日本の人事を科学する 因果推論に基づくデータ活用


日本の人事を科学する 因果推論に基づくデータ活用

著者:大湾 秀雄…

最近、HR-TECHという言葉が出てきています。Human ResourceのThchnologyなんですかね。なんか変な造語の気がしますけどね。まぁITCのHRへの適応というのはかなり遅れてますから、やっとそこに気づいてというのもありますし、例の「働き方改革」のあおりもあるのでしょうけど。この著書もその流れを汲んでいるのでしょうか。そのあたりを意識しながら読んでいくことにしましょう。(Inobe.Shion)

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内容紹介
◆働き方改革の実行や、女性管理職の育成、労働生産性アップ、ストレスチェックなど、人事部門は、様々な課題について現状を正確に把握し、数値目標を立てて改善に取り組まねばならなくなった。本書は、多くの日本企業が抱えるこれらの人事上の課題を、データを使ってどのようなに分析し、活用すればよいのかを解説。◆著者が、株式会社ワークスアプリケーションズや経済産業研究所(RIETI)と連携して行ってきた研究成果を活かし、具体的に、読者が自分の会社で使えるように解説する。◆女性の管理職育成が候補者を選ぶところから行き詰まってしまうのはなぜか、早期退職者を減らすにはどうしたらよいか、労働時間管理をどのように行えば良いのかなど、具体的にいま日本企業が抱えている問題を取り扱う。

内容(「BOOK」データベースより)
女性活躍支援、働き方改革、採用、管理職評価、離職対策、高齢者雇用―問題点と解決策をデータで明らかに。戦略的人事設計の必読書。

ビジネスの世界では、さまざまな分野で、計画(PLAN)し、実行(DO)し、評価(CHECK)し、さらに改善のために行動(ACT)することが奨励されています。しかし、人事や組織改革に関して言えば、PLANとDOだけで評価と改善活動が欠けています。なぜでしょうか。(p.3)
なぜ人事ではデータ活用が遅れているのでしょうか。まず言えることは、人事部に配属される人は、文系が多く、そもそも統計リサーチが低いという現状があります。伝統的に人事の課題を扱う研究は「人的資源管理論」が主流でした。しかし、この分野の研究者も、定性的な分析に終始してきたため、人事管理の教科書を開いてもデータ活用の方法は一切出てきません。(pp.21-22)
日本企業特有の事情も、データ活用を遅らせたと考えられます。これまで多くの日本企業が、新卒採用一辺倒でした。画一的なキャリアトラックの概念を持ち、社員の一元的な管理を続けていたため、経験や勘に基づく運営がさほど大きな間違いを生み出さずに済んだのだと思います。しかし、グローバル化や女性躍進推進、働き方改革といった人事を取り巻く環境の大きな流れの中で、キャリアパスは多様化し、これまで伝統的企業が行ってきたような、同質的な社員集団を前提とした人材開発は機能しなくなっています。(p.22)

確かに人事システムって、何かバタ臭いところがあるように思います。そんなにたくさん知っているわけではありませんが。そういえば、今度11月に大阪で開かれるHR-TECHでそのあたりを確認してきたいと思っています。

