M&Aを成功に導くPMI 事例に学ぶ経営統合のマネジメント
著者:三宅 卓
内容紹介 企業が真に統合を成し遂げるまでの不断の取組み、つまりPMIこそ、M&Aの真髄であると、私は思うのです。アメリカの有名ファンドであるリバーサイドに幾度にわたり訪れ、その方法論を学んだ著者による、最先端のPMI手法とM&Aにおける成功事例の解説。 統合のシナジーを実現し、会社を成功させる ポストM&Aのプロセスとは |
★読書前のaffirmation!
[きっかけ・経緯]
[目的・質問]
[分類] 335.46:合併.精算.第二会社, 企業買収
買い手となる企業の中には、これといった戦略もなく、取引先の銀行から言われるままにM&Aを実行に移してしまうところがある。「勧められたから」という受け身のM&Aや、「いま規模を拡大しておかなければ、同業他社に後れをとるのではないか」という焦りからくるM&Aだ。そのようなM&Aでは、M&Aを成立させるための資金は投入しても、その後の統合過程には意外と注意を払わなかったりする。買収対価を相手株主に支払うことで、万事がうまくいったとばかり、錯覚してしまうようなケースだ。その結果、買収はしたものの、期待したほどの販売力や技術力がなかった、思いのほか業績がよくない、シナジーが出ないといった経営上の問題を抱えることになる。(p.22) |
とくに買い手企業にとっては、調印式はゴールではなく、M&Aによる果実を手にするためのスタート地点であり、そこからの経営統合のマネジメント、すなわちPMIの戦略と手腕が問われることとなる。では、どのようにPMIを進めれば、買収や合併による効果を最大化し、果実を得ることができるのだろうか。(pp.23-24) |
p.24~PMIを成功させるための重要なポイントが挙げられています。
①譲渡企業に対するデューデリジェンス
②統合を支援するマネジメントチームの結成
③シナジーを得るための目標の設定
①について
PMIはデューデリジェンスから始まるといわれているが、その言葉に象徴される通り、この段階で企業における収益性やリスクをどこまで把握できるかによって、統合後のマネジメント戦略が大きく変わってくる。(p.24) |
②について
買収後に子会社となった企業をマネジメントするには、場合によっては社長や財務責任者を外部から招く必要があるかもしれない。親会社と子会社とを結ぶには、統合の中心人物となる人物(インテグレーター)も必要だ。インテグレーターは、情報システムやKPIの共有化だけでなく、統合された企業内でマネジメントチームや、さらには双方の社員とのコミュニケーションを十分にはかり、企業文化の融和を進めるといった支援も行わなければならない。(pp.25-26) |
③についてがこれは難易度が高いです。
シナジーを得るために、ビジョンや理念の策定といった企業の存在そのものにかかわる部分で支援が求められることもある。目標の達成のために、売上げや利益だけでなく、社内の各部門で、開発期間の短縮や生産管理コストの削減、ブランド価値の向上など、期限を区切った目標の設定と、その実現に向けてプロセスや進捗の管理を行わなくてはならない。PMIによって買収した子会社が順調に成長すれば、親会社は、連結決算や配当で子会社の利益を取り込むことで、企業価値を上げることができる。子会社にとっても、売上げが増加して利益が増えれば、独自の投資も容易になり、経営をプラスのサイクルに持ち込むことができるようになる。(p.26) |
M&Aの手順の中には、それを注意深く確実に行わなかったために、PMIの段階になって、統合の作業にマイナスの影響を与えるステップがある。そのひとつが、「ファーストビジット」だ。ファーストビジットとは、買い手側と売り手側、双方のトップによる最初のコンタクトのことで、日本では「トップ面談」と呼ばれる。当社もトップ面談を大変に重視しているが、リバーサイドでは、「ファーストビジットの際の第一印象がその後のすべてを決定する」とまで言う。ファーストビジットは、調査資料に現れない経営者の人間性や経営哲学を知るための機会であるからだ。(pp.78-79) |
買収後のトラブルは、買収側の「期待」が譲渡企業の経営陣に十分に伝わっていないことから発生することが多い。また、譲渡企業のオーナーがサラリーマン経営者になって責任が軽くなったために気を抜いてしまい、社内に緊張感がなくなり、期待した事業計画には程遠い結果になる場合もある。・・・買い手側が譲渡側に、事業計画や目標となる数字を伝えて合意をしていれば、目標からかけなはれた結果となった場合に、買い手側が報酬を下げたり経営トップの交替を要求したりしても、トラブルになることことはない。(pp.90-91) |
