著者:スティーヴン・マーフィ重松 …
非常に含蓄に富んだ一冊。いまのリーダーシップの在り方など大いに勉強になります。(Inobe.Shion) |
内容紹介 スタンフォードで必須とされるリーダーシップ講義。 心理学者が学生たちに教える「人心の科学」とは★スタンフォード大学医学部で開講される 「人心原理」から「支持の仕組み」を読み解く授業、 独占・初公開 ★展開されるのは、心理学×脳科学×緻密な企業調査で算出された 「超・現実的な組織論」と「超・具体的なやるべきこと」 ★「集団心理」がリーダーに牙をむく。 残酷な部下心理に立ち向かう、エビデンスベースの具体策の数々 ★ハーバード、東大、スタンフォード…… 世界のトップ大学で教鞭を執った著者が そのエッセンスを1冊に凝縮! 世界最高学府・スタンフォード大学で「必須」とされる ・人は、「優秀な人」が嫌い アサーティブ・リーダーの実態、 現職のリーダーも、これからリーダーになる人も、 0章 残酷な集団――なぜ組織に「境界線」があるのか? リーダーを取り巻く現実 1章 Assertive Leaderが人を動かす――求心力ある先導者 2章 Authentic Leadership――人心を掴む「土台」を築く 3章 Servant Leadership――本物の「信頼」をたぐり寄せる 4章 Transformative Leadership――チームに「変容」をもたらす 5章 Cross-Border Leadership――持続的な「最良の関係」を確立する |
心理学は社会科学の一つであり、人間の心と行動の結びつきを知るための学問だ。つまり、心理学者は「心についての知識」を得ただけでは意味がない。「心についての知識+心を持つ人間がどう行動するか」個の2つを知っておかなければならないのだ。(p.3) |
私たち一人ひとりにリーダーになる能力があるし、そうなるべきなのだ。違いは、それを自覚しているかしていないか、あるいは能力があると信じるか信じないか、それに尽きる。(p.5) |
「リーダーは人を動かさねばならず、人はシステムやロジックではなく、心で動く」人を動かすために必要なのは、人間の真理への洞察だ。だからこそ、心理学というフィルターを通じてリーダーシップを考察する意義がある。(pp.6-7) |
私たちは、「この人についていきたい」という偉大なリーダーを探すのではなく、自分自身の中にリーダーを見つけなければいけないのです」(pp.7-8) |
私たち一人ひとりが「自分が今、何をすべきか」を決定せねばならず、全員がその決断をシェアして―すなわちリーダーシップを発揮して―最終的な判断を下し、最善の道へ一体となって進んでいく。これこそ、仕事の現場で最高のパフォーマンスを発揮するといおうことだ。リーダーシップを備えた人がお互いに影響を与え合う職場は、組織として強くなる。また、リーダーシップを発揮する働き方は、その人個人を成長させる。ポジションや報酬など、具体的な成果ももたらしてくれるはずだ。(p.9) |
このあたりは、まさしくOODAループに通じるところ。自らが主体的に行動するというところ。ある意味リーダーシップということになるのでしょうか。
「カリスマ性があり、決断力がある者こそ、リーダーにふさわしい」こうした考えが長らく定着していたのは、アメリカも日本も同じだ。だが、「強すぎるリーダー」であるがゆえに自分もチームも不幸にしてしまうケースは少なくない。・・・人を率いる以上、リーダーは強くなくてはいけないが、「強すぎては」いけない。そもそも、「本当の強さとは何か」を理解しておかなければならないのだ。(p.41) |
リーダーとは完璧な人間ではない。失敗も間違いもするし、弱点もある。そのような自分の弱さ(ヴァルナビリティ、vulnerability)を認められることこそ、本当の強さなのだ。(p.43) |
本当に強いリーダーは、強すぎない。率直に自分の弱さを認めることができる。・・・・弱さを見せる行為だが、おもしろいことに部下たちは、「上司のくせに、こんなことも知らないのか」と馬鹿にしたりしない。あなたの率直さ、潔さ、正直さが「人間として信頼できる」という実感を部下にもたらすのだ。また、「自分も分からないことがあれば言っていいんだ」という安心感を、部下に与えることもできるだろう。(pp.44-45) |
