堀 雅彦 (著)
儲かる事業になるかどうかは 構想の解像度で決まる9割が失敗するといわれる新規事業。 社内承認が得られずアイデア倒れになったり、利益が出せずに頓挫してしまったりするものがその大半です。 新規事業開発では「抽象と具体」「部分と全体」の思考を切り替え、チームの認識をそろえながら仮説検証していく必要がありますが、決して容易なことではありません。 最善の方法は事業構想を「書く」ことです。 書くことで思考を切り替えながら解像度が高まり、関係者を巻き込むことができ、実社会でうまくまわるビジネスモデルをつくれるようになります。 これまで提案されてきたビジネスモデルを可視化するさまざまな方法論と本書の決定的な違いは、ビジネスモデルを文章で書くことでその診断ができ、結果として事業構想を加速させられることです。 本書で提案するフレームワークを使えば、顧客の決め方から競合、仕組み、戦略、収益化までをシンプルかつ論理的に記述できるとともに、事業開発の道しるべとなります。 「顧客は誰か」「いかなる課題をどのように解決するか」「競合はどこか」「どうすれば優位に立てるか」「利益の源泉は何か」「どうすれば利益が持続するか」。 本書ではこうした極めて具体的な問いに答えながら、ビジネスモデルを構築する方法を丁寧に解説しています。 次の方々にとってとくに役立つ知見が満載です。 BtoCとBtoBの両ビジネスモデルにも対応した大充実の一冊です。 ●目次概要 |
いきなりですが、結構ずしんと響きました。
新規事業開発にはその特性から生まれる3つの難しさがあります。(pp.2-3)
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特に、この1についてですが、新規事業に関わらず新しいことを生み出す際には同じことがいえると思います。詳しく書かれているので備忘のためにも書いておきます。
新規事業開発とは、仮説検証を繰り返しながら、事業が持続的に成立するビジネスを探索し続ける営みです。その中で、「顧客」「課題」「戦略」「利益」「価値」「仕組み」などさまざまな要素と向き合うことになります。これらの要素はここに独立しておらず、それぞれつながりがあります。さまざまな要素と向き合うために視点を切り替え、具体と抽象を行き来するために視座を切り替え、部分と全体を見るために視野を切り替えなければなりません。これを縦横無尽に行うことが新規事業開発の思考法と言えるのですが、この難しさはプロジェクト経験がない方であっても想像に難くないと思います。 |
そうなんですよね。決められたことを決められた期間ですることに長けた人はたくさんいるのですが、このタスクは少し質が違うので経験だけではない部分があると感じています。また2にもつながりますが、メンバーの解釈も異ならないようにもっていくのも難しいですね。上記のようにこのようなタスクへの理解がないとまったくワークしない状態になりかねない恐れがあります。
本書ののバリューデザイン・シンタックスは、数か月とか継続的な「データサイエンスプロジェクト」や「データ分析プロジェクト」などでも使えそうな気がします。
事業構想において意思決定者側が求め、起案者側が答えるべき問いは、ビジネスモデルの構造と各要素に紐づくように6つあります。(pp.27-29)
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どんなに確からしいロジックや魅力的な数字で構成されたビジネスモデルだったとしても、抽象度が高く具体性に欠けていては納得はできません。事業構想はロジックと数値だけでは意思決定を突破し、前に進めることができないのです。(p.29) |
これは私も覚えがあります。あとは情熱も必要なんですが、それも具体がなければ無理なところです。
何が必要なのかを筆者たちは次の2つとしています。(p.30)
右脳的な確信 | 【ミクロの視座】 解像度を上げ続けることで得られる「いける」という直感/感覚 |
左脳的な確証 | 【マクロの視座】 俯瞰でマクロで捉え数字やロジックをもとにした「いける」という感覚 |
事業構想における2つの落とし穴として面白い名称で説明されています。(p.38)
仮説形成迷子 | チームとして共通認識を持った仮説、ビジネスモデルが描けない。各々の認識がばらばら |
仮説検証迷子 | 向き合うべき問い、仮説を見失い次に何をすればいいのか分からず、動けない |
顧客ターゲットを決めるための9つの観点が書かれていますが、これはしっかり考えてみたいところです。(p.62)
1. 量的魅力 | 人数(社数)で多い/大きいのか?今後伸び行くのか? |
2. 課題逼迫性 | 課題に対して逼迫感や緊急性を感じているのか? |
3. 解決渇望度 | 我々が提供する手法や価値を求めてくれるのか?渇望してくれているのか? |
4. 優位性構築難易度 | 相対する競合に対して優位性を作り出すことは可能か? |
5. 要求実現難易度 | 求める要求/期待水準を実現できうるのか? |
6. 支払い許容額 | 許容される金額は高いのか?低いのか? |
7, 到達可能性 | リーチ、接触することはできるのか? |
8. 意思決定リードタイム | 導入や製薬までに必要な時間はどの程度か? |
9. 市場浸透インパクト | その後の市場内浸透に好影響を与えるのか? |
よく言われるやつですが、
問題とは現状と理想とする姿/あるべき姿とのギャップのこと。一方で、課題はその問題を引き起こしている様々な要因の中で、起案者が意思を持って選択するもの。(p.77) |
続いて、課題について書かれています。(p.79)
高 問題の質 低 |
<Bad> 誰もが何とかしたい問題 しかし的外れな課題 課題解決が問題解決にならない |
<Good> 誰もが何とかしたい問題におけるクリティカルな真因 |