人事データで課題を解決するためには、もう一つ欠かせないものがあります。それは「問題意識」です。組織や制度のどこに問題があるかを自覚できなければ、せっかくの分析結果も、十分に活かすことができません。・・・データを分析し、課題を明らかにして、解決していけば良いのです。もちろん、解決するのも大変なことだと思いますが、課題が明確にならないことには、そもそも施策を打つことができません。大きな勝負の分かれ目は、問題意識を持ち、問題点に気づけるかどうかにあるのです。(pp.30-31)
メンタルヘルスへの影響は、どれだけ裁量権を与えられた仕事であるかにも大きく依存することが知られていますので、継続的に残業を行う労働者のほとんどが管理職やプロジェクトを任された中堅社員である場合には、それほど心配ないでしょう。それに対し、平均労働時間や長時間労働者の比率が低かったとしても、1割の社員に月100時間の残業が集中し、かつ裁量権や周囲からの支援が得られていないのであれば、精神疾患を引き起こす危険性は格段に高くなります。このことからも、部署ごとに集約された数字では、個人の負担感を正しく把握できないため、個人レベルの情報がどうしても必要です。(p.39)
XとYに影響を与える情報(Z)は、本来コトロール変数として回帰式の中に含めるべきものであり、これが欠落することによって正しい推定値が得られないという統計上の問題を欠落変数問題(omitted variable problem)といいます。(p.46)
経営陣に参加するには、さまざまな職能を経験することで得られる「職能横断的機能」が必要だということは、いくつかの研究が示しています。さまざまな部門での経験を通じて蓄積された知識や能力は、会社全体でどのように業務が進められているかについて全体像の把握を可能にし、多種多様な問題の解決能力を高めます。また、さまざまな職能の仕事を理解することで部門間のコーディネーション能力も向上します。(pp.89-90)
離職率を上手くコントロールできないということは、人的資源を有効に活用できないということとイコールで、競争的な市場で勝ち抜くことはできません。また、少子化で労働力が減る中、社員の定着率を上げることは今後一層競争力の源泉として重要になってきます。高い離職率は、採用や研修のコストの上昇だけでなく、研修リターン低下を通じ、研修そのものの削減につながります。加えて、社員自身の技能獲得意欲も低下させ、生産性の低下をもたらすでしょう。(p.166)
離職率は入社初年度が最も高く、その後勤続年数が上がるに従い、低下していきます。その理由の一つは、その企業でしか使えない知識や技能を従業員が体得するに従い、離職することで失う所得(経済学用語では機会費用と言う)が、上昇するからです。二つ目に、会社の社風やビジョンに共感できない、あるいは業務の厳しさについていけない人が辞め、結果的に社内には相性の良い人の割合が高くなっていくためです。これはセレクション効果と呼ばれています。(p.168)
離職率と逆の動きをするのが賃金曲線(または賃金カーブ)で、これは勤続年数や年齢とともに右上がりになります。従業員の育成費用は減り、一方で技能習得によって生産性が上昇するからです。知識や技能など、この生産性を押し上げるものを、私たちは「人的資本」と呼んでいます。生産性に影響を与えるものとは、学校や職場で学ぶことだけでなく、健康や人的ネットワーク、信頼関係など、その人がいなくなると消失してしまうものすべてを含む広い概念です。(pp.168-169)
大事なのは、この人的資本が一般的で汎用性のあるものなのか、あるいは、その会社特有のものなのかということです。他社でも通用する技能や知識を「一般的人的資本」と呼び、その企業特有のものを、「企業特殊的人的資本」と言います。前者は、転職後も活かしやすい技能ということになりますし、後者は、転職後に活かしづらい技能ということもできるでしょう。企業で蓄積される技能経験のうち、どのくらいが一般的で、どのぐらいが企業特殊的かというのは、職種や事業モデル、組織や職の設計に大きく依存します。(p.169)
途中で辞めても従業員にとって大きな損がないため、一般的研修の多い企業は、従業員が転職しやすい企業であることがわかります。一方で、企業特殊的研修の多い企業は、会社も従業員も、その関係を続けていくことに大きなメリットがありますので、長期雇用が基本になります。賃金が正しく設計されていれば、離職率と企業特殊性との間には、負の相関が出てくるはずです。つまり、人的資本の企業特殊性が高くなるほど、離職率が下がるという関係です。日本の製造業でおしなべて離職率が低く、宿泊業・飲食サービス業・不動産業等で離職率が高くなるのは、大部分このメカニズムで説明できます。(p.173)
人的資本の特性の異なる企業間では、定着率を高めるためのアプローチも変わってきます。仮に、自社で必要とされる技能が一般的なものであるならば、市場賃金に合わせた処遇を与え、賃金体系の歪むを最小にするということ、そして自社が低コストで滞京できる研修機会を増やすことなどが、一義的に有効です。逆に、企業特殊的人的資本の比率が高いようであれば、長期的な雇用関係の構築が重要ですので、労働時間など労働条件を見直したり、社内で選択できるキャリアの多様化を図るなど、賃金以外で従業員を惹きつける努力が必要でしょう。採用における差別化やスクリーニング力を強化し相性を改善していく方法も有効です。また、年功賃金など長期的なインセンティブを利用していくことも必要になってくるでしょう。(p.173)
かつて多くの日本企業では、遅かれ早かれ社員の多くが中間管理職になることを前提に、人事制度を設計していました。しかし、会社の成長が停滞し、社内の高齢化が進む中、社員の多数を中間管理職にすることが不可能になったのです。さらに、適性のない人を中間管理職に据えると、若い部下たちが伸び悩み、生産性の低下や離職率上昇、ひいてはメンタルヘルス悪化(これは適性のない管理職本人にも当てはまる)につながりかねません。(pp.187-188)
中間管理職が何らかの形で、部下の生産性に貢献していることはよくわかりました。では、良い上司は、どのような経路を通じて部下の生産性を引き上げているのでしょうか。生産性に影響を与える中間管理職の役割は、大きく以下の4つにまとめられます。(pp.193-194)