部下は「はい」と答えながら、内心でリーダーを厳しく採点していることがある。人には、「受け身の攻撃性」という心理があり、敵意と否定を微笑みに包み込んで隠している。これは一見おとなしいようだが、紛れもなく言葉にならない攻撃だ。・・・あまりにも”一目置かれる表現”にこだわりすぎると「優秀さのアピール」という間違った方向に行ってしまう。それだけは注意してほしい。(p.47) |
強すぎるリーダーは、たとえ小さなチームであっても「トリクルダウン理論」を持ち込む危険をはらんでいる。(p.53) |
トリクルダウン理論(トリクルダウンりろん、英: trickle-down effect)とは、「富める者が富めば、貧しい者にも自然に富が滴り落ちる(トリクルダウンする)」とする経済理論であるが、立証されていないため「トリクルダウン仮説」とも呼ばれる[1]。均霑理論(きんてんりろん)とも訳される。その後のOECDによる実証研究ではトリクルダウン理論の有効性に否定的な結果が出ている。(Wikipediaより)
リーダー個人の成果ではなく「チーム全体の成果」にリーダーが焦点を合わせることで、結果的に何倍もの成果が生み出されるという心理学の研究だ。どんなふうにして個人としてもチームとしてもパフォーマンスを上げるのは、本書で取り上げる理想のリーダー「アサーティブ・リーダー」の在り方そのものだ。(pp.54-55) |
ル・ボンによると、集団の中で個人は変わる。つまり、育ってきた環境や教育などによる「その人らしさ」が、集団のなかでぼやけてしまうのだ。そして、その人の個性が消えると、集団全体の「性格」のようなものが生まれる。その要因としてル・ボンが挙げているのは、「数」「伝染」「暗示されやすさ」だ。(p.56) |
「集団の心理とは、人間最古の心理である」とフロイトは述べている。人類がまだ洞穴で暮らしていた頃から、集団心理は存在していたというのだ。つまり、集団心理と個人心理の両方を理解しておかなければ、人間の心は理解できない。そして、人の心が理解できなければ人を動かすことはできず、真のリーダーシップは身につかないだろう。(pp.58-59) |
集団が考えを共有するために一番重要なのは”言葉”だ。だからこそ、リーダーにはわかりやすく伝えることが大切になる。しかしながら、考えの伝染力は比較的弱い。いっぽう、集団が感情を共有するために、言葉はいらない。表情、ボディランゲージ、声のトーンなど、言葉にならない非言語的な情報で感情は伝染していく。言葉を用いる考えの伝染に時間がかかるのに対して、感情の伝染は、まったく意識をしなくても、自然に、あっという間に広がってしまうのだ。(p.59) |
笑顔でいる人の表情を見た人は、別に楽しくなくても「ミラーニューロン」という神経細胞から脳や筋肉、臓器といった体組織に、あなたが目撃した感情の情報が伝達される。その結果、笑顔でいる人と同じ感情になることが、科学的にも判明している。ポジティブな感情であればチーム内に大いに伝染させるべきだが、注意したいのは、チームの一人が抱いたリーダーへの不信感も、ほかの人に伝染していくことだ。(p.60) |
イェール大学の社会心理学者、アーヴィン・ジャニス博士は集団心理が強くなる要素として次の3つを挙げている。
3つの条件に当てはまった集団は、個人の意見をなくし、集団心理にとらわれてしまうという。ここから、「日本人は集団心理に呑まれやすい」という仮説が導ける。(p.63) |
現状維持バイアス(status quo bias)は二択でも働くが、面白いことに選択肢が増えれば増えるほど、このバイアスは強くなる。・・・選択肢が増えたことで失敗を恐れる心理が敏感に働き、いっそう現状維持バイアスが強くなるのである。(pp.65-66) |