M&Aのシナジーを最大化するためには、速やかにPMIを進めなくてはならない。このスピード感という観点においてもリバーサイドに学ぶべき点は多い。・・・リバーサイドでは、「100日プラン」というPMIのノウハウを使って、経営統合のシナジーを追求する。これは100日間で統合作業のすべてを完了させることを意味するものではなく、100日というあくまでも目安だが、その内容は非常に精緻で示唆に富み、一般の事業会社がM&Aを行った場合にもそのまま応用できるものだ。(p.96) |
筆者は、リバーサイドがこのプランを「3か月プラン」と呼ばずに「100日プラン」と呼んでいる点が興味深いと言っており、3か月だと1か月ごとに区切りがついてしまい3つのサイクルになるが、100日だと100段階のステップの設定となり、進捗の確認が細かくできる点にも意味があると言っている。
リバーサイトによる「100日プラン」のノウハウを紹介しよう。具体的には次の7つだ。(pp.97-99)
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M&Aでは、買収された企業が子会社として単独で成長するのではなく、親会社とのパートナーシップのなかでシナジーを生むことが求められる。したがって、マネジメントチームの編成も、それを可能とするものでなければならない。多くの場合は、譲渡企業の経営者にそのまま経営を任せることになるが、ときに個性や独創性が強すぎて、チームの一員としては不適切な場合がある。・・・この場合は、社長には製造担当副社長や最高技術顧問、研究所所長などになってもらい、新社長には経営のプロを採用するというのもひとつの方法だ。子会社の経営計画や戦略は、親会社と子会社の経営陣が一体となって作成し、目標を共有する。戦略を実行に移し、目標の達成を実現するのは、子会社の社長にとって最も重要なミッションだ。(pp.100-101) |
財務責任者に関しては、補強を考えたほうがよいケースが少なくない。・・・成長戦略に則った事業計画を作成し、適切なKPIを設定して、それらをもとに毎週、毎月、PDCAを実践していくことになる。そこから浮かび上がる問題点に関して、財務責任者は経営陣や親会社に対して適切なアドバイスを行い、解決方法を提示していかなければならない。このような能力を備えている財務責任者は少ない。特にオーナー企業を買収した場合は、財務責任者には基本的な財務管理以上の能力はないと考えたほうがいい。ではどうすればよいか。まず、財務責任者としての責務を、買い手側が正確に伝えて実行してもらう。自分で進められない場合は、本社から指導を行う。場合によっては本社から子会社に財務担当者が出向して徹底的に現場教育を行う。それでもできなければ、早急に財務責任者を変える必要がある。(pp.101-102) |
経営戦略に基づいたM&Aでは、買収した企業の将来あるべき姿がはっきりイメージされている。買い手側企業のマネジメントチームと子会社の経営陣は、そのイメージをビジョンや目標に置き換えて共有する必要がある。100日プランの3つ目の項目である「戦略計画の策定」とは、一言でいえばビジョンと目標の数値化ということだ。ビジョンや目標が明確でなければ、買収された企業の経営陣は、親会社が何を望んでいるのかがわからない。 「これまでどおりの経営を続けていけばよいのか?」 「どんな相乗効果を期待しているのか?」 「どれくらいの成長スピードが期待されているのか?」 「利益水準はどのくらいが求められているのか?」 そこで、次のようなものが必要になる。 ・経営理念・・・何のために働くのか ・行動指針・・・どのように働けばよいのか ・年間目標・・・今期はどれだけ業績を出すのか ・中期目標・・・3年間でどこまで成長するのか ・インセンティブプラン・・・達成した時に得られるものは何か これらが明文化、あるいは数値化されていれば、社員は会社から何を求められているのかを把握でき、それに向かって進むことができる。「とりあえず頑張ってほしい!」などというあいまいな経営方針では、成長は期待できず、目標は達成できない。ところが残念ながら、私の実感では買収した子会社に対する方針が明らかでないケースが多い。そのため、戦略計画の策定においては、リバーサイドは「インテグレーター」を置くことを提案する。インテグレーターとは、買い手企業と売り手企業とを統合する役割を果たす人材のことである。その職責を果たすポストとは、子会社となった売り手企業の社長や重役、あるいは買い手企業(親会社)から出向してきた担当部長で、両者を統合しようという目的意識を持ち、その権限を持つ者がふさわしい。言うまでもなく、権限を振り回し、命令するだけの人材は不適任だ。子会社の社員の心を掌握できる人物でなければならない。(pp.102-104) |
