著者:クレイトン M クリステンセン,タディ ホール,カレン ディロン,デイビッド S ダンカン…
クリステンセン教授の久しぶりの著作。そして、サブタイトルに、「 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム 」とあれば、読まないわけにはいきません。そして、ハーバード・ビジネス・レビューが選ぶビジネス書でも2017年3位を獲得。(Inobe.Shion) |
内容紹介 ★破壊的イノベーション論のクリステンセン教授が 「人はなぜそれを買うのか?」を解き明かす最新作!★ハーバード・ビジネス・レビュー読者が選ぶブックランキング2017年第3位!★世界で最も影響力のある経営学者クレイトン・クリステンセンが、 人がモノを買う行為そのもののメカニズムを解き明かす、 予測可能で優れたイノベーションの創り方。なぜあの商品は売れなかったのか? 世界の経営思想家トップ50(Thinkers50)連続1位。 「破壊的イノベーション論」の提唱者、クリステンセン教授による、待望の最新刊!顧客が「商品Aを選択して購入する」ということは、 「片づけるべき仕事(ジョブ)のためにAを雇用(ハイア)する」ことである。 『イノベーションのジレンマ』の著者による、21世紀のベスト・オブ・ビジネス書! イノベーションの成否を分けるのは、 世界で最も影響力のある経営学者クレイトン・クリステンセンが、 ・顧客が商品を買うこととは、片づいていない「ジョブ(用事・仕事)」を解決するために何かを「雇用」することである。 [本書で取り上げる事例] 【目次より】 [第1部 ジョブ理論の概要] 第2章 プロダクトではなく、プログレス 第3章 埋もれているジョブ [第2部 ジョブ理論の奥行きと可能性] 第5章 顧客が言わないことを聞き取る 第6章 レジュメを書く [第3部「片づけるべきジョブ」の組織] 第8章 ジョブから目を離さない 第9章 ジョブを中心とした組織 第10章 ジョブ理論のこれから 内容(「BOOK」データベースより) |
何が顧客にその行動をとらせたのかを真に理解していない限り、賭けに勝つ確率は低い。だが、イノベーションとは本来、もっと予測可能で、もっと確実に利益をあげられていいはずだ。必要なのは、ものの見方を変えること。だいじなのはプログレス(進歩)であって、プロダクト(商品)ではない。(p.10) |
企業は果てしなくデータを蓄積しているものの、どういうアイデアが成功するかを高い精度で予測できるようには体系化されていない。むしろデータは、「この顧客はあの顧客と類似性が高い」「このプロダクトはあのプロダクトとパフォーマンス属性が似ている」「この人たちは過去に同じ行動をとった」「顧客の68%が商品Bより商品Aを好む」といった形式で表現される。だがこうしたデータは、顧客が「なぜ」ある選択をするかについては何も教えてくれない。(p.13) |
これは分析者が陥る罠ですね。出てくる数字は過去の数字から導かれた推測、ただそれだけでしかない。そこから「なぜ」というのは分析とは異なる世界。しかし真のデータ・サイエンティストであれば、そこが一番の問題だと分かっておりさらに「なぜ」を繰り返す。そこが本物か、偽物かの違いです。
製造業の姿を一変させた品質改善運動のW.エドワーズ・デミングは言った。「正しい質問の仕方を知らなければ、何も発見することはできない」。一世を風靡した企業が次々に倒れるのを目撃してきた私は、問うべき質問がなんであるかについに気づいた。「どんな”ジョブ(用事、仕事)”を片付けたくて、あなたはそのプロダクトを“雇用”するのか?」私にとってこの問いはすっきりと腑に落ちる。私たちが商品を買うということは基本的に、なんらかのジョブを片付けるために何かを「雇用」するということである。その商品がジョブを上手く片付けてくれたら、後日、同じジョブが発生したときに同じ商品を雇用するだろう。ジョブの片づけ方に不満があれば、その商品を「解雇」し、次回には別の何かを雇用するはずだ。(p.15) |
こうしたイノベーション(AirBnBやカーン・アカデミー)は、最新のトレンドにとびついたものでも、顧客の財布のひもをゆるめるために既存のプロダクトにあれこれ飾りを加えたものでもない。イノベーターたちが、消費者の求めている進歩をどうすれば達成に導けるかを明確に理解したうえで、考え、練り上げ、プロダクトを市場に投入したのだ。あなたに片づけたいジョブがあって、いい解決策が見当たらない場合には、“安っぽくて雑”な策でもないよりましである。見過ごしていた何かがものすごい可能性を秘めているかもしれない。(p.17) |