人は変化を怖がる。特に「変化を与えられる者」にはその心理が強く働きやすい。また、人が「チェンジ」を拒むのは、潜在意識に変化への恐怖があることも影響している。・・・チームは一度作ったルールを変えたがらないし、それを変えようとするリーダーに対しては「現場のことがわかっていない」「勝手に決めつけている」と静かに反旗を翻すのである。そして、ひとたびチームがリーダーに対して嫌悪感を抱くと、その評価は「集団心理」と「現状維持バイアス」が掛け合わさってなかなか覆らない。リーダーにとっては、まさに頭を抱えたくなる事態だろう。(pp.67-68) |
何人もの心理学者が、人間は「集団」になった途端、変化をより強く拒絶するという性質について考察している。チェンジが強いチームは「みんなと一緒だから大丈夫」と、全員で茹でガエルになる危険をはらんでいるのだ。だからこそ、変化をうながすことはリーダーの大切な役割となる。(p.69) |
リーダーも、そしてチームメンバーもリーダーシップを発揮できる組織こそ、現状維持バイアスに打ち勝って危機から脱出し、さらに成果を拡充できる強いチームといえる。(p.69) |
予想外、あるいは理解不能の状況に出くわして感じる不安や苛立ちを、心理学では「ディスオリエンティング・ジレンマ」という。・・・科学の発展やテクノロジーの開発が、想定内に進むことはあり得ない。過去を遡ればわかるとおり、大きな発明は偶然が作用して、突然姿を現すことも少なくない。・・・リーダーシップを発揮して必要があるときは、チームを変え、そして不確実な世界を生き抜くためにリーダー自身、変容し続ける姿勢が求められるのだ。(pp.71-72) |
「強すぎるリーダー」「偉大な指導者」は年功序列の影響もある古い時代のものだ。しかし、これからは「リーダーとフォロワー」という構造が崩れ、集団心理うごめく中、不確実で曖昧な時代が訪れる。そこで一人ひとりがリーダーシップを発揮して状況に適切に対応していくには、次に挙げる4つの要素を踏まえたリーダーシップが重要となってくる。
①積極的なリーダーに必要な「個人としての土台」 この4つのリーダーシップを身につけることで、本書で理想とする「最高のリーダー」になることができる。それこそが、弱さを認めつつも積極性を発揮し、自分もチームも変えられる「アサーティブ・リーダー」という存在だ。(p.73) |
エゴとお県境のバランスをとることは、とても難しい。大切なのは、「難しい」と意識して努力すること。毎日、毎日、努力し続けること。それでも、時にバランスは崩れるだろう。だが、難しいと知ってバランスを保とうと努力するその営みこそ、求心力のある「アサーティブ・リーダー」になるうえで欠かせないのではないだろうか。(p.78) |
心理学的に見ると、リーダーはアサーティブであるべきだ。assertiveとは、直訳すれば「主導型」。「積極性」という意味もある。そして、いつもアサーティブに振る舞うというより、「アサーティブな人になる」ほうが様々な効果がある。(pp.78-79) |
積極的な強い主張や姿勢は、自分自身が成長するためには欠かせないものだし、組織の中でリーダーとしての役割を果たすときにも重要だ。あなたが役割としてリーダーで部下を持つ立場にあるのなら、積極的に主張し、人を動かそう。エゴと謙虚さのバランスをうまくとり、弱さを内包した本当の意味での強さをにつけよう。それがアサーティブ・リーダーである。(pp.81-82) |
■アサーティブ・リーダー:自分自身を尊重し、人を否定することなく、自分とチームの利益のために行動できるリーダー。エゴと謙虚さ、強さと弱さ。バランスがうまくとれているのがアサーティブ・リーダーである。
積極性は、自分の能力を最大限に引き出す。はっきりした主張は、成果を出すために不可欠だ。そして、自信に満ちて一歩前を歩く姿が部下や後輩のロールモデルとなる。顧客や取引先との関係でも、上司と部下の関係でも、アサーティブなリーダーが求められているのだ。(p.82) |
アサーティブ・リーダーは、自分自身を尊重し、人を否定することなく、自分の利益のために行動できる。その強みや特長は、次のようなものだ。
これらの要素は、「リーダーとしてのポイント」というより「人間としての厚み」だ。つまりアサーティブ・リーダーとは、チームをテクニックで引っ張っていく存在ではない。存在自体でチームを引きつける、求心力のある人物なのだ。(p.83) |
