米軍式 人を動かすマネジメント
─「先の見えない戦い」を勝ち抜くD-OODA経営
著者:田中 靖浩
★読書前のaffirmation!
[きっかけ・経緯] OODAは個人的にホットなキーワードです。NCWなども合わせて調べている最中です。しかも著者は田中さん。以前、会計の本をよませてもらって、高い評価をさせてもらってますので、これはチェックです。
[目的・質問] D-OODAとは、、、それを学ばせていただきます。
どれだけ頑張って計画を作ったとしても、未来を支配することはできません。変化があまりにも激しい環境、ライバルや顧客がどう動くか分からない環境で当初の計画に固執する姿勢は大きな危険を伴います。思い通りにならないのが現実なら、見込み違いが起こった場合に「現実に合わせてすばやく修正できる」ものでなければなりません。(P.19) |
そういえばカルビーさんの事例などはまさにそれなんでしょうね。こちらにその記事が書かれています。
会社の経営に携わるようになってから四半世紀を越えるが、中期計画というようなものをつくったことがない。無論、中期5カ年計画というようなものをつくって経営を進めておられる会社と経営者を批判しようというものではない。ただ、概して中期計画は、つくるのに莫大な時間と労力、そしてお金が掛かる割にうまくいっても最初の1年だけ、3年もたつと忘れ去られてしまう。
日々変化する世界の中にあって、私には経営者として今から1年後の世界を予測する能力はない。ましてや5年後の世界、日本、産業、会社を予測・予知する能力は断じてない。今年の日経ダウ平均や外国為替など、正直言って競馬の予想以上に当てる自信はない。しかし、会社の経営という責任を担っているわけだから全く無責任でいられるはずはない。したがって、今年度および次年度の計画とその達成には大いにこだわっている。5年前、カルビーの会長に就任した直後、従来あった複雑怪奇、実現不可能な中期計画をお蔵入りさせ、新しく始めたのが〝Dreams Come True!〟。以降、毎年5月に2日間かけて楽しくやっている。 |
この話を聞いたときに目から鱗でした。この計画を立てなければならないという通念を崩せるかどうかがポイントなんでしょう。
私たちはそろそろ「変化の激しい環境」への対応を考えねばなりません。「変化の激しい環境」とはよく使う言葉ですが、そこには2つの意味が含まれます。ひとつは「想定できる変化」のスピードが速いこと。もうひとつが「想定できない変化」のスピードが速いこと。 前者であれば、従来型の計画と管理の体制をそのままに、スピードを上げることで対応ができるかもしれません。しかし後者の「想定できない変化」が起こる環境では、スピードを上げるだけでは対応が不可能です。(P.20) |
筆者は、日本人の「PDCA愛好」がそれに拍車をかけていると言及しています。
計画立案→計画未達→現場がやるべきことをやっていない
⇒⇒⇒「Do」を細かくチェックされるようになる
このように部下の行動を細かく管理するマイクロ・マネジメント体制の下では、直属の上司に言われたことしかやらない=評価されることしかやらない社員が増えていきます。厳しく行動を管理することが「受け身体質」を生みだしてしまうのです。無理な計画(P)、その達成に向けた行動(D)を詳細に管理するマイクロ・マネジメント。それには、「ウソつき」と「受け身体質」を増やす危険があります。(P.23) |
そしてもう一つの問題点を掲げています。
ITによる短期的なチェック(C)は、目先のことばかり考える「視野狭窄」な行動を引き起こしかねません。また、PDCAの最後に実行「A:Action」された結果は、十分に吟味、検証されることなく、次のPに反映されずに終わることが多いようです。なぜなら、みんな次の計画(P)をつくるkとに精一杯で、過去を振り返っている余裕がないからです。そこでは過去の反省を活かすことなく、毎度のように「対前年比」で計画が作られます。(P.24-26) |
そして筆者は、次のように述べています。
一刻も早く「ウソつき・受け身・視野狭窄」の社員たちを「動き・動かし・動ける」方向へ持っていく方法を考えねばなりません。