<Too Bad> あまり重視されていない問題で、かつ課題解決してもクリティカルではないので問題も解決されない |
<Bad> クリティカルな問題解決につながるがそもそも、その問題自体があまり重視されていない |
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低 課題の質 高 |
問題・課題の質を左右する4つの要素(pp.79-81)
質を左右する要素 | 問い | |
問題の質 | 量 | 多くの人、企業にとって解決が望まれている問開か? |
逼迫性 | お金を払ってでも解決したいと思われているか?問題自体の強度 | |
時流性 | 向いあうべきタイミングの適切さ。いま、これから、向き合うべき問題か? | |
意義性 | 自社、自身が向き合うべき問題か? | |
課題の質 | 量 | 要因として、多くの人/企業に当てはまる共通する課題か? |
本質度 | 課題を解決することが、問題解決につながるか?大きな影響を与えられるか? | |
解決可能性 | 解決可能な課題か? | |
時流性 | いま、これから向き合うべき課題か? |
課題の探索は愚直なインタビューや行動観察を通じて、問題の背景に潜む要素・要因を洗い出し、その関係性を構造化したうえで、論拠と意思をもって選択します。(p.82) |
これは私のような現場へ新規案件の提案をしていて、数年後に必要なことは我々では見えているのですが、現場はまだしっくりきていないというようなことは多々あります。そんなときどうやって提案を受け入れてもらえるかにも役立ちそうです。
課題探索のアプローチとしては、
①ロジックツリー
②カスタマージャーニーマップ
③イシューマップ
が挙げられています。
イシューツリーについては、マインドマップの派生形ととらえてもいいと思います。
コンセプトダイヤモンドという図で、手法と価値のつながりや関係性の全体構造が整理されています。現物とは少し違いますが、WordPressで表現できる範囲でやってみました。
主語は顧客(顧客は何を得るのか?) | 価値(顧客が得る成果/状態) | 抽象 | ||
顧客が得る成果は? | ↑↓ | 顧客は何を体験するのか? | ↑↓ | |
体験(顧客が得る具体体験) | ||||
↑↓ | 具体 | |||
主語は事業主(我々は何を提供するのか?) | 機能(具体的に提供させれるもの) | ↓↑ | ||
我々は何を提供するのか? | ↑↓ | 我々は何を提供しているのか? | ||
手法/解決策(提供するものの要約) | 抽象 | |||
課題 |
最上部の価値から体験へ広がる顧客主語で語られるべき上側領域と機能の広がりが手法/解決策へ要約されていく事業主目線で語られる下側領域に分かれています。両者は価値から手法への「縦のつながり」と、機能によって実現される体験の一連の流れ(体験ストーリー)としての「横のつながり」によって構成されています。顧客が得られる成果・状態としての「価値」は、具体の体験の連なりである体験ストーリーを通じて支えられているという関係性です。(p.94) |
顧客に対して自らの描く事業やサービスを選び、顧客から選ばれ続けるには、事業、サービスの顔立ちを明確にしなければなりません。「手法」と「価値」の言語化は、事業を明確にするための羅針盤になる、と先にお伝えしたのはこの理由からです。(p.101) |
こういった言語化は非常に難しいものだと思いますが、生成AIの利用はこのあたりの大きなサポートになってくれると思います。
可能性を広げて発散する上では、提供する価値の方向性やさまざまな体験、機能を検討するきっかけを与えてくれる「How Might We Questions」は有効なアプローチです。(p.103) |
たしかデザインシンキングのところでこのアプローチはよく出てきたように思いますが、「How Might We Questions」このキーワードで検索すると、いろいろと詳しい説明やいい感じのまとめが出てきます。本書ではこちらが紹介されていました。
そのほかにもいいのがありましたので合わせて紹介しておきます。
見えていない競合を可視化するためには、ビジネスモデルの幹となるコンセプトを構成する「顧客」「課題」「手法」「価値」の4つの要素を用いたアプローチが有効です。・・・しかし、生活者や企業の時間とお金は有限である以上、どれだけ新規性の高いソリューションであったとしても競合は必ずどこかに存在します。ただし、競合という言葉は一つであっても、その意味する内容は1つではなく、自社事業コンセプトとの重複度、ひいては自社事業との距離感の違いによって競合は4つの階層に分かれます。自社事業から距離感が近い順に「完全競合」「問題競合」「目的競合」「時間競合」です。(pp.114-115) |
遠い ↑ 自事業との距離感 ↓ 近い |
時間競合 | 「同じ時間」をとらえる競合 |
目的競合 | 「同じ目的」をとらえる競合 | |
問題競合 | 「同じ問題」をとらえる競合 | |
完全競合 | 「コンセプト自体が」が重なる競合 | |
自社サービス |
第5章には上記のような様々な観点での本書の肝となるVDS(Value Design Syntax)の書き方が書かれており、ここはしっかり読んで身につけたいところです。
また、新規事業において、市場規模の考え方で、TAM、SAM、SOMという考え方が載ってましたのでご紹介します。
TAM:Total Sddressable Market
SAM:Serviceable Available Market
SOM:Serviceable Obtainable Market
のことですが、こちらに詳しい説明があるのでご覧いただけるとよいと思います。
一度、VDSを使ってデザインしてみたいと思います。手元に置いておきたい非常に学びの多かった一冊です。