著者:南 和気 …
「日本型・グローバル人事の教科書」というサブタイトルがつけられています。第一印象としては、“人事こそ”の人事がどこまでのスコープかが気になりましたがどうやら、曖昧ですが本文でのおおよその使い方としては「人事制度」のことをおっしゃっているようです。(Inobe.Shion) |
内容紹介
発売後、たちまち重版出来! ! 【著者より】 本当に、このままで日本企業は世界で勝てるのか。 この本では、これからの時代を勝ち抜くために、「人」という戦力を育成し、活かすためのノウハウを網羅的にまとめています。 日本企業の「良さ」と、海外企業がもつ「強さ」を合わせて、最強の「人材戦略」を実現するために、ビジネスに関わるすべての方に読んでいただきたいと思います。 【読者からの反響の声多数!】 ・グローバルリーダーとはどういう人材なのか、いろんな意見があってわからなくなっていました。 ・「イノベーションを起こす人材を育てるように」と経営者から言われ、どうすればいいか試行錯誤していました。 ・管理職になるために、人材育成や人の管理について学びたくて、先輩から勧められました。 ・弊社は、これからグローバルでもっと勝負していかなければならないという時で、海外の人材がどういう考え方で働いているのか、よく分かった。 早稲田大学ビジネススクール准教授 パナソニック、ジョンソン・エンド・ジョンソン、オムロン、国連、SAP……先進企業の事例も掲載! 出版社からのコメント 第1章 グローバル人事とはなにか? |
市場ニーズは急速に変化する時代となり、一つの製品力で長く成長を支えることが困難になりました。グローバル市場で勝つための競争力の源泉は「人」です。日本人だけではなく、海外の人材も含めて「全世界の人材を活用する」ことが避けられなくなった今、もうこれまでの人事戦略では通用しません。今こそ人事戦略をグローバル化しなければ、日本企業は生き残ることができないのです。(p.4) |
そもそもこの著作のメインテーマである「人事」のスコープが不明瞭なまま、話に入っていってます。想像するに経営戦略としての人事戦略だと思われますが、従業員の地力を鍛えるというようなところではなく、グローバルに対応していくための人材体制をどう作っていくかという内容のようです。
ビジネスのスピードが加速しているということは、商品やサービスが陳腐化するスピードもまた加速しているということになります。画期的な新商品、新サービスを生み出したとしても、その情報は瞬時に世界中の競争企業に伝わります。しかも、新しいテクノロジーを生み出すためのコストも年々下がっているので、他社の追随を許さない圧倒的な商品力、技術力、独自性がない限り、あっという間に模倣されてしまいます。(p.24) |
言わずもがななのですが、同ページにいわゆるユニコーンと呼ばれるような企業は、ビジネス立ち上げから10億ドル規模に達するまでに圧倒的なスピードで実現していることが示されています。
Google:8年
Facebook:6年
Tesla:5年
Uber:4年
Airbnb:3年 など・・・・・
基本的にグローバル人事とは、事業のグローバル化に伴う「人材の変化」に人事のやり方を対応させる目的で行うものです。(pp.30-32) ①人材の多様化 ②人材需給のグローバル化 ③人材の流動化 |
企業の方針や事業の特性、海外展開の段階などによって、直面する課題や目指すゴールは異なるため、すべての企業にとって正解となるグローバル人事のやり方はありません。(p.33) |
企業によって目指すべきゴールは異なるわけですが、では自社が目指すべきグローバル人事のゴールをどのようにして定めればいいのでしょうか。海外で事業展開している企業には、組織形態や事業の状況や特性、グローバル展開の方向性などにより、大きく分けて「セントラル人事」「マルチナショナル人事」「インターナショナル人事」という3つのグローバル人事の段階があります。(p.34) |
●セントラル人事
セントラル人事は、本国、本社の人材を海外でも活躍できるよう育成して海外の支社や現地法人に派遣し、主に現地企業との合弁や協業によってマーケットに食い込み、現地のニーズに応えた製品、サービスを提供していく、といったモデルです。
●マルチナショナル人事
マルチナショナル人事は、今、多くの日本企業が目指しているグローバル人事のモデルです。現地のマーケットに対して最適な製品やサービスを提供するため、現地法人の社員はもちろん、トップにも現地で採用、育成した人材を登用し、必要な権限も委譲し、経営のほとんどを現地に任せる形です。
●インターナショナル人事
インターナショナル人事は、一部のグローバル企業だけが実現しているグローバル人事のモデルです。全世界、インターナショナルマーケットに向けて商品やサービスを展開している企業は、現地マーケットごとに最適化する必要はありません。むしろ、スピーディに世界に展開していくため、国や地域を問わず、最適な事業を最適なロケーションに配置して展開していくことが求められます。国や地域を越え、グローバルに人事施策を行う必要がある場合はインターナショナル人事となります。
