著者の野村氏のホームページを見ると、
Dialogue + Action = Innovation
と書かれており、これが野村氏の追求されていることのようで、本書もその流れを汲んだものとなっています。
さて、本書ですが、サブタイトルに「社会を変える」とあるように、著者が“フューチャー・セッション”と名づけた対話手法を用いて、「対話で社会を変えるプラットフォーム」を作ろうという取り組みに当たってのファシリテーターの思想と方法論を解説した書です。
とはいえ、通常の会議で応用が可能なところも多く勉強になりました。結局は、どれだけ自分ゴトとしてその場に臨んでもらえるようにするか、当たり前ですがその重要性を改めて認識しました。
筆者は「フューチャー・セッション」を次のように定義しています。「未来に向けた問いかけがあり、それに呼応して集まった多様な参加者が、対話を通じて相互理解と信頼関係を築き、新たな関係性と新たなアイデアを同時に生み出し、協調してアクションを起こしていく場。(P.26)」
またイノベーション・ファシリテーターについては、「イノベーション・ファシリテーターの目的は、会議で合意形成を作ることではありません。達成したい社会的な課題に対して、“課題の当事者およびその関係者”=“ステークホルダー”たちの関係に変容を生み出していくことが目的なのです。(P.25)」と述べています。
そのためのテクニックとしては次のようなことが書かれていました。
当事者の本質的な想いを引き出すには話を深堀りする質問が必要です。それにはどんな質問がよいのでしょうか。たとえば、次のような質問を投げかけてみてください。相手の想いが少しずつ見えてきます。(P.33)
・その目的を達成して、あなたが一番幸せにしたいのはどんな人ですか?
・その課題を解決して、あなたが実現したいのはどんな社会ですか?
・その問題の克服のために、誰のどんな協力が必要ですか?
・こんなことが起きたらうれしいと思える、もっとも小さな成功は何ですか?
わたしはよい問いには共通点があると考えるようになりました。そのポイントは次の3つです。(P.47)
(1)誰も考えたことのない問いであること
(2)多くの人がおかしいと思っているテーマであること
(3)公共性があること
イノベーション・ファシリテーターの役割としては、次のことも書かれています。
イノベーション・ファシリテーターは、参加した誰もが、自分がこの場の主人公であると感じられる、そんな場づくりを心掛けなくてはいけません。
みんなが力を合わせなければならないことがわかれば、おのずと役割が見えてきて、自分も必要な存在であることを実感できるはずです。つまり、みんなの力が必要となる問いや場面を設定することが大切なのです。(P.106)
イノベーション・ファシリテーターには、アドラー心理学でいうところの「目的論志向、未来志向」であることが前提であるところを考えると、会社で言うと、中長期戦略を考える場合などはこのノウハウは重宝するように感じました。
たまたまかどうかわかりませんが、「発想を事業化するイノベーション・ツールキット」もこの休みで読みましたが、著者の野村さんが監訳をご担当されていました。ちなみに・・・「たまたまかどうかわかりませんが、」と書いたのは、きっとレコメンデーションされたからだろうと推察しています。(笑)