経営戦略原論

経営戦略原論

著者:琴坂 将広 …  

実学とアカデミックについて絶妙な距離感で書かれており、非常に勉強になりました。(Inobe.Shion)

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内容紹介

有史以前からまだ見ぬ近未来まで――
経営戦略の系譜をたどり、実践と理論の叡智を再編する

経営戦略論は何を探究し、科学として、実務として、どのような発展と進化を遂げてきたのか。本書は、有史以前からAI時代まで、戦略論の議論を俯瞰する壮大なストーリーである。最初に、経営戦略の定義を多面的に議論したうえで、経営戦略の歴史を紐解く。さらに、経営戦略をめぐる学術的な議論を、その原点から最新の議論に至るまでを紹介する。個々を断片的に解説するのではなく、それらの議論の変遷、流れを詳細に記述する。そして、経営戦略の未来として、IoTやAI、ビックデータなどが彩る未来の世界が、今後の経営戦略のあり方に対してどのような意味合いを持ち、それらを経営戦略立案の実務にどう落とし込んでいくべきかを考える。

実学としての経営戦略は「最適な処方箋」を、社会科学としての経営戦略は「普遍的な法則性」をそれぞれめざしてきた。本書では、この2つの異なる方向性をそれぞれ概観することで、経営戦略を理解し、実践するために必要となる根源的な知見を幅広く提供する。この両者を1つの筋道に収めたことこそが、本書の挑戦である。

内容(「BOOK」データベースより)

有史以前からまだ見ぬ近未来まで経営戦略の系譜をたどり、実践と理論の叡智を再編する。

すごい大胆なタイトルだなぁと思ったんですが、”はじめに” から強烈な気合を感じました。

経営学は経営を担う実務家の日々の経営に資する知見を提供することをめざしてきた。しかし、現代の経営学はそれだけにとどまらない。社会、経済、人の心に多大な影響を与えうる、経営という行為とそれを行う個人と組織が、どう変遷し、どう存在し、どう動くかの「普遍的な法則性」を解明するべく、社会科学の一つの分野、「科学」としての議論を重ねている。単に利益や売り上げをどのように増やせばよいのかという問いに答えるのみならず、より人間の根源に迫る問いに答えるのが、現代の経営学である。(p.1)

そして、「本書は、実額としての経営戦略と、社会科学としての経営戦略を一体として扱う」ということで、

各章ごとに要点が書かれており、まずはこれを読んで全体像を掴んでから詳細に入っていくと効率よく内容を捉えることができるでしょう。

まずは、「経営戦略」という言葉の定義についての説明です。よく言われるようにさまざまな定義があるようです。いろいろな研究者の定義を紹介しながら核心に迫っていく進め方は非常にわかりやすく納得感があります。

第1章

  • 経営戦略の中核は「特定の組織が何らかの目的を達成するための道筋」。
  • これを作り出すための「HOW」が、外部環境分析と内部環境分析の二本柱。
  • 「特定の組織が、何らかの目的を達成するために、外部環境分析と内部環境分析から作り出した道筋」は広く受け入れられ得る経営戦略の定義。
  • 「道筋」は、未来の見取り図とも、過去の行動の集合とも理解し得る。
  • 外部や内部環境の分析以外に、状況依存する意味づけてが再注目されている。そのため創発的な戦略や意思決定当事者のプロイ(策略)は、経営戦略の本質を議論する上でも避けられない。
  • 経営戦略における戦略の実行、特に創発的経営戦略については、依然として未開拓のまま取り残されている事実がある。

ミンツバーグの戦略の5P

経営戦略とは何か(What) プラン(Plan) ・これからの行動指針。未来予測に基づく、行動の計画
・創発的に形成される、意図されない戦略行動も存在
パターン(Pattern) ・過去の行動の事実。過去の行動の分析に基づく体系
・観測されえない戦略も多々存在。特に頓挫したもの
経営戦略とは何をするか(How) ポジション(Position) ・外部環境の観測から、自社の位置づけを探ること
・自社を市場で独自性と価値のあるポジションに配置
パースペクティブ(Perspective) ・内部要因から、自社の位置付けを定めること
・組織や戦略家のビジョンの実現を目指す取り組み
プロイ(策略)(Ploy) ・外部環境からも内部環境からも導き出されない行動
・非市場要因の活用や、競合の裏をかくための取り組み

 

第2章

  • 経営戦略における戦略(Strategy)の語源は、何を持って語源とするかで複数存在する。
  • 戦略の起源をさかのぼるのであれば、それは先史時代に至る。
  • 人間活動の組織化の手法は、国家権力と戦争により磨き込まれた。
  • 軍事戦略は、孫子からリデル=ハートまで経営戦略にも幅広く応用される。
  • 近代的な大企業の成立が、形の科学する行為を必要とした。
  • 管理監督による生産性追求の行き過ぎは、逆に人間性の発見につながった。
  • 単なる監督者ではなく、高い規範の実践者としての経営者が理想となった。
  • 経営戦略という言葉が生まれる前に、必要な要素が既に出揃っていた。