グローバル人事を進めていく場合、最初にその組織がどのモデルを目指すのか、きちんとゴールを定めることが重要です。なぜなら目指すゴールによってやるべきことや整備するべき人事制度は変わってくるからです。(p.42) |
人事慣習の違いについて、P.46~p.49にかけて整理されています。
日本企業の人事慣習 | ●職能資格制度 企業の期待する職務遂行能力をどの程度有しているかによって社員の序列付けを行い、職能給として賃金に反映させる制度 →【マイナス面】 能力主義により、生かと報酬のアンマッチが発生。年功序列制度を醸成し、若手が伸び悩む。●長期雇用 同一企業で定年まで雇用されるという、日本の正社員雇用における慣習。定期昇給制度や退職金制度の導入によりこの慣習が一般化した →【マイナス面】 雇用が硬直化し、事業の再編やビジネスの変化に組織と人が対応できない●新卒一括採用 企業が卒業予定の学生(新卒者)を対象に年度ごとに一括して求人し、在学中に採用試験を行って内定を出し、卒業後すぐに勤務させるという雇用慣行。長期雇用を前提として機能している。 →【マイナス面】 横並びの処遇が根付き、思い切った抜擢や中途採用がしづらく、制度上も対応できない。事業の成長スピードと人材の成長スピードにギャップが発生する |
海外企業の人事慣習 | ●職能等級制度 職務の内容を「ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)」として明確にし、その内容により等級を区分する制度(職務を分析・評価する) →【マイナス面】 ポジションや仕事に対して報酬が決まり、ヒトが配属されるため、報酬が下がるポジションや仕事への配置転換は退職につながりやすく柔軟な異動を行いにくい●有期雇用 定期昇給や退職金制度が存在しないことが多く、長期雇用を前提としていない →【マイナス】 常に優秀な社員を認識し、引き留める努力をしなければ、優秀な社員ほど流出してしまう●職種別通年採用 欠員があったときに必要な要件や人数を明確にして募集を行い、職務をこなす能力・スキルを備えている人材を採用する →【マイナス】 優秀な人材の獲得競争に常にさらされ、企業ブランド力が採用力に直結する。人件費や採用費が高騰する |
私は、日本企業がグローバル人事に挑戦する際、どうしても変えざるをえない人事の考え方として、次の3つがあると思っています。(pp.50-51)
●結果人事 → 計画人事 |
最近の奇妙な傾向として、女性の管理職登用などの流れもあり、女性が「??」ということで昇進・昇格したりすることもあるらしく、それってお互いに不幸だと思うのですが、上記の3つでいうと「計画人事」になるのかもしれませんが、どうでしょうか。
●結果人事 → 計画人事
結果人事 | 計画人事 |
一定時期まで、同期が横並びで処遇される。一定の役職の適正年齢が自然と設定され、同期または同年代との競争となり、ある年齢時期における評価が高い人材が順次役職に就く。 | 海外において同期入社という概念はないため、目指すべき人材の配置計画に基づいて、必要な価値に合った人材の育成を計画的に行う。年齢や経験年数に関係なくニーズに合わせ意図的に育成を行う。 |
平等性を重視 | リスク管理を重視 |
●主観人事 → 客観人事
主観人事 | 客観人事 |
部下と上司のコミュニケーションが非常に密で、上司や組織の主観による人材評価が重んじられる。よって上司との相性や上司の見方によって評価の違いが出やすい。 | 評価基準が明確に決められ、客観的な共通指標に基づいて評価が行われる。そのため、基準となっている指標に合った成果が収められない場合、優秀な人材であっても評価が低いことがある。 |
人を評価する | 仕事を評価する |
●密室人事 → 透明人事
密室人事 | 透明人事 |
評価や処遇がどのようなプロセスに基づいて決定されるのか、また評価結果そのものも社員本人に公表されない。配属や処遇についても、暗黙のルールが多く社員に説明されない。 | 評価や処遇の決定プロセスが公開され、評価結果やその理由が社員本人に公開される。処遇そのものの決定は管理職や人事部によって行われるが、ルールは社員に説明される。 |
上司や人事への信頼に頼る | 評価の仕組みへの信頼に頼る |
実際にグローバル人事を始めるためには、いったい何をするべきなのでしょうか。課題は大きく3つあります。(p.54)
①人材の需給をグローバルで把握すること |
昨今、「タレントマネジメント」と盛んに言われますが、そもそも、なんのために優秀な人材を採用したり、育成したりするのかというと、事業計画に合わせてタイムリーに必要な人材を供給できるよう、人材の需給ギャップを計画的に埋めていく目的があるからです。ですので、まずはグローバルに人材需給ギャップを見ていくことができていない限り、そもそもタレントマネジメントをいくらやっても、なにを目的に、またなにをゴールとするのかが見えないので、成果も把握できません。(pp.54-55) |
これはグローバルに限ったことではなく、ローカルでも同じことでしょう。