我々の考察の基本は、「片づけるべきジョブ」理論にある。この理論が目指すのは、顧客が進歩を求めて苦労している点は何かを理解し、彼らの抱えるジョブ(求める進歩)を片付ける解決策とそれに付随する体験を構築することにある。名称に「理論」とあるので、象牙の塔で学習が難解なことを考えているイメージが浮かぶかもしれないが、この理論は極めて実践的で効果のあるビジネスツールだ。よい理論は、われわれが、“どんなふうに”と”なぜ”を考えるのを助けてくれる。世界がどんなふうに動いているのかを理解し、いま現在の決断と行動がどんな結果を生むのかを予測するに役立つ。ジョブ理論は、相関関係がわかればイノベーションを成功させられると期待する世界から、因果関係のメカニズムを踏まえてイノベーションを成功させる世界へと案内してくれる。(pp.17-18) |
「顧客が片づけようとしているジョブ」というレンズを通してイノベーションをとらえ直すことは、私にとって壁が打ち破られた瞬間だった。このレンズがあれば、破壊理論ではなしえなかった、顧客が彼らの生活になんらかのプロダクト/サービスを取り込もうとする原因は何なのかを理解することができる。(p.37) |
もしジョブ理論がそれほど強力なら、なぜもっと多くの企業がすでに活用し始めていないのか、と。その理由の第一は、「ジョブ」の意図するものの定義がかなり具体的で精緻だということだ。ジョブは、顧客がほしがる、あるいは必要とするものを表す、万能のキャッチフレーズではない。顧客がたんに望む商品だけでなく、プレミアム価格を払ってでもほしがる商品を生み出すために、ジョブ理論には構築すべき複数のレイヤーがある。何が片づけるべきジョブなのかを特定し理解することは重要な鍵だが、それは始まりにすぎない。(pp.45-46) |
ジョブを明らかにして把握できたあとは、そこで得た知見を、優れたプロダクト/サービスの開発に落とし込む青写真に翻訳しなければならない。この過程に含まれるのが、ジョブを解決するうえでの、プロダクト/サービスに付随した体験の正しい構築法だ。さらに、ジョブを一貫して捕捉できるように、最終的には社内の能力とプロセスを統合する必要がある。ジョブの解決という行為と体験と結びつけることは、競争優位を獲得するうえで極めて重要である。なぜなら、競合相手にとってプロダクトの模倣だけなら簡単にできてしまうが、自社のプロセスに強く結びついた体験を模倣することは難しいからだ。(p.46) |
以上、第1章でしたが、章のまとめが端的にまとめられていますので、抜粋します。
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ここから第二章に入ります。イノベーションを一か八かの賭けから予測可能なものに引き上げるには、根本的な因果関係のメカニズム―消費者が特定の状況で成し遂げようとするプログレス(進歩)―を理解しなければならず、そのために片づけるべきジョブ理論として展開されます。
イノベーションを一か八かの賭けから予測可能なものに引き上げるには、根本的な因果関係のメカニズム―消費者が特定の状況で成し遂げようとするプログレス(進歩)―を理解しなければならない。そのために片づけるべきジョブ理論がある。(p.50) |
イノベーションは品質革命そのものではなく、それを起こす前の段階にある。だが、多くのマネジャーは不備や失敗をイノベーションの過程で避けられないことと受け入れ、一時しのぎの解決策を施すことに慣れすぎたせいで、そもそもの原因をじっくり考えられなくなってしまった。(p.56) |
何年も考えてきて、私は結論に至った。どうすればイノベーションを成功させられるかを導く、優れた理論に欠けていたということに。これまで、多くの有能なマネージャがイノベーションの種々の課題と悩ましい疑問に取り組むのを見てきたが、最も根本的な問いに注目した者はめったにいなかった。顧客に特定のプロダクト/サービスを購入して使用するという行為を起こさせるものは何か。ジョブ理論がその答えを出せる。(p.58) |
さて、次にジョブの定義が書かれています。ここは非常に重要なところなので、しっかりと書いておきます。
ジョブ理論の中核には、単純だが強力な知見が込められている。顧客はある特定の商品を購入するのではなく、進歩するためには、それらを引き入れるというものだ。この「進歩」のことを、顧客が片づけるべき「ジョブ」と呼び、ジョブを解決するために顧客は商品を「雇用」するという比喩的な言い方をしている。この概念を理解すれば、顧客のジョブを発見するという考え方が直観的にわかるようになる。ここで、ジョブ理論を構成する要素について解説しておこう。(p.58) |