ここからは、少し時代が進んで、経営管理の観点も入ってきます。ポーターやバーニーや著名な理論がそれぞれつながっているという系譜の中で語られ、これもまた空間的に捉えられ理解が深まります。

第3章

  • 経営戦略の正史が始まる以前に、既に基本的な要素で揃っていた。
  • 黄金時代の終焉が、予実管理の前提となる戦略計画の重要性を高めた。
  • 「経営戦略の父」と称されるアンゾフは、そのまま後の主要な議論の原型(製品と市場分野、成長ベクトル、競争優位、シナジー)に言及している。
  • 当初の経営戦略の焦点は多角化による長期安定的な事業成長にあった。
  • 当初の経営戦略の焦点は多角化による長期安定的な事業成長にあった。
  • 多角化の進展後、経済停滞による事業再編への要請が事業ポートフォリオ管理としての経営戦略を普及させた。
  • 経営戦略という概念の一般化には、その伝道師たちの活躍があった。コンサルタントは知識の媒介者として、また教育機関は専門人材の供給を通じて経営戦略の普及に貢献した。
  • 事業ポートフォリオへのアンチテーゼの1つとして、その後、産業組織論を背景に経営戦略を検討する、マイケル・ポーターを代表格とする競争戦略が注目を浴びた。

第4章

  • 1970年代の経営戦略論の停滞が、ポーター登場の素地を作り上げた。
  • 産業構造から外部環境を分析する手法の源流は、不完全競争の議論にある。
  • SCPモデルの経営戦略への応用が、ポーターが演出した新たな潮流である。
  • ポーターの学術的貢献の中核は、戦略グループ間のポジショニングにある。
  • ファイブ ・フォース分析の活用には、いくつかの注意事項を守る必要がある。
  • 産業構造を取り巻く、マクロ要因、非市場要因、メガトレンドの理解は必須である。
  • 不確実性を織り込む外部環境分析こそが経営戦略に有益となる。
  • 実証研究の成果をひも解くと、外部環境だけで戦略を定めるべきとは言えない。
  • 産業構造の不安定化と競争の激化が、資源ベース理論興隆の素地となった。

第5章

  • 資源ベース理論は、産業構造と技術の変化が加速した時代に登場した。
  • 産業構造からの戦略構築が、業績に結びつかない状況が発展を後押しした。
  • 日本企業の分析から、企業内部の要因を理解することの重要性が理解された。
  • 資源ベース理論の探求は、1980年代前半にはすでに始まっていた。
  • 資源ベース理論は、1人の天才ではなく、無数の研究者の行協業が生み出した。
  • プラハラードとハメルが実務に、そしてバーニーが研究にこれを伝播させた。
  • 資源ベース理論のとらえる「資源」は、次第に知識や能力へと拡張された。
  • 内部市場の分析からいかに競争優位を得るかは、未だ探求の途上である。

ここからは今の時代の「経営戦略」に近い、BSCやKPIなども絡めた感じで説明がされていきます。

第6章

  • 外部環境分析と内部環境分析を土台として、競争優位の確立と維持のための手段を議論するのが、事業戦略立案の議論の骨格である。
  • 日本における議論は、競争優位の確立を議論する際に、イノベーション研究とマーケティング研究の知見が色濃く反映される傾向がある。
  • 多様な教科書が特定の定石たる構成に収斂するのは、教科書が社会科学としての経営学の発展の形に即した構成を志向するためである。
  • 戦略フレームワークには得意・不得意があり、自社が置かれた事業環境、そして、自社の内部環境の特性に基づいて取捨選択する必要がある。
  • 特に新興の産業や事業領域における事業戦略の検討にあたっては、「理解」と「判断」のみならず、「行動」の側面が無視できない。
  • 行動の過程で一度決められた判断がどのように左右されるかは、事業戦略研究の古典的分野でありながら、1つのフロンティアでもある。

第7章

  • 全社戦略で検討すべきは、根源的には戦略的意思決定であり、その顧客はアンゾフのCorporate Strategyで十分に議論されている。
  • 事業戦略も、全社戦略も、外部環境と内部環境の分析という部分で大きな重なりがある。また、多くの企業にとって多角化企業を前提とした全社戦略の議論はなじみがないため、両者が混同されがちである。
  • 経営戦略の一般的な教科書は、社会科学としての経営学の蓄積に出来る限り準拠しようとするため、その内容は多角化を骨格としたものとなる。
  • 実務家的な視点から全社戦略に必要な要素を再定義するのであれば、それに必要な要素は、①組織ドメインの定義・周知・更新、②全社機能の戦略検討、③事業領域の管理・再編、④監査・評価・企業統治、の4つがある。
  • 未来には、分散協調的に多数の組織体が動的に連携して事業創造する可能性が高い。その場合「全社」をどう把握し、どう戦略を検討すべきか、新たな議論が必要となる。

