.39-40)
最も重要なのは、どうにかして面白い発見をしてやろう、という好奇心と、試行錯誤を楽しむ心を失わないことです。『ダヨネの壁』を乗り越えると、こんな面白い発見が待っている。(p.42-43)
デジノグラフィの解析対象は、デジタル空間上のビッグデータに蓄積されている実際の行動や生声です。そこには生活者自身が忘れてしまったり、そもそも意識すらしていなかったこと、誰かに面と向かっては言えないような心の内も、包み隠さず存在しているのです。(p.45)
スマホで画面スクロールをする長さにも、実は年代差が現れているんです。(p.70)
このような年代差が生まれた背景にはいくつかのことが考えられます。一つは、若い年代は上の世代に比べてチェックする情報源が多いということです。40代以上は暇つぶし感覚も含めてタイムラインの下部までじっくり見ている人が多いのに対して、20代は一定の情報を仕入れたら切り上げて、SNSなどまた別の情報源のチェックに移る、あるいは気になる記事があった時点で検索窓に関連するキーワードを入れて、関連情報を別のサイトに掴みに行こうとするのです。(p.71-72)
若い年代が短いのは画面スクロールだけではありません。続いて、ユーザーがYahoo!ショッピングに訪れてから、最初に注文ボタンを押すまでの平均時間を見てみましょう。50代が一番長く18分53秒なのに対して、20代は15分48秒と3分以上の差がありました。速度に変換すると20代は50代の1・2倍速で買い物をしている、ということになります。(p.72)
また、生活総研が実施している定量調査やインタビューなどからはフリマアプリの浸透やECの進化などの影響も垣間見られます。気に入らなかったらフリマアプリで売ってしまえばよいので、試しにとりあえず買ってしまう、という行動が増えているのです。SNS上の商品投稿から直接購入ができるシステムが整備されつつあることも、比較検討が抑制されることにつながっているのでしょう。(p.73-74)
リアルなつながりの中だけで行われていたニーズのマッチングが、インターネット、スマートフォン、アプリといったテクノロジーによって、日本全体、あるいは世界全体で行われるようになったからこそ、このような現象が生まれています。そういう意味では、この分析結果はリユースマーケットだけでなく、インターネットの本質的な価値にもつながっているといえそうです。(p.133)
多様で多更新なビッグデータによって、特定の場所、特定の日など、ピンポイントで解像度高く生活者の実態や行動を浮き彫りにすることができます。その結果、新潟県のクリスマスのように予想外の事実が見えてくることも、定量的にその背景を探ることで、隠れていた文化や変化の構造に気づくことができるのもまた、デジノグラフィ研究の面白いところです。(p.145)
ビッグデータは、【兆しの発見】、【事象の深堀】、【仮説の検証】という3つのフェーズのそれぞれに活用することが可能ですが、特にデジノグラフィは【兆しの発見】および【事象の深堀】の部分でビッグデータを活用しようというアプローチだということができます。デジタル空間上のビッグデータには生活者の実際の行動データや生声が蓄積されています。そこには、生活者自身が忘れてしまったり、そもそも意識すらしていなかったこと、誰かに面と向かっては言えないような心の内も、包み隠さず存在しています。これを徹底的に観察することで、これまでにないインサイトが発見できるからです。しかし、現在のマーケティングにおけるビッグデータ活用は最適化、効率化の領域に偏重している、と言い換えることもできるでしょう。(p.180-181)
ビッグデータによる仮説検証型の分析アプローチは、投資・施策に対する効果を最大化するためには非常に有効に機能します。このような検証を高速で行っていけるのも、データ量が膨大で、かつリアルタイムに更新されていくビッグデータならではの価値があることは間違いありません。一方で、検証すべき仮説そのものの幅はどうでしょうか。もちろん仮説検証を繰り返していけば、実行する施策の精度はより高くなっていきます。しかし、このやり方は特定の範囲の中で効果を最大化するポイントにフォーカスするためのもので、従来の枠を大きく打ち破った考え方や発想をもたらすものではありません。これを繰り返していくと、いつか必ず効果が頭打ちになる時がやってきます。仮説そのものを新しく生み出し、可能性を広げる、デジノグラフィ型のアプローチが必要になるのです。(p.182-183)
仮説検証型の分析で得られるのが「正解」を示すデータだとすれば、デジノグラフィによって得られるものは仮説につながるインサイトや、あるいはさらにその前の視座を示すデータです。視座というのは、たとえば「47歳が紙質の変わり目だとすれば、その壁を超えてロングヘアをキープしている人はどんなケアをしているのか?」といった、インサイトをさらに深堀する起点となる「問い」と言い換えることもできるでしょう。(p.183)