aggressive | assertive | passive |
積極的 | 主張的 | 受動的 |
win-lose | win-win | win-lose |
話す | 質問する/聞く | 聞く |
自分の意見を言う | データや知見を取り入れた 意見を言う(客観的な主張) |
人の意見を聞く |
自分を尊重する | 自分と人を尊重する | 人を尊重する |
考えを表現する | 考えを表現する | 考えを表現しない |
まわりのことを考えない | まわりのことを考える | まわりのことを考える |
できない部分を指摘し、「ここが足りない」と責めてしまうと「ネガティブ・バイアス」を強めてしまう。これは、欠点に注目することで生き延びてきた生存本能に根差すもので、ネガティブな事象に過剰に反応する性質を指す。間違ったアサーティブの捉え方をすると、リーダー本人とチームメンバー、双方の「ネガティブ・バイアス」が強まる。その結果、リーダーは大局的に物事を見られなくなり、メンバーは「ここがダメだ」というリーダーの主張をおとなしく受け入れるようになる。(p.89) |
結局のところ、大切なのはアグレッシブとパッシブのバランスである。バランス感覚を持って初めて、アサーティブ・リーダーになれることを忘れてはいけない。(p.92) |
ジェームズの「主体としての自己(I)」と「他者に知られる自己(me)」という考え方。MI(Multiple Intelligence)理論で提唱される「多面的な自己」という捉え方。そして、EQ理論で展開される「頭と心の知性で測る自己」という心理分析。このような心理学の研究の発展によって、「自分とは何か」についての理解が深まり、リーダーシップや組織論など、ビジネスの現場に応用される基盤が整ったのである。(p.97) |
これらの知見に基づいて働き方やリーダーの在り方。
・「ポジティブ」な環境づくり
・お互いを成長させ、「win-win」となる人間関係
・自分にも部下にも「働く目的」を明確にする重要性
・「モチベーション」を高め、エネルギッシュに働く方法
「リーダーとフォロワー」という構造が崩れている以上、一人ひとりがリーダーシップを発揮しなければ仕事上の成果を出し続けることはできないし、何よりあなた自身が伸びていかない。「リーダー」は仕事上の役割だが、「リーダーシップ」とは個人のためのスキルだ。その人が成長するためにも必要だし、成果を上げる際にも役立つ。(p.114) |
以下から、4つのリーダーシップの
①Assertive Leadership:人心を掴む「土台」を築く
②Servant Leadership:本物の「信頼」をたぐり寄せる
③Transformative Leadership:チームに「変容」をもたらす
④Cross-BorderLeadership:持続的な「最良の関係」を確立する
個々の4つについて、詳細が語られます。以下は個人的に気になったところです。
「authenticity」は、最近は心理学でもよくつかわれる用語で、リーダーシップ論でいうところの「オーセンティックになる」とは次のような定義となる。(p.125) ・「本当の自己(感情、考え)」を知る ・「本当の自己」を積極的に、包み隠さず表現できるようになる ・自分の人生の創造者として、「自分の人生のリーダー」になる ・「信念」に基づいて行動する ・人から信頼され、頼りにされる |
心理学の知見に基づいてオーセンティック・リーサーシップを磨く「5つの方法」をお伝えしたい。(p.126) ①「弱さ(vulnerability、ヴァルナビリティ)」を認める ②「役割性格」を越える ③「人」と比べない ④自分の「生涯の大きな目的」を見つける ⑤「超・集中情態」になる |
「IQよりEQのほうが重要だ」この考えはすでに定着しているが、私は第3のQ「CQ: Cultural intelligence Quotient」こそが大切だと考えている。CQとは「文化の知能指数」つまり「異文化理解の力」だ。(p.333) |
チーム・ビルディングには次の8つの要素が必要だとみている。(p.348)
①ビギナーの心 |