考える力をつける本 (講談社+α新書)
著者:畑村 洋太郎
内容紹介 企画にも問題解決にも・・・・・・・。 失敗学・創造学の創始者であり、『直観でわかる数学』などのベストセラーでも知られる著者が、いままでの知的生産のベースとなる、どんな場面にでも使える現代の知の生産術を明らかにした!自ら行動して観察してアイデアを形にする。 考える力をつけるための日常からできる準備、ちょっとした心がけ、そして企画にまとめるためのアウトプットの方法まで。 具体的な方法を示す。やり方がわかれば誰もができるようになる、本物のアクティブ・ラーニング。【目次】 第1章 「考える」とはどういうことか 第2章 「考える力」をつける準備 第3章 「考える力」をつける訓練 第4章 「考えをつくる」作業 第5章 「考える力」を高める 第6章 創造作業で多くの人が躓くこと |
★読書前のaffirmation!
[きっかけ・経緯] 図書館の新刊で発見!
[目的・質問] 「失敗学」の畑村先生がいう「考える力」というのを知る。
[分類] 141: 普通心理学. 心理各論
私の定義では「考える力」とは、「まわりの状況を自分なりに分析して、進むべき方向を自分の頭で考え、自分で決める力」のことです。また自分で決めるだけでなく、実行するのも、基本は自分です。ちなみにその先には、自分で考えて決めて実行した結果に対する責任は自分自身が負う、ということも含まれます。ここで大切なのは「自分で」という部分です。(pp.3-4)) |
企画のためとか、創造するための「考える力」というわけでなく、社会的な活動を行っていくための、幅広い意味での「考える力」だと理解しました。
また受け売りでなく、「自分で」というところを強調されているところもポイントだと思います。その理由として、{VUCAワールド」をキーワードとして挙げられています。
私たちの生きている世界は日々、過去に経験したことのない、さまざまな新しい問題に直面しています。それを表すキーワードが、「VUCAワールド」です。この言葉は、「Volatility(変動制)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(あいまい性)」の頭文字をとったものです。私たちがいままで生きてきた社会は、できるだけ世界から不確実で曖昧な部分を排除し、効率的な運用を目指すことで発展してきました。ところがこれからは、「VUCA]を前提とした社会をつくっていく必要があるのです。これはつまり、「正解のない問題に対し、そのたびに自分たちが最善と考える答えを出していくこと」が求められていることを意味します。(pp.4-5) |
VUCAワールドですが、次のようにまとめられている記事がいくつか見られました。またgoogle scholarでの論文もいろいろありそうでした。時間があれば、これだけでも研究の価値がありそうです。
結果の 不確実性 |
状況認識 | 概要 | |
Volatility(変動制) | High | High | 変化の速い速度 |
Uncertainty(不確実性) | Low | High | 戦場の霧 |
Complexity(複雑性) | High | Low | 複数の重要な決定要因 |
Ambiguity(あいまい性) | Low | Low | 明確性の欠如 |
戦場の霧については、wikipediaにありました。
そんな時代を生き抜くために必要なことを象徴しているキーワードをあと二つあげておきます。それは「アジャイル(agile)」と「レジリエンス(resikience)」です。 |
アジャイルは「俊敏な」、レジリエンスは「回復力」「抵抗力」「復元力」
目標がはっきりしなくても、とにかく動いてみることです。目標が見えたら動くのではなく、それこそ目標を探求するために俊敏かつ積極的に動くことが大切で、それがまさしくアジャイルです。そしてそうした行動の際には、状況を見ながら自分で考えて、何が起こっても驚かずに動くことができるしぶとさ、すなわちレジリエンスが必要とされるのです。(p.6) |
座学で得た知識(入力型学習)だけをベースにして、新しく何かをしようとして行動すると、たいていの場合は失敗します。しかし失敗した時の痛みは、起こっている現象がどういうもので、どういう問題があるから失敗したのかを知る、「真の科学的理解」へと向かう原動力になる貴重なものです。そこで私は、いままで忌み嫌われていた失敗をもっと肯定的に扱うことを提言したのです。(p.10) |
畑村先生の「失敗学」が生まれた一端を見た気がします。納得です。