■進歩 われわれはジョブを、“ある特定の状況で人が遂げようとする進歩”と定義する。重要なのは、顧客がなぜその選択をしたのかを理解することにある。ゴールに向かう動きを表すため、あえて「進歩」という言葉を選択した。ジョブとは進歩を引き起こすプロセスであり、独立したイベントではない。進歩は、特定の問題を苦労して解決するという形をとることが多いが、それは一つの形態にすぎない。苦労や問題を伴わないジョブもある。(p.59) |
■状況 ジョブの定義には「状況」が含まれる。ジョブはそれが生じた特定の文脈に関連してのみ定義することができ、同じように、有効な解決策も特定の文脈に関連してのみもたらすことができる。ジョブの状況を定義するにあたり、重要な質問はたくさんある。「いまどこにいるか」「それはいつか」「誰と一緒か」「何をしているときか」「30分前に何をしていたか」「次は何をするつもりか」「どのような社会的、文化的、政治的プレッシャーが影響を及ぼすか」などだ。ここでいう「状況」とは、その他の文脈上の要素、たとえば、ライフステージ(学校を卒業したばかりか、中年期の危機に陥っているか、もうすぐ定年か)や、家族構成などに拡大することができる。ジョブを定義するのに(その解決策を見つけるためにも)状況が不可欠なのは、成し遂げたい進歩の性質が状況に強く影響されるからだ。「状況」は片づけるべきジョブ理論の根幹である。われわれの経験に照らすと、マネージャたちはたいてい状況を考慮しない。むしろ彼らは、イノベーションを探索する旅のなかで、次の4つの原則にとらわれる。・プロダクトの属性 ・顧客の特性 ・トレンド ・競争反応 これらのカテゴリは、最もありがちなものを抜き出しただけであって、どれが悪いかと間違っているというものではない。だが、こうした原則を追求するだけでは不充分であり、顧客の行動を予測することはできない。(pp.59-61) |
さらに、ジョブには複雑さが内在する。機能面だけではなく、社会的及び感情的な側面もある。多くのイノベーションにおいて、その焦点が機能性や実用的なニーズのみに向けられていることは珍しくない。だが現実には、消費者の社会的および感情的なニーズが、機能的な欲求よりもはるかに大きいことがある。(p.61) |
あらためて、ジョブとは何かがまとめられています。
ジョブの基本定義は以下のとおりだ。(pp.61-62)
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適切に定義されたジョブはイノベーションの青写真になる。これは従来のマーケティングでよく言及される「ニーズ」とは大きく異なる。ジョブはそれよりはるかに細かい明細化を伴うからだ。ニーズはつねに存在し、漠然としている。・・・ニーズはトレンドに似ている―方向性を把握するには有益だが、顧客がほかでもないそのプロダクト/サービスを選ぶ理由を正確に定義するには足りない。(p.63) |
ジョブは本来複雑なため、顧客を観察して得た知見を分析しやすいようなデータに落とし込むことは容易ではない。ジョブを見極め、本質を明らかにするのは、現実にはかなりむずかしい。ジョブから得る知見は壊れやすい。なぜなら、数字ではなく、ストーリーだからだ。顧客に付随する特性を分解し、「男性/女性」「大企業/中小企業」「新規顧客/既存顧客」などのバイナリーデータに分解する段階で、その意味は破壊される。・・・ジョブ理論が重点を置くのは、“誰が”でも”何を”でもなく“なぜ”である。ジョブを理解するということは、知見を集めて、さまざまなことが密接につながり合った絵をつくり上げていくことであり、細かい断片に区切ることではない。(pp.65-66) |
ジョブを理解するうえで、ある思考実験が役立つことに気づいた。特定の状況で進歩を遂げようと苦心している人を、短編ドキュメンタリー映画風に頭のなかで撮影してみるのだ。
■この動画に記録されるべき要素 これらの要素はそれぞれに重要な文脈と意味がある。5つの問いに答えることで、ジョブをより具体化できるようになる。いわば、ジョブ理論は複数の切り口と機能を持った統合ツールといえる。顧客が進歩を成し遂げるために苦労している点を見つけ出したら、片づけるべきジョブの機能面だけでなく、重要だが気づきにくい社会的および感情的な側面についても考えてみよう。(pp.66-69) |
