確率思考の戦略論―USJでも実証された数学マーケティングの力
著者:森岡 毅,今西 聖貴
★読書前のaffirmation!
[きっかけ・経緯] 数学マーケティングの力・・・とくればチェックしないわけにはいきません。数式も含めて詳しく解説されていますので、マーケティングに携わる方はチェックしておいて損はなく、ベストセラーということも頷けます。
[目的・質問] 「USJでも実証」というあたりをチェックすべし。
マーケターの森岡さん、アナリストの今西さんという双方の強みを組み合わせることで完成された「数学マーケティング」を惜しげもなく披露してくれています。それを吸収していきましょう。
なぜ?なぜ?と現象から原因を掘り起こし、さらになぜ?という自問を繰り返すことで辿りつく奥底に、さまっざ茉那現象を作り上げてきた「問題の本質」が見えてきます。そしてちょっと意外なのですが、現象の幾重もの層の奥底に座っている「本質」は、ほとんどの場合は非常にシンプルな顔をしています。(P.16) |
そうなんです。これは実際にやっている人でないと軽く読み流してしまいそうですが、ここは真髄です。これを分かってないと、実績値の抽出で終わってしまってマーケティング・アクションに結びつかないのです。
市場構造を理解するメリットとは何でしょうか?市場構造を理解することによって、私達は成功確率の高い企業戦略を選ぶことができるのです。・・・私は市場構造を精緻に理解することに情熱を燃やし、「勝てる戦いを見つけること」と「市場構造を利用する方法を考えること」に思考を集中しているのです。つまり勝てない戦を避けて、勝てる戦を選んでいるから、結果として勝つ確率が高いだけなのです。市場構造を理解する意味はまさにそれ、企業が勝つ「確率」を上げるためなのです。(P.20-21) |
まさに孫子の兵法ですね。納得です。
市場構造を決定づけているDNA、あるいは震源ともいうべき「本質」はいったいなんでしょうか?それは消費者のPreference(プレファレンス)です。プレファレンスとは、消費者のブランドに対する相対的な好意度(簡単に言えば「好み」)のことで、主にブランド・エクイティー、価格、製品パフォーマンスの3つによって決定されています。プレファレンスが市場構造を支配するのは、小売業者も、中間流通業者も、製造業者も、最強の存在である最終購買者(消費者)に従わざるを得ないからです。市場構造を決定づけているDNAは消費者のプレファレンスであることを頭の中に入れておいてください。(P.22) |
結局、買ってもらえるかどうかですもんね。価格さえ安ければ買ってもらえる時代はもう終わりました。最終的には「好み」に沿っているか・・・ですね。
それぞれのカテゴリーに対する消費者のプレファレンス自体の違い(消費頻度や購入回数などの見た目の違い)はありますが、プレファレンスに基づいてそれぞれのカテゴリーの構造が形成されるというまったく同じ規則に従っています。それは主に次の4つの法則に従います。
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ブランド間のシェアが、消費者のプレファレンスによってダイレクトに決定されることは「デリシュレーNBDモデル」により説明できるとのこと。
「デリシュレーNBDモデル」は、負の二項分布(NBD)モデルを拡張して、カテゴリーのなかのすべてのブランドの購入率と購入回数、ブランド・スウィッチを予測するのに役立ちます。・・・「デリシュレーNBDモデル」を成立させるためには4つの仮説が必要です。この4つの仮説に基づいて作られた数式によって、これらの多くのカテゴリーの中の各ブランドの購入率と購入回数の「予測」と「実際」が合致することが確認できるのです。・・現時点の消費者の購買行動が、ほぼここに示される仮説に従って行われていることを示しているのです。(P.30-31) |
購買行動を支配する4つの仮説(P.32)
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これら4つの仮説(法則)をもう少しわかりやすく言うと、消費者の頭の中には、今までの購入経験から買ってよいと思ういくつかの候補となるブランドがあるということです。それらの購入候補であるいくつかのブランドの組み合わせを「Evoked Set(エボークト・セット)」とマーケティング用語で呼びます。・・・消費者なは誰しも「エボークト・セット」を持っており、プレファレンスに基づいてブランドを購入する「確率」が決まっているのです。(P.32-33) |
人は一人ひとり、それぞれのプレファレンスに基づいたエボークト・セットに合ったサイコロを持ち、そのカテゴリーの購買回数の分だけサイコロを振っているようなものです。それぞれの個々人のサイコロを振る動作が、全体として集積されたものが「シェア」であり、シェアは市場全体のプレファレンスを表しています。(P.33-34) |