経験したことのない問題が次々と起こっているのが今の時代です。そんな時代に求められているのは、未知の問題に対処するための解を自力で見つけ出すことです。これを行うには、まず状況を正確に把握することが必要になります。これには「分析力」が必要です。しかし分析力だけでは未知の問題に対処する解を導き出すことはできません。その先に求められるのは、分析したことをベースに問題点や課題を明らかにして、それらの解決力を見つけることです。さらにそうしたものを盛り込んだ、未知の問題に対処するための全体計画をつくる力です。・・・個別の問題や課題に対処しても、それで大きな問題が解決できるとは限りません。大きな問題を解決するには、個別の問題や課題に対処する解決法を駆使しながら、全体の状況を変えていくことができる効果的な計画を作らなければなりません。この時必要なのは「統合力」です。(pp.11-12) |
VUCAワールドのなかで、生き残っていくために必要な力として、「分析力」「統合力」があげられています。そして、著者は、「この全体計画をまとめあげる統合力が使える人が日本にはなかなかいないのです」と述べられています。
それでは、第1章から入っていきます。
私が自分でも実践して、人にもよくすすめているのは、「三現」を大切にするということです。三現というのは、「現地」「現場」「現人」のことで、三つの言葉の頭にある「現」からこのように呼んでいます。意味しているのは、自分で実際に現地まで足を運んで、現物を直接見て触れて、現場にいる人から話を聞くことです。いまどき、ずいぶん手間がかかる方法だと思われるかもしれませんが、これが考えをつくるのに最も適した方法だと私は考えています。(p.28) |
三現を行うときに私が意識ているのは、目的意識を持って行動し、実際に体験しながら自分の頭で考えることです。また考えるだけはなく、そのときに自分が何を感じたか、そのときに湧き上がってきた感情も大切にしています。こうすることで、タネは、より自分の中に取り込めるようになって、また必要なときに引き出せるようになるのです。こうして自分が行動したことで起こるリアクションから引き出したタネは、実感を伴っているので使いやすしい、構造化もしやすいものになります。(p.30) |
また、著者は、「三現は、たんなる経験とは違う」と言います。いくら経験をしていても、その人が目的意識もなく、ずっと受け身のままだったとしたら、対象からのリアクションも引き出せないと。それでは時間を空費しているのと同じだと。
視点は多ければ多いほどいいというものではありません。私の経験から言うと、以下の視点を補えば十分です。それは「人」「モノ」「カネ」「時間」「気」という5つの視点です。私はこれらを「5つの窓」と言っていますが、いずれも社会の事象を構成する重要な要素になっています。この5つの窓から覗いてみるだけで、世の中のたいていのことは、よくわかると考えていいと思います。(p.35) |
5つめの「気」はユニークです。その場の雰囲気や、文化とのことです。よくある「人・モノ・カネ」そして、「情報」。これにあと「時間」と「気」を加えて、私は6つの視点を身につけたいと思います。
逆演算の見方には、結果から遡って見ていくことで、物事の脈絡やこれまで見えていなかった原因を探ることができるメリットがあります。この観察方法はとくに未来に起こり得ることを予測する手段として有効です。・・・おそらく多くの人は、順演算の見方でも逆演算の見方とほとんど同じことが期待できると考えることでしょう。順方向から見るときには、起こり得るあらゆることを等価のものとして考えざるを得ないので、その中のどの部分が最も重要なのかという判断がしにくくなります。ちなみに大きな事故の時によく聞かれる「想定外」というのは、このような考えの抜けとして生まれてくるのです。逆演算の見方を使うと、こうした考えの抜けから来る想定外を潰すことができます。それは重大な結果に結びつく脈絡だけをクローズアップすることができるからです。・・・逆演算の見方はあくまで補完的なものです。この見方が最も効果を発揮するのは、やはり順演算の見方がしっかりなされているときです。順演算の見方がしっかりしていないと抜けだらけになって補完がたいへんになります。これでは逆演算の見方を使っても、本当に重大な問題をあぶりだすことができなくなってしまいます。(pp.38-39) |
この逆演算の手法は、「必要十分条件」のチェックとして有用だと考えます。書かれているように、抜け漏れのチェックとしても、またシナリオのリアリティを体感するためにもパワフルなチェック方法だと思います。