M&A後は、親会社が買収した子会社を経営していかなければならない。その場合に、財務諸表でPDCAを行っていたのでは、すべての対策が後手に回ることになる。買収した企業を予定した成長戦略で成長させるためには、KPIで経営プロセスの管理を行っていくことが重要なのである。(p.110) |
例が挙げられていて、「売上げ」ではなく「売上げ+商談÷2」とすることで、実績としての売り上げだけでなく、将来の売り上げを生む商談での数字が入ったKPIが望ましいとのこと。(※ちなみに÷2は見込み獲得率)
さらっと書かれていましたが、今まで実績ベースで考えることが多かったので、この考え方は大変参考になりました。経営プロセスも含んだ未来も見える指標となり得ています。このあたりからも、こういったことを考えられる財務責任者が必須になるということに結び付きます。
買収後のPMIでは、 ・この企業の売上げや利益を決めているの要素は何か? ・売上げがあがるまでのプロセスで重要なファクターは何か? などを徹底的に検証して最適なKPIを決める必要があるのだ。(p.110) |
これらのことを実現するためには、優秀な営業本部長や工場長、そして財務責任者(CFO)が絶対に必要になる。優秀な営業本部長、工場長、CFOが協力して、現場に即した実用的で的確なKPIを設定してプロセス管理を行い、その結果に基づいて緻密な経営方針とアクションプランを決定してオペレーションしていかなくてはならないからだ。創業オーナーが経営している企業を買収した場合は、オーナー社長は「現場に立てばすべてがわかる」という人なので、KPIの必要性を感じておらず、CFOも単なる経理部長の役割しか果たしていないケースがほとんどだ。(p.110) |
M&A直後のコミュニケーション、すなわち買収の事実を知らせる「ディスクローズ(情報開示)」はひときわ重要だ。社員は「会社が買収される」と聞いて、大きな不安を抱き屈辱感を覚える。その気持ちを払拭して、ポジティブな方向に持っていけるかどうかは、社員へのディスクローズのやり方によるところが大きい。買収されたのは、買収されるだけの価値があるからで、その価値を買収側が評価するのだ。それを適切に伝える必要がある。(p.112) |
社員へのディスクローズに関してもうひとつ大切な点は、「やり直しがきかない」ということだ。失敗して、社員がいったん不安や屈辱感を感じてしまうと、それらが自己増殖を始める。・・・そのスピードは速く、一気に社内はネガティブな雰囲気に覆われてしまう。(p.113) |
カルチャーは、企業の歴史や地域の文化だけでなく、社員の習慣や感情にも関わってくる。いわば「感性」の領域だ。感性の部分が大きいだけに、お互いが歩み寄ったとしても、共通の土台を作り出すにはある程度の時間がかかるだけでなく、場合によっては困難なこともある。いったん、相手のカルチャーが「嫌い」となれば、それを「好き」に変えるのは、容易ではない。そのため、企業文化については時間をかけてお互いの理解を深め、新しい共通の文化を創り出せるように、企業文化の課題に対する要素をPMI計画の中に織り込むことが重要になる。たとえば、譲渡企業の社員が買い手側の企業に出向し、相手の企業文化を学ぶことは、お互いにとって大変有意義なものになるだろう。(pp,116-117) |
100日プランは無理に100日で終える必要はない。実際には150日でも200日でも構わない。100日にこだわりすぎて、買い手企業のやり方を押し付けて売り手企業のこれまでの経営を否定するような印象を与えてはならない。リバーサイドが強調するのは、はじめの100日をこれらの検討なしですませてはならない、ということだ。そして何より重要なのは、7つの項目を着実に実行することだ。それにより事業が次のステージへと成長するだけではない。マネジメントチームと社員もまた、成長という仕事における最高の果実を手にすることができるのだから。(pp.122-123) |
以下、ケーススタディーが3件掲載されていますが、いろいろと勉強になりました。