  1. 情報収集と戦略立案:市場動向、顧客ニーズなどの新たな情報を集約し、最適な戦略を立案する
  2. 他部署との調整:他部署と協調して意思決定を行う
  3. 評価と配置:部下の能力を評価し、それにもとづき職務への適切な配置、責任の配分を行う
  4. 部下の教育と動機づけ:部下の生産性を上げるため、必要な技能を身につけるためのトレーニング、コーチングを提供し、褒賞、キャリア設計を通じた動機づけを図るとともに、進捗状況を管理する
上司が見ているパフォーマンスと、本人が自分で「できている」と考えるパフォーマンスとは、往々にしてズレがあるものです。多くの人間が、成功は自分の能力や努力によるものだと考え、失敗は自分の制御できない要因によるものだと捉える傾向にあり、心理学では、これを自己奉仕バイアス(self-serving bias)と呼んでいます。その結果、実際よりも自分の貢献を大きく評価してしまうのです。ですので、上司がなぜそのように評価したかを本人に明確に伝える努力を怠れば、部下は、「正当に評価されていない」と不満を感じます。人事考課は、単に評価するだけでなく、フィードバックを与えることに意味があります。・・・部下の納得感を高め、やる気を維持した上で、評価を上げるためにはに何が必要か、明確な方向性を示してやることが上司の務めではないでしょうか。(p.196)

●上司と部下の性格の差異が評価に与える影響(p.197)

    全社員 営業職
の社員
バックオフィス
の社員



プラス
に作用
明朗性
(上司>部下)
誠実さ・責任感
(上司>部下)
マイナス
に作用
積極性
(上司>部下)
緻密性
(上司<部下)



プラス
に作用
外向性
(上司>部下)
明朗性
(上司<部下)
マイナス
に作用

たとえば、営業職の社員では、性格診断の積極性において、上司が部下よりも目立ってポイントが高い場合、部下の業績評価が低く出る傾向が強いことが分かりました。また、バックオフィスの社員では、誠実さ・責任感において、上司が部下よりもポイントが高い場合、部下の業績評価が高く出る傾向にあることが示されました。

管理職の貢献度を測るもう一つの方法は、多面(360度)評価を活用するというものです。・・・多面評価を導入する意味としては、管理職社員の上に立つ上司(以下、上長と呼ぶ)が、部下である管理職を評価する場合、上長には見えていない情報を捉えられることにあります。その管理職が部下に対し適切な指導をしているか、他部署の管理職(同僚)とうまく連携して仕事を進めているかどうか、上からは見えづらい情報があります。多面評価はそうした情報を提供できる可能性があります。(p.200)
故青木昌彦スタンフォード大学名誉教授は、組織が効率的であるためには、情報構造が分権的である組織は集権的な人事システムで補完することが必要であり、一方で、情報構造が集権的である組織は分権的な人事システムで補完することが必要だと結論付けました。これを双対原理と呼び、類型化された日本企業(前者)と米国企業(後者)の違いとして説明したのです。情報構造が分権的な組織というのは、組織の下位の人に権限が委譲され、根回しとしう言葉に象徴されるように、横の情報共有や連携を通じて、意思決定がなされることを指しています。それを支えるために、職能横断的な知識を持った忠誠心の強いジェネラリストが不可欠で、彼らの育成と配置を計画的に行い、長期的な評価に基づく処遇を提供するために人事機能は集権化せざるを得ないというのが青木理論でした。新卒採用、年功的賃金、ジョブローテーション、終身雇用などが、この人事システムを支える補完的制度でした。(p.234)

非常に興味深い著作でした。最後にも書かれていますが、デリケートなデータなだけに、なかなか普通の人が扱えないという実情があります。ただでさえ、数の少ないデータサイエンティスト。そういった人たちは、なかなか人事部門に配属されるということもないでしょうから、そう考えると人事データの分析というのはハード面でもソフト面でも難しいところです。しかもこれだけ環境変化が激しい中で、結果が見えるのは先のことになりますし、しかも企業のなかだけで起こっていることがすべての変数ということでもないわけで、もっとたくさんの変数があることでしょうから。

とはいえ、この著作の事例にあるような各種分析をすることでいろいろな仮説は見えてくると思います。その仮説について、「なぜ」を考えていくことで、新しい問題点(らしきもの)についても見えてくるかもしれません。

なかなかここまでリアルに分析したような著作は少ないと思いますので、希少な価値のある著作だと思います。

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