以前、こちら(“「組織は戦略に従う」 or 「戦略は組織に従う」”)でも書かせてもらっていますが、こういう戦略をしたいとなっても先立つもの(ヒト・モノ・カネ・情報・知識)がないとすぐに実行には移せません。特にヒトだけはすぐに調達できるものではありませんから、そういう意味でも経営戦略に則った人材戦略が必要不可欠なわけです。
人事は事業計画をきちんと把握し、密接に連動した形で人事計画を立てていくことがなによりも重要です。これまでの日本企業の人事は、年次や役割ごとの教育には力を入れているものの、経営との距離が遠い場合が多かったように思います。しかし、グローバル人事を進めるにあたっては、経営層と情報交換をする機会を頻繁に持つなど、経営との距離を近づけて、人材需要、ニーズを把握することが不可欠になってきます。人は急に育つわけではありません。数年から10年単位での取り組みで育つものであり、人事こそ、より遠くの未来を見据えなければなりません。しかし、実際には経営会議や中期経営計画の策定の議論に、人事が直接関わっていない企業はまだ非常に多いように感じます。経営者は最も遠くが見えているはずです。そして人事は常に経営と同じ視点で、事業における人に関する需要、ニーズを把握し、数年後のあるべき姿を目指して、それに向けて計画的に経験を積ませたり、能力を高める機会を与えたりしなければなりません。(p.57) |
また、人事は、海外を含め自社の社員についての情報をきちんと把握しておく必要があります。それぞれの社員が、どのような経験や能力、強みを持っているのか、詳細に把握していなければ、事業推進に適した人材の供給を計画することもできないからです。(p.57) |
ここの「人事」って人事部のことなんですが、重要なキーワードの「人事」なので、きちんと使ってほしいところなんですけどね。
グローバル・リーダーは、勝手に育つものではありません。どれほど優秀な人材でも、経験を積むなかで学び育っていくものです。だからこそ、未来の可能性とリスクに備え、計画的に人材戦略を整える、育成することが求められるのです。(p.62) |
グローバルだけではないですが、経営を背負って立つ人材もそうでしょう。BCP(事業継続計画:コンティンジェンシープラン)としてもそうでしょう。
最終的には、たった一人のリーダーに依存するのではなく、価値観や理念がしっかりと全社員に共有されていて、ルールで縛る必要もなく、またはリーダーが全部監視する必要もなく、それぞれが組織内で役割を持ち、リーダーシップをもって動いていける―そういったエンゲージメントの強い組織こそが、組織として一番成熟している状態、つまり第三段階の組織といえます。(p.64) |
この組織モデルでは、管理職も役割の一つとなり、管理職がすべての決定を行うのではなく、権限と情報は常に双方向に共有されます。役割によって分散されたリーダーシップが複数の柱となって組織を支え、変化に迅速に対応します。つまいr、ルールやリーダーとのつながりによって組織を運営するのではなく、組織文化そのものにつながるような形です。私はこのタイプの組織を「パルテノン型組織」と呼んでいます。(p.64) |
原題のように情報やノウハウが簡単に手に入る時代においては、ほとんどの仕事において、スキルの高さは成果とは必ずしも直結しません。むしろ、成果を上げている要因を細かく見ていくと、スキルの高さだけでなく、他にも成果につながる要因がいくつかあることが分かります。なかでも大きいのは「経験」と「モチベーション」です。(p.96) |
日本では、「やる気があるのが当たり前」「モチベーションは個人の問題なのでどうしようもない」などと思われがちですが、実はモチベーションは、特に若い間はブレが大きく、表面的にはやる気があるように見えても頻繁に変動しています。モチベーションを敬ぞk的に上げていくには、本人と仕事、会社、社会をどのようにつなげていくかが大きなポイントとなり、本人だけでは解決できないことのほうが多いのです。(p.97) |
人材マネジメントの観点で考慮しなければならない主な多様性(p.132)
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多様化を考える上でのポイント(p.143)
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サクセション・プランニングは、主に次のようなプロセスで実行されます。まずは、事業計画と連動して、どのポジションがキーポジションとなるのかを特定し、そのポジションに必要なスキルや経験などの要件を設定します。その基準をもとに、候補者を選定していくわけですが、通常、候補者は一人ではなく、代替者・本命・次世代の3人を選定することが良いとされています。「代替者」というのはリスク管理の観点で、「本命」と「次世代」がいわゆる後継者(サクセサー)であり、事業の方向性に関わるところでもあります。(pp.164-165) |
タイトルと、内容がイマイチ合致しない感じもありました。メインタイトルはすこし言い過ぎで、サブタイトルの「日本型・グローバル人事の教科書」のほうが内容とはマッチしていましたね。
経営戦略と人事戦略は密接に結びついていることは言わずもがなですが、改めていっかりと語ってくれています。
やはりヒト・・・本当に経営はヒトだと思います。