「想定できない変化」が起こる環境では、軍事でもビジネスでも、指揮官は同じ結論に至るようです。 「すべての未来を計画することは不可能である」 ならば「想定できない変化」にどう対応すればいいかを考える―ここにPDCAを超える新たな経営企画の道筋があります。(P.28) |
消耗戦 vs機動戦(P.34)
消耗戦 Attrition Warfare |
機動戦 Maneuver Warfare |
ホット・ウォー(熱い戦い) | クール・ウォー(頭脳戦) |
物的要素が中心 | 知性的要素が中心 |
正々堂々と戦う | 敵の弱みを突いて戦う |
事前の計画を重視 | 事後の臨機応変を重視 |
強者向き | 弱者向き |
機動戦を確立したウィリアム・S・リンドは、その原則として次の2点を指摘しています。
第一の原則:決まりきった型はない 具現化する機動戦のエッセンスを一言で表現すると「臨機応変な戦い」です。計画を忠実に遂行するより、目の前の現実に対応して臨機応変に動ける組織をつくる。それが機動戦の目指す形です。(P.36-37) |
最近のビジネスは、機動戦の2つの原則とは、まったく反対の方向へ進んでいるように思います。過去の成功体験や他社の成功事例を分析して、成功の「決まりきった型」を探しつつ、それを自社に当てはめて「同じことを2度する」方法を探る。しかし、そんなベストプラクティスを探すばかりでは、同じことを考えるライバルとの消耗戦が避けられません。(P.37) |
「思い通りにならぬ」ことを嘆くのではなく、想定外に対応できる個人と組織を作る。それよりむしろ、相手に「思い通りにならぬ」状況を作り出すよう努力する。計画づくりに時間を掛けるよりも、とにかく動く。計画倒れなど気にせず、失敗の経験から学んで次の対応を考える。私たちもスピードと柔軟性に裏打ちされた臨機応変のクールな戦いで、勝負しようじゃありませんか。(P.39) |
NCW(Network-Centric Warfare)の時も思ったのですが、理想形は、レオ・レオニのSWIMMYなんですよね。個が自分の役割を認識してチームとして動く・・
[embedyt] http://www.youtube.com/watch?v=ZUKJjVXT0Ko[/embedyt]
日本のビジネス常識であるPDCAはPから始まります。環境を分析してP=計画を立てる。その上でこれを適切かつ実直にD=実行する。その実行結果をC=チェックし、次の計画に向けてA=行動する。この一連の流れを繰り返すのがPDCAサイクルです。(P.45) |
これに対してOODAは「観察(Observe)・方向付け(Orient)・決心(Decide)・実行(Act)」の流れを繰り返すループです(ウーダループと呼ばれます)。はじめにくるのが「Observe=観察」。とにかく相手をよく観察すること。これがOODAのスタートです。自らの計画に固執するのではなく、相手をよく観察してその出方をうかがう。次に何をすべきか、過去の経験や知識を総動員して状況を判断します。この状況判断によって「Orient=方向付け」が行われます。その上で、Decide=決心し、Act=実行する。これがOODAの流れです。自分の計画から始まるか、それとも相手の観察から始まるか―ここがPDCAとOODAの根本的な違いと言えるでしょう。(P.45) |
PDCAとOODAの違いです。私もこのあたりずっと着目していたのですが、先に出版されたという感じです。といっても今の僕では書いても売れないでしょうけど・・・。早くパワーをつけないと。
敵の精神的な戦闘能力を失わせる機動戦では、相手をよく観察することによって、どこに重心(center of gravity)や致命的脆弱性(critical vulnerability)があるかを見抜くことが大切だとされています。重心や致命的脆弱性を見抜くには、思い込みを捨て、まっさらな心で周りを観察しなければなりません。だからこそリンドは「見ることよりも、感じることのできる指揮官」が求められるとしたのです。(P.46) |
まさに今の時代・・・・臨機応変さが何よりも求められているように思います。その時の行動に根ざす指針・基準・・・それが大事です。