本書では、分かりやすいように簡潔かつ単純にジョブを表現しているが、ジョブを適切に定義するということは多層的で複雑な作業であることを強調しておきたい。なぜか?ある人のジョブを完全に満たすには、ただプロダクトを生み出すだけでなく、ジョブのさまざまな面に対応する体験を創造し、さらにはそうした体験を一貫して構築できるように、企業のプロセスに統合する必要が出てくるからだ。これをうまく成し遂げれば、競合相手に真似される恐れはほぼなくなる。(p.70) |
ジョブはつくり出すのではなく、見つけ出すものだ。ジョブそのものは長い間変化しなくても、解決方法のほうは時が経つにつれて大幅に変化することがある。(p.71) |
イノベーターにとってジョブを理解するということは、消費者が進歩しようとするときに、何を最も気にかけるのかを理解することである。ジョブ理論を当てはめれば、どのメリットが不可欠でどれが余計かを、細かく評価することができる。状況に応じた「雇用」の基準を理解すると、それが引き金になって重要な知見が次々と得られる。そのなかでもとくに注目すべきはおそらく、競争の場が想定していたものとは全く違っていたケースだろう。(p.72) |
何が原因で何が起こるかを予測通りに正確に説明できる、堅実で安定した理論は一夜のうちにはできあがらない。さまざまに練り、試験をおこない、精緻化しなければならず、また理論が当てはまる文脈を理解しなければならない。たとえ理解がある特定の用途に当てはまらなくても、それ自体に意味がある。ある理論が何かを説明するのに適していないことが分かれば、よりよい答えを求めてほかに目を向ける契機になるからだ。よい理論は、IF-THENの条件式で助言を与えてくれる。(p.77) |
以上、またこの第2章も上での抜粋と重複するところがほとんどですが、しっかりとまとめられています。(p.83)
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ここまでが第2章でした。
以下、まとめを見れば、全体像が分かるので、「章のまとめ」を抜粋していきます。
第3章「埋もれているジョブ」のまとめ(p.112)
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第4章「ジョブ・ハンティング」のまとめ(pp.147-148)
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第5章のまとめ「顧客が言わないことを聞き取る」(pp.188-189)
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第6章「レジュメを書く」のまとめ(pp.227-228)
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第7章「ジョブ中心の統合」のまとめ(pp.265-266)
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第8章「ジョブから目を離さない」のまとめ(pp.292-293)
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第9章「ジョブを中心とした組織」のまとめ(pp.328-329)
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第10章「ジョブ理論のこれから」からポイントを抜粋します。
ジョブは、発見するのにも正しく理解するのにも努力を要する。・・・なかでも、気をつけるべき問題がふたつある。ひとつは、あなたや同僚が片づけるべきジョブを形容詞や副詞で説明しているとしたら、それは有効なジョブではないということ。ジョブを片付けるために顧客が必要としている「体験」を説明している可能性はあるが、このふたつは異なるものだ。・・・気をつけるべき問題のふたつ目は、ジョブには適切な抽象度が必要であるということだ。求めるプロダクトの構造が同種のプロダクト群のなかでしか満たされない場合には、そこに片づけるべきジョブのコンセプトは適用されない。つまり、同種のプロダクトでしか問題を解決できないのなら、それはジョブではないということだ。(p.338) |
これまで、イノベーションを生むための考え方というのも種々雑多にありましたが、なかなか汎用的であったり個人的にピンとくるものもなかったのですが、さすがにクリステンセン教授です。分かりやすかったです。またリピートして読みたい部分も多々ありました。それゆえ、これまでの読書ブログのなかでもチャンピオン級の引用になりました。しっかり学んでモノにしたいと思います。