僕も長年マーケティングをやっていますが、「エボークト・セット」という言葉を聞くのは初めてでした。ですが、たとえば、このカテゴリーと言われたときに、そのブランドがすぐに想起されるようにということは非常に意識していました。そこで候補に入っていれば、同じ土俵で比較してもらえ、その段階に勝てればよいという意識でした。著者がさらに、そのなかでも上位のプレファレンスであるべきだと言っているのは、筆者のなかで、いわゆるコモディティ―商品(日用品)という前提で言っているのだと思われます。
たとえば、専門品であれば、プレファレンスの前に、エボークト・セットに入りこめるかということが一番のポイントになり、そして消費者が取捨選択を迷いに迷う際に当該ブランド(商品)の強みと消費者のニーズがあえば購買選択してもらえるのではないかと考えます。
そして、プレファレンスについて、下記のようにまとめてらっしゃいます。
プレファレンスを上げることはシェアを上げることに等しく、シェアが上がると結果として売上が直線的に伸びる以上に、会社のパフォーマンスを上げることができます。それは利益率や配荷率や認知率などの様々な経営効率が相対的に上がっていく、成功が成功を呼ぶ正のスパイラル(ガンマ分布)を巻き起こすことができるからです。だからこそ、どの企業も消費者視点を最重視して、プレファレンスの向上に経営資源を集中せねばなりません。その当たり前の法則を実行するにあたって、消費者を理解してプレファレンスを高める戦略と戦術の両方を専門とするマーケターの優劣に、企業は自らの運命を大きく依存しているのです。(P.36) |
第2章は、「戦略の本質とは何か?」というタイトルで書かれています。
市場構造にはコントロールすべきものと、コントロールしにくい(あるいはできない)ものがあるのです。マーケティング戦略に限らず、戦略が失敗するときは、知らず知らずのうちに自分たちでコントロールできないことに多くの経営資源を投入してしまっているパターンが非常に多く見られます。(P.39) |
ビジネス戦略の本質は実はかなりシンプルな顔をしていると私は考えています。ようするに戦略の行きつく先もその3つしかないということです。戦略、つまり、経営資源の配分先は、結局のところPreference(好意度)、Awareness(認知)、Distribution(配荷)の3つに集約されるのです。(P.40) |
ビジネスを作る認知の本質は、消費者の頭の中にある「買ってもよいと思っているいくつかのブランド群」の中に入っているかどうか、つまり消費者の「エボークト・セット」のなかに入っているかどうかです。私のようなマーケターがより重視している認知の指標は「Unaided Awareness」の増域です。(P.43) |
書いてありましたね。そうです、ここです。「〇○で思い浮かぶブランドは何ですか?」に対してのUnaided Awarenessです。
Unaided Awarenessの中でも、・・・真っ先に名前が挙がることが重要です。最初に消費者に名前を挙げられる名誉な割合を、「第1ブランド想起率(Top of Mind Brand Awareness)」と言います。第1ブランド想起率や、第2ブランド想起率は、消費者のエボークト・セットとの相関性が高いので、・・これら認知の指標を定期的に測定し、その増減のトレンドや競合各社との差をモニターすることは、マーケティングの基本中の基本です。(P.43-44) |
このあと実例として、2014年7月にオープンした「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター」が出てくるのですが、著者の下記のプランは目から鱗でした。
・認知レベル 全国で90%以上
→ そこまで伸ばす体力はない
→ 注目すべき成長企業になり、メディアに取り上げてもらう
→ 「USJのV字回復を本に書いてベストセラーにする」
あの本に、こんな策略があったとは・・・・・。これには目から鱗でした。
配荷率(Distribution)とは、市場にいる何%の消費者がその商品を買おうと思えば物理的に変える状態にあるかという指標です。(P.51) |
続いて、「第3章 戦略はどうつくるか?」に進みます。
誤解を恐れずに言えば、適切な利益を乗せて儲けることは正しいのです。儲けすぎてもダメです、しかし儲けなさ過ぎてもダメなのです。そのバランスを考えたものが、松下幸之助が言ったところの「魂を入れた値段」です。よりよい消費者の生活のためにも、必要な価格をつけるのです。投資し続けるために、経営状態を維持するために必要な価格をつけて、もし消費者に支持されず、商売が成り立たないのであれば、その会社は滅びるしかありません。(P.90) |
「魂を入れた値段」・・・・素晴らしい言葉です。こういった気概を持って商品を作らないと、お客様には見透かされるのでしょう。
さらに、「第4章 数字に熱を込めろ」では、数字に対する熱い思いを森岡さんが語ってくれています。
そして、第5章からは、今西さんのパートとして、市場調査を含め、こちらも含蓄があり、何度も読み返したい内容になっています。そして、各種役に立つ統計関連も書かれており、マーケティングの教科書として手元に置いておきたいコンテンツが掲載されています。
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