ミッション・コマンドは、何のためにどんな理由で戦うのか(Why)と、戦闘によってどんあ勝利を目指すのか(What)が明確に示されます。これを示すのは指揮官の責任です。その指示されたミッションのもとで、部下はそれぞれ自主的に何をなすべきか(How))を自ら考えなければなりません。(P.49-50) |
このあたりは、OODAとは何かを知るのに重要なところですので、しっかりメモしておきます。
OODAに基づく新たなManeuver Warfareは、単に素早く有利な位置に移動するのではなく、敵の「知性的・精神的な戦闘能力」を失わせる戦いです。そこには敵に対して位置的にだけでなく、時間的・心理的に有利に立つという意味が含まれています。(P.52) |
新たに登場した機動戦は、敵を破壊することよりも、相手の遷移を喪失させることに重点を置きます。そこでは武器に変わり、人間のアイデアや柔軟な対応が勝負を決めます。機動戦では「動く」兵士を育てるOODA,それを「動かす」指揮法としてのミッション・コマンドが基本原則とされました。(P.53) |
ここでOODAとミッション・コマンドを強力にサポートするのが「情報」です。司令部はさまざまな情報をもとに作戦を立てつつ、前線の兵士たちに指示を伝えます。単なるデータ(インフォメーション)と、判断と行動に結びつく情報(インテリジェンス)を区別し、現場が迅速に「動ける」インテリジェンスを提供する。
「動く個人・動かすリーダーシップ・動ける情報」。これが機動戦経営の3要素です。(P.53) |
戦場においてスピードと奇襲で敵を圧倒し、精神的・心理的に優位に立つ。この米軍最新の機動戦は、意外なことに世界最古の戦略古典である「孫子の兵法」を参考にしています。孫子の兵法の冒頭「始計編」では、戦う前に検討すべき「5つの基本問題」と「7つの基本条件」が挙げられています。
まず「5つの基本問題」は「道・天・地・将・法」です。
これらの基本問題のすべてにおいて、将は自軍が優位に立てるようにしなければなりません。それができたなら、次に「7つの基本条件」について自軍と敵軍の優劣を検討し、勝敗の見通しをつけます。
ここで五事は「自らの能力を強化すべきポイント」であり、七計は「戦う前に検討すべき彼我の優劣」であると読めます。まずは「自らを高め」、そして次に「自分と相手の優劣を十分に検討せよ」というわけです。(P.54-55) |
孫子は戦いに当たって、次の順番を明らかにしています。(P.56) ①自分の能力を高める ②自分と敵の優劣をしっかり見極める ③臨機応変に敵の意表をつく戦いで臨む |
フランスの生物学者ルネ・デュポスは、次のように述べています。「複雑な生命現象を分析的に切り崩していく一段ごとに、魅惑的で重要な問題が出現してくることは疑うべきもない。しかし、あまりにもしばしば、その途上でもともとの問題が見失われてしまうことを、経験が示している。(P.194) |
現在の米軍では作戦計画の作成・立案に当たって、「オペレーショナル・デザイン(Operational Design)」が重視されている事実を知りました。オペレーション・デザインは、指揮官と幕僚がそれぞれの知識と経験をもとに、協力して行うプロセスであり、それは小さな「戦術」の集合を、大きな「戦略」の目標へと橋渡しする「作成の大筋」をつくります。オペレーショナル・デザインではまず、指揮官が指針を示します。その後、指揮官と幕僚が自らの「経験・関心・創造性・直観・教育・判断」について対話を重ねて互いに理解し、共有します。(P.216) |
冒頭にも書きましたが、これからの時代、「想定外」だらけになってくると思います。「個」の力があってこそのチーム力となってくると思います。「個」の力がある人はどんどん高く買われていき、人事制度なども大きく変わってくるし転職市場などにおいてもますます「個」の勝ち負けがはっきりしてくるような気がします。
■— 追記 ———————-
最後に掲載されている航空自衛官の伊藤さんの解説が秀逸です。
そしてその伊藤さんの詳細解説部分がpdfになってアップされています。
ぜひ、本書と合わせてお読みいただけると良いかと思います。
pdfファイルはこちらです。