続いて、第2章です。
知識は、対象の理解のために必要なものですが、考えをつくるのに必要な知識もまったく同じで、何もなければ何もできません。しかし最低限の知識を有していれば、それらを総動員することで不足しているタネをその場でつくって補うことは可能なのです。・・・さらに私がおすすめしたいのが、一つでよいので得意分野を持ってその分野に関しては、深く掘り下げてみるということです。特に興味がある分野に関しては、一度は「やり切った」と言えるくらい勉強してみるのです。知識というのは分野こそ違っていても、最低限押さえておくべき基礎的な知識から、より深い応用、枝葉の知識、最新の情報まで、だいたい体系が似ています。応用に入っていくためには、基本的な知識をベースに、より高度な知識をみにつけなくてはいけません。高度な知識になればなるほど、より要素も多く、構造も複雑になります。つまり、ある分野を深掘りして体系化した知識を身につけるということは、単純な要素と構造の知識から、複雑な構造の知識まで、さまざまな層の知識をみにつけることにつながります。(pp.48-49) |
少し、狭い範囲になりますが、私がよく使う分かりやすい例をひとつ。
エクセルの使い方、ワードの使い方、パワーポイントの使い方・・・・それぞれ共通部分ってありますよね。それがここでいう基本知識。少し高度なことでもある程度、似ています。ですので、応用知識として使えますよね。あとは、例えば、パワーポイントのアニメーションなんて、パワーポイントだけですし、エクセルの各種の数式などは、エクセルだけです。そんな感じを・・・・狭い例ですが、イメージしていただけれたら良いかと思います。
だれでもそうですが、はじめて目にする未知の事象を理解するのはなかなかたいへんなことです。これはそのものを理解するための知識が頭の中になかったり、あったとしても少ないからです。そういうときに役立つのはやはり数字です。定量化をして数字で把握すると、その途端にこれまでちんぷんかんぷんだったものでもウソのようにわかりやすくなります。だから考える力を高めるためにはいつでもどこでも使える、対象を数字で把握する自分なりの尺度を持つことが重要になるのです。(p.59) |
何か新しい事象が出てきたら、いつもこれはどれくらいって予想を立てて確認するようなクセをつけたいですね。たとえば、ニュースで○%などと言われたら、分母と分子はどれくらいだろうとか、いうのも数字に興味を持つ第一歩です。あとはある基準を自分なりに持っておいて、それと「比較する」ということもひとつのテクニックです。
第3章に進みます。
「考える力」をつけるためにおすすめしたい具体的な作業があります。まず最初が、「思いつきノート」です。日々の生活の中で気づいたことを描いておくアイデアメモのようなものですが、これを習慣化すると考える力を磨くことができます。(p.93) |
ノートである必要はありません。僕はスマホで、アイデアをメールにして、自分あてに送るようにしています。すぐに忘れてしまいますから、備忘録のように使っています。
第4章です。
ここでは、思考展開法のお話が書かれています。
上のような思考展開図によって、「考えをつくる過程を見える化」していくとよいようです。
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第5章に進んでいきます。
より良い考えにたどり着くためには、苦労して作った形にこだわらず、むしろそれを批判の対象にして徹底的につくり直すくらいの気持ちでいることが大切です。(p.151) |
論理で考えをつくることはできませんが、つくられた考えは論理的に説明できなければ、それはまだ不完全な状態です。これが考えをつくることにおける論理の位置づけです。(p.153) |
さらに第6章です。
正解は無数にあるので、自分が出した答えが正しいかどうかはしっくりいくかどうかで判断すればいいのです。(p.176) |
形にこだわっていると、いつの間にか、形を整えることが目的化して本来の目的を忘れてしまうことがよくあります。(p.179) |
いろいろな手法をご教示いただきましたが、最終的には「能動的に考える」かどうか、また気づけるかどうかということになると思います。しっかりとアンテナを張って、情報をキャッチし、その情報を自分なりに解釈する。それが蓄積されていき、基本知識となっていく。その知識をどう応用するかは、自分自身の問題意識だと思います。
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