冒頭に書きました、博報堂生活総合研究所さんが提示されている10の技法は生活者の潜在意識のインサイトに大変有効な視点であり、技法であると感じました。普段の業務の中でも活用できるように「知っている」というところから「使える」というところまで普段から意識していきたいと思っています。

●10の技法の例

ッグデータの観察技法 1 ボーダーライン分析法 年齢、身長・体重、テストの点数、サイトの訪問回数、1日の歩数、店と家の間の距離など
2 ウェーブ分析法 時刻、週、月、季節、技法1との組合せ
3 ホットスポット分析法 特定の日にちや地点、あるいは人などにピンポイントでフォーカスを当てる
4 トライブ分析法 人をカテゴライズする際の切り口は多くの場合、名詞で表現される。名詞による括り方は規定される範囲が明確なので分かりやすい反面、その範囲外に発送が広がらない面がある。ビッグデータはによる行動分析で切り口を動詞を起点に考えてみると新しい視点が見つかる。「隠す」トライブ、「さらけ出す」トライブなど
5 3Gの法則 Gender(性別)、Generation(世代・年代)、Gossip(ゴシップ、噂話)を要素として絡めると、分析結果に興味を持ってもらいやすい。
キラーデータの抽出技法 6 アジェンダ発想法 アジェンダには世界全体、日本全体にとっての大きな課題から、子育て中のママなど特定のターゲットにとっての課題、あるいは自分の所属している会社の部門部署、地域の課題といった特定の集団内の課題などさまざまなレイヤーがある
7 ロングデータ発想法 ビッグデータは社会的にも利活用が始まってから日が浅く、10年以上の長期間にわたるデータを分析できるものはほとんどありません。そういう意味ではビッグデータとロングデータ(歴史のある定量調査など)は補完関係にある
8 イベント発想法 台風や大きなスポーツイベントは定期的に発生するものの、日付が決まっているわけではない。そのため、最初から意図をもって発生日を調べ、そこにフォーカスした分析をする必要がある
9 俗説発想法 もし常識や固定観念が正しくなかったり、例外が存在していることを導き出せれば、多くの人がそうだと思い込んでいるだけに強いインパクトを残すことができる。
10 違和感発想法 何気ない瞬間に感じた“違和感”を自分自身が大切にする必要がありますし、それをなんとかデータで可視化してやろう、という気概がないといけません。しかし、自分の実体験で感じた違和感を起点とした発見は、それを語る際にも自然と熱を帯び、具体的なエピソードが紐づいている分、聞き手にとっても非常に説得力が増す

 

広告の「3Bの法則」Beauty:美女、Baby:赤ちゃん、Beast:動物の3つのBを広告に起用すると、注目を集めやすく、好感度を高めやすい。(p.201)

デジノグラフィで導き出すのは正解ではなく、議論の起爆剤になる問いです。議論の起爆剤となるためには、その解析結果が誰にとっても分かりやすく背景をあれこれ洞察したくなるような面白さを含んでいる必要があります。その際に3つのGが要素として有効に機能します。(p.201)

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください