松下幸之助 理念を語り続けた戦略的経営者

日本の企業家 2 松下幸之助 理念を語り続けた戦略的経営者 (PHP経営叢書)

日本の企業家 2 松下幸之助
理念を語り続けた戦略的経営者 (PHP経営叢書)
著者編著:加護野 忠男

内容紹介
PHP研究所70周年記念出版「日本の企業家」シリーズ2巻目となる本書は、これまでの幸之助論と大きな違いがある。それは「“経営の神様”と称された幸之助の『経営戦略』と経営理念のかかわりに焦点を合わせ、編集したところにある――」(序より)。日本の経営学界を牽引し続けた編著者に、幸之助が創設したPHP研究所が全面協力。幸之助が経営上の競争優位を得る上で重視した成長戦略、組織・人材開発戦略等を分析、その核心に迫る。第一部[詳伝」には、幸之助自身の重要発言、関係者の証言や興味深いエピソード、さらに事業創造の成功要件が随処に織り込まれている。第二部[論考]では、事業部制等にみられる幸之助の戦略思想を解説。第三部[人間像に迫る」では、「日に三転」「対立と調和」「生成発展」等、幸之助哲学が凝縮された数々の言葉や、家族による貴重な発言記録を紹介。“時代の先駆者たちの躍動に真摯に向き合う”シリーズ、ここに刊行!

内容(「BOOK」データベースより)
「赤字は罪悪」「見えざる契約」「共存共栄」「生成発展」―幾多の至言に彩られるパナソニック創業者の事業創造の足跡。

★読書前のaffirmation!
[きっかけ・経緯] 企業家ミュージアムで紹介されたので。
[目的・質問] 幸之助さんのすごさを堪能する。
[分類] 335.1:経営学

企業家・松下幸之助を、「第一部 詳伝」、「第二部 論考」、「第三部 人間像に迫る」という三部構成で説明します。

特に、経営者としての「気づき」や「筋の通ったところ」を中心にピックアップしていきます。

商売は一回きりではなく、ずっと続く。松下は一切値引きしない。それが定着すると次第に相手にされなくなるだろう。そこで幸之助は、値段というものを最初から真剣に考え、できる限り安く、しかも安定した値段にするという姿勢に徹するようになった。その結果、「なるほど妥当な値段だ」と認めてもらえるようになった。値段に魂を添える。そういって、販売店に適正価格の価値を説いたこともある。魂とはサービスやのれんの信用のことを指す。(pp.37-38)

消費者は価格に敏感です。その消費者と商品をつなぐ、販売店、卸はさらに価格については突っ込んできます。それに負けない確固たるこだわりを感じさせるパラグラフです。

企業家ははたしてどんな心境で未来と対峙しているのか―。後年、バンク・オブ・アメリカの名経営者ルイス・ランドボルグと対談した際、幸之助はこう述べている。「経営者は学者ではないのですから、単に未来を予測するのではなく、むしろ未来を創造していくという心構えが必要でしょうな。“こうなるだろう”というのではなく、“こうあってほしい、こうあるべきだ”というビジョンを描いて、それを経営努力によって実現させていく。いいかえれば、未来を不確実なものでなく、確実なものにしていくということです。経営者にとっての真の先見性とはそういうものではないでしょうか。」(p.43)
任せる。任される。それは何か。権限であり責任である。「会社の発展していく姿というものは、そこの主人公一人の責任」だと幸之助はいう。自身は「いかなる場合でも、自分一人の責任だということを考えつつ、自分で自問自答しながら進め」、「同じうように、部の責任は部長一人の責任である、課の責任は課長一人の責任である」と従業員にも説いた。責任の所在を明らかにし、間違いがあれば責任を問うのは幸之助にとって至極当たり前のことだった。(p.52)
経済史家の作道洋太郎は、幸之助の価値を「伝統的な船場商法を近現代の関西商法として再編成し、松下哲学にまで高めたこと」に認め、「家族主義的経営を基礎にして、世界に輸出可能な日本的経営のパラダイムを創り出したこと」が注目に値すると評した。「『水道哲学』や『命知元年』の思想には、すでに戦後における高度大衆消費時代の到来を先取りした企業家精神がよく示されている。企業家精神とは、時代の変化を先取りして新機軸を生み出す革新的エネルギーであり、ある目的に向かって突進するパイオニア精神やチャレンジ精神を言うのであろう。幸之助氏のこうした思想や理念が、その後の事業展開に大きな意味をもつことになった」ともいう。(pp.76-77)
得意先との共存共栄を幸之助は強く願った。お互いの心を通わせ合い、絆を深めていくことを重視し、その商魂は、商品は“わが娘”、商品をお買いいただくお得意先は“わが親戚”といったふうに表現されることもあった。(p.82)
分社制に関して1936年にこんな発言がある。「経済上有利ではなく、また税金なども非常に高くなる」が「できるだけその部署部署にある人の力を生かしてもらい」、「思う存分に働いていただきたい」。だから分社制にしたのだという。「自分の仕事を喜んで行う人が一番幸福である」という信念を幸之助が持っていたことから考えれば、事業部制も分社制も、自主責任経営のもとに、構成員一人ひとりが一人一業、適材適所を実現し、それぞれの幸福をつかんでもらうための組織として機能することを目指していたことが見えてくる。(p.84)
経営学において、経営戦略の意味を考える場合、二つのものを区別をしておくことが必要になる。
第一は、企業家あるいは経営者が、みずからの頭の中で、企業の将来の設計図として描いている構想としての戦略である。ただ言葉あるいは計画として示された構想が、外部の観察者には分からない場合もある。構想は経営者の頭の中にあるもので、それを直接見ることはできないからである。その場合は、経営者の意思決定の軌跡から戦略を読み取らざるをえない。
そこで第二の、経営者の意思決定の軌跡としての戦略の存在を認めなければならない。しかしこれは、あくまで実際に実行された意思決定の軌跡としての戦略であり、経営者が頭の中に描いていた戦略とは異なることもある。また、この奇跡の背後に将来への構想があったかどうかはわからない。あったからこそ一貫した軌跡が生み出せたという場合もあるし、なくても、経営者の決定が適宜うまく行われていたために。あたかもこう背負うに従って行動したかのごとくの軌跡が描けたという場合もある。されにいえば、企業経営においてはたいてい、予測できない環境変化や反応が起こり得るから、構想された戦略がそのまま実行され鵜とは限らない。(pp.194-195)
現代の経営学では経営戦略の内容は二つに分けられる。一つは成長戦略または事業構造戦略、あるいはポートフォリオ戦略と呼ばれるものであり、もう一つは、事業戦略、あるいは競争戦略と呼ばれるものである。(p.195)
第二次世界大戦前、戦時色が強まる中で、幸之助が創業以来、従業員によく話していた商売観をまとめた「商売戦術三〇か条」というものがつくられた。

その30か条がこちらに書かれています。

幸之助の数多い人材観に関わる発言の中で特に注目すべきものをみてみよう。「私の経験からいうのであるが、人は、その会社にふさわしい状態において集めるべきだと思う。あまり優秀すぎても、時として困ることがある。こんなつまらん会社がと思われるより、この会社は結構いい会社じゃないかと言って働いてくれる人のほうがありがたい。分に応じた会社に、分に応じた人材ということでいいのであって、あまり優秀すぎる人を集めすぎても、かえってよくない場合があることを心したい」。
ここでは「適材」の必要性を言っている。会社の力量に応じた人材の確保が経営をうまくいかせる。・・・適材に「適所」を与えて、その人材を最大限活かすことが基本的な考え方であることがはっきりとみてとれよう。(pp.236-237)
企業経営にはおいては、偶然を起こす人を増やすことが必要になる。常にイノベーションを引き起こすためである。新たな事業を起こして、やがてどの企業にもやってくる停滞・衰退の危機を突破するためである。そしてそのイノベーターたちの獲得さえも、偶然の産物によることが間々ある。・・・この偶然の幸運は、他にもよい影響をもたらしたことが推察できる。彼らの登用は、プロパーの人材にとっておおいに刺激になったはずである。彼らも、プロパーの人材の意識に気を配り、行動したはずである。しかもその刺激をもたらす異質な人材が、松下の中で最も「松下らしい人材」となったことは興味深い。同時に、人材獲得において、偶然を生み出すうえで、それを引き起こした幸之助の旺盛な事業欲と受容力があったことも重要な要素と言えるだろう。
原理的に正しいこと、本質的に重要かつ大切なことを徹底してやっていくと、偶然に行き当たる可能性が高まることは、経営学の世界でよく言われることである。しかし偶然に行きつくまでに、必ず失敗は生じる。しかし失敗には、そのプロセスの中で、例えば生産技術や販路など、次につながる資産を生んでいる可能性がある。ただ可能性を、未来の事業に生かせるかどうかは、まさに経営者の力量にかかっている。(pp.240-241)
“経営は生きた総合芸術である”という幸之助の言葉がある。確かに、合理性を追求していくだけで、良い経営ができるのなら、幸之助も「経営はサイエンス」とか「経営はバランスシート」などと言ったかもしれないが、経営はそれほど単純なものではない。社員や関係者の創意工夫や努力を背負い、一枚のキャンバスに画を描くように、一体の肖像を彫るように、経営を行う。それらの作品が経営の成果である。幸之助はそう考えたようだ。(p.243)
アーティストの仕事観は、細部にまで徹底したこだわりをもつことによって、人をひきつけるデザインや芸術が生まれるということだろう。そしてそうした商業的にも優れた芸術作品を創るように、細部にまで魂が宿るような仕事、経営をすると、「アーリーウォーニング」という産物が、経営者にもたらされることになる。・・・この経営におけるアーリーウォーニングは、気づいてもつい見逃してしまうような場合もある。そうした風土が企業内に形成されてしまうと厄介である。それをさせないために、日頃から細部に徹底してこだわる雰囲気を会社全他に充満させておくことが必要になるのである。

アーリーウォーニング:アーリーウォーニング(早期警戒)とは、コンペティティブ インテリジェンスにおいて、競合企業や市場の動向、新規技術や顧客の志向の動きなどについて、いち早く変化の兆候を察知し、実際の経営判断に役立てて企業が陥りそうな危機を回避するためのシステムのことを指す。
http://leadershipinsight.jp/dictionary/words/early_warning.html

人間・松下幸之助の人生、人生観→企業、企業観(経営、経営観)がよく語られていました。いろいろと学び、感じることができました。

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