AI審査モデルの基礎知識 モデルのしくみと信用リスク管理

AI審査モデルの基礎知識 モデルのしくみと信用リスク管理

著者:尾木 研三

 

FinTech時代を生き抜くための必読書!
◆AI(人工知能)は人間に取って代わってしまうのか
◆新時代の信用リスク管理に必要な知識とは
◆「文系でも分かる」AI審査モデルの新しい入門書■竹原 均 氏(早稲田大学ビジネススクール教授) 推薦!
「AI審査モデルの実力を正しく知ることができる。金融機関はもちろん、フィンテックの実務家にも必須の書」
■枇々木 規雄 氏(慶應義塾大学理工学部教授) 推薦!
「信用リスク管理の基本的な知識と実務への応用力が養える。学生にとってもわかりやすい良書」

下記のような構成になっています。

PART.1 中小企業融資におけるAI審査モデルの活用法
1 AIスコアレンディングの概要
2 AI審査モデルの特徴
3 AIスコアレンディングの現状と課題
4 活用の留意点
5 AI審査モデルの活用方法
PART.2 AI審査モデルのしくみ
1 モデルの構造
2 モデル構築のプロセス
3 モデルの評価・検証方法
4 モデルで評価できること、できないこと
PART.3 AI審査モデルを使った信用リスク管理
1 銀行の信用リスク管理の概要
2 近代的個別与信管理
3 与信ポートフォリオ管理1―EL管理
4 与信ポートフォリオ管理2―UL管理
PART.4 AI審査モデルの最新技術
1 ブラックボックス型AI審査モデル
2 経営者の資質を評価する技術
3 景気変動を考慮する技術
4 デフォルト後の回収率を推計するAIモデル

機械学習のノウハウは知っている人が、実務において与信審査モデルの作成に携わる際に必要となる知識が網羅されています。それゆえ、モデルの作成のことが詳しく知りたいという方向けではないのでそこのところはご確認下さい。

与信に関わる用語や知識を大きく理解するにはうまくまとめられていると思います。

 

米国の中小企業向けAIスコアレイティング企業の例 OnDeck社が使用している主な情報(p.18)

企業情報 ・メールアドレス、住所、電話番号
・社会保障番号、納税者番号
・会社規模、業種
口座情報 ・銀行取引明細、残高
・クレジットカード取引明細
信用情報 ・ExperianやEquifaxなど信用情報
評価サイト ・YelpやGoogle Places利用者のレビュー
公的データ ・訴訟案件の履歴
・先取特権の履歴
会計データ ・Quickbooksなどクラウド会計の財務情報

芝麻信用が使用している情報(p.19)

経歴 年齢、学歴、職業等
返済能力 金融資産、不動産の価値等
信用履歴 クレジットカード、ネット通販の履歴、公共料金の支払い履歴等
人間関係 SNS交流状況、友達の数・質等
行動傾向 趣味、寄付の有無、ボランティア等の生活行動

この芝麻信用スコアを使った事業資金融資は、310モデルと呼ばれている。申込3分、審査1秒、人手は0という意味で、1件あたりの審査コストは50円と言われている。(p.19)

ホワイトボックス型では、クレジット履歴がないと信用スコアを付与できなかったが、ブラックボックス型ではクレジット履歴がなくてもSNSや口座情報などを使って信用力を評価すれば、スコアを付与することが可能になる。(pp.26-27)

業種についても、商業簿記と工業簿記があるように、卸・小売業と製造業とでは決算書の構造が異なるため、財務比率も異なる。そのため、業種ごとにモデルを構築することが一般的である。ただ業種をどの程度の大きさの区分(大分類、中分類、小分類など)で分けるのかの判断が難しい。(p.100)

米国の刑事学者であるフランク・ナイトは、著書「Risk, Uncertainty and Profit」のなかで、確率によって予測できる「リスク」と、確率的事象ではない「不確実性」とを以下のとおり明確に区別している。(p.129)

【リスク】
起こり得る事象が分かっていて、それが起きる確率も事前に分かっているもの→測定可能な不確実性
【不確実性】
起こり得る事象は分かっているが、それが起きる確率が事前には分からないもの→測定不可能な不確実性

銀行経営を取り巻くさまざまなリスク(p.130)

リスクカテゴリー 管理手法
信用リスク 格付け、ポートフォリオ管理、個別与信管理等
市場リスク リスクリミット設定、ポジションリミット設定等
流動性リスク 緊急時対応体制の整備、ガイドラインの作成等
オペレーショナルリスク CSA、損失データ分析、リスク指標等
事務リスク 業務プロセスの改善、研修、OJT、事務指導等
システムリスク コンティンジェンシープランの作成、管理基準の設定等
その他 人的リスク、レピュテーショナルリスク、法務リスク、有形資産リスク等

信用リスクには2つに分解できる。1つは、貸したお金が返ってこない可能性がどれだけあるのか(デフォルト確率/PD)、もう一つは、返ってこないとしたら、貸したお金の何割が返ってこない可能性があるのか(デフォルト時損失率/LGD)である。バーゼル銀行監督委員会では、1年後に予想される損失額EL(Expected Loss:期待損失もしくは予想損失)と定義している。ELは貸倒引当金の算出や金利の設定など、銀行にとって重要な数値で、下式で計算する。(p.131)

EL = EAD x PD x LGD

EL(Expected Loss): 予想損失額
EAD(Exposure At Default): デフォルト時の予想残高
PD(Probability of Default): デフォルト確率
LGD(Loss Given Default): デフォルト時損失率
※LGDは 1 – 回収率(RR:Recovery Rate)で計算される

2つの信用リスク管理手法(pp.131-134)

個別与信管理 審査
(企業評価、担保評価など)

モニタリング
(信用状態の把握、返済状況の監視など)

債権回収
(返済条件変更、法的債権回収など)
与信ポートフォリオ管理 リスク計測
(EL・ULの計算、VaR・ストレステストなど)

リスク・コントロール
(格付け構成や業種構成、与信集中などの管理、融資のスタンスや営業戦略の評価と見直しなど)

リスクヘッジ
(金利設定、自己資本管理など)

二つの管理手法のトレードオフ(p.136)

個別与信管理 審査やモニタリングによって個別企業の信用リスクを管理する方法 数が少ないほど精度が上がり、コストもかからない
与信ポートフォリオ管理 ポートフォリオ全体の信用リスクを管理する方法 数が多いほど精度が上がる、コストは数の制約を受けない

尾木・森平(2013)は、中小企業のデフォルト率に影響を与えるのマクロ経済要因は、短期金利、長期金利、為替レート、銀行の貸し出し残高、株価インデックスで説明できることを明らかにした。(p.204)

分かりやすく書かれていて、勉強になりました。

 

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