第8章

  • 管理会計は、経営戦略と同じく、1965年の書籍によって体系化された。
  • 1990年代に管理会計と経営戦略の距離が大きく縮まった。
  • BSCやKPIの議論が、非財務的情報を全情報と接合したことが転換点となった。
  • BSCが組織全体の数値管理を志向するのに対して、KPIは重要指標に焦点を当てる。BSCもKPIも、その導入にあたっては全社的な取り組みが必要である。
  • BSCもKPIも、事業環境や組織構造の変化に合わせて継続的な刷新が必要である。
  • 複雑化した巨大組織では、各種指標を各事業、昨日、チーム、個人に因数分解する。
  • 突然の変化に対応すべく、ときには本社指導の機動的経営資源投入にも求められる。
  • 論理的かつ構造的な数値管理、柔軟で機動性のある資源投入の両立が求められる。

第9章

  • 人間は、認知、情報処理、時間の制約から限定合理的だと考えられてきた。
  • モニタリングとインセンティブを限定合理的な人間の行動を統制する手段である。
  • 1970年代より、人間のヒューリスティックとバイアスに関する理解が進んだ。
  • 心理学の知見から、合理的に見えない人間の行動に関する理解を深めた。
  • 主観的理解を誘導し、説得により納得を引き出す作業も重要である。
  • 企業の行動規範、行動憲章などは、人間の行動を誘導する手段でもある。
  • 新制度派組織論は、人間の認知を左右する組織フィールドの理解を深めた。
  • 組織フィールドを意図的に誘導する制度戦略という考え方が発展しつつある。
  • 説得においては、コミュニケーションや物語性も極めて重要である。
  • 現在はマネージメントからリーダーシップの時代に移り変わりつつある。
  • 人工知能などの現在進行中の技術発展は、リーダーシップの重要性を高めるだろう。

第10章

  • 予測困難性、可鍛性、生存困難性のいずれかが高いと新興企業が生まれやすい。
  • 新興企業の多くが戦う事業環境では、シュンペーター型の競争が起きており、戦略検討の「定石」はそうした事業環境では不十分である。
  • 新興企業の経営戦略は、ミンツバーグの創発的戦略の概念で説明できる。
  • 1995年に提示された仮説思考計画法の考え方が、人工企業の戦略検討の源流である。
  • 2000年代後半にかけて確立されたリーン・スタートアップは、仮説思考計画法と同様の考え方を戦略フレームワークとして広く伝播させた。
  • リーン・スタートアップは、事業開発を「探索」と「実行」に切り分ける。
  • 探索では、市場との対話からプロダクト・マーケット・フィットを見出す。
  • 実行で行われる戦略検討は、グロースハックと呼ばれている。
  • 急速な成長の継続には、創業初期からの組織文化醸成が欠かせない。
  • 新興企業の戦略検討では、段階的に全社戦略が事業戦略から独立する。
  • 成長の過程で、新興企業がその特性を失い、成熟企業へと変化する。
  • 成熟後も創造性を失わない企業が、組織の永続性に近づいていく。

第11章

  • 現在は第二次グローバル経済の最中にある。
  • 4つの経営環境の変化が、グローバル化の流れを加速させた。
  • グローバル化が進む一方、世界の市場の異質性は依然として高い。
  • 現代の国際経営環境は、セミ・グローバリゼーションの状況にある。
  • 経営戦略と国際経営戦略の違いは、複数の国や地域を取り扱うことにある。
  • 統合と適合の最適なバランスを見出すのが、国際経営戦略の根源的な問いである。
  • 国際経営戦略は、外部環境の理解から戦略の方向性を見出す手法が主流である。
  • 外部環境の分析手法は、国際経営環境でも活用できる。
  • 事業環境の特性に合わせて、国際経営戦略の基本的な方向性を見出せる。
  • 現地市場では、外国企業は異質性と外部者性の負債にさらされる。
  • ダニングのOLI理論が海外進出に影響与える要因の理解に活用できる。
  • ADDING価値スコアカードは、網羅的な事業価値の分析に資する。
  • 新興国市場における競争では、制度の理解と非市場戦略を欠かせない。
  • 世界的な価値連鎖の時代では、国家を超えた組織と戦略が可決になる。

本文が473ページと非常に長編ですが、分かりやすい内容でこれまでうまくつながっていなかったことを繋げてくれる内容です。

特に私もそうですが、中小企業診断士の試験勉強などで、表面的にしか経営戦略を捉えられていない方たちにとっては非常に良い内容です。

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