著者:足立 光
なかなかユニークなタイトル。このタイトルのネーミングは捻りすぎて少しどうかなと思うところもあるのですが、内容としては著者足立氏の『私の履歴書』のような感じでしょうか。その中に仕事術がちりばめられています。(Inobe.Shion) |
内容紹介
マクドナルド300億円の大赤字⇒31カ月連続売上増! 「奇跡のV字回復」を率いた伝説のマーケターの〈仕事の習慣〉 マクドナルド総選挙、グランド・ビッグマック マクドナルド、P&G、ヘンケル、外資系コンサル…… 内容(「BOOK」データベースより) マクドナルドを「奇跡のV字回復」に導いた伝説のマーケターの「仕事の習慣」。“仕事が上手く回りだしたら、それは「成長」していない証拠。”“人を動かすのは「感情・結果・KPI」の順番。”“数字で測ることのできない仕事をするな。”―逆境を乗りこえ続けてきた“非常識”な仕事術。 |
帯のところに次の3つが書かれています。
●仕事がうまく回り出したら、それは「成長」していない証拠。
●人を動かすのは「感情・結果・KPI」の順番。
●数字で測ることのできない仕事をするな。
これらが本文で説明されていくのでしょう。
著者の足立氏は一橋大学時代に竹内弘高教授のゼミで学んだ、「30の戒律」というのに大きく影響を受けているとのことです。
その一部が紹介されています。(pp.6-7)
「時間がない、と言うな、時間は作れ」
「上に強く、下に優しくあれ(ただし、人を上下に見るな)」
「苦労は買って出ろ」
「会議で目を閉じるな」
「プライベートなパーティ、催しには積極的に参加せよ」
「相手の目を見て話せ」
「3つある、と答えろ」など。
仕事に対する考え方の「基本」として、「OGSM」というフレームワークがあります。「Objective(目的)」「Goal(ゴール)」「Strategy(戦略)」「Measurements(評価)」の頭文字をとった言葉です。すべてのビジネスは、目的から始まります。P&Gで叩き込まれたのは、あらゆる仕事で、「その目的は何か」を問われることでした。だから、プロジェクトでも会議でも、常に目的から話し始めることが求められます。(pp.14-15) |
この時代に2ケタ成長など極めて厳しいわけですが、外資系企業ではよく10%アップなどという目標設定がされます。これには理由があって、3%アップでは現状の延長線上の施策しか考えないからです。ところが10%、15%アップしないといけないということになると、現状の延長線上では達成できないので、まったく新しいことを考えなくてはならなくなります。イノベーションを起こせるか起こせないかは、実は目標設定自体にもポイントがあるのです。もちろん、商品や状況にもよりますが、若干無茶な、つまり現状の延長線上では絶対に達成できないような目標を立てれば、みんなが新しいことを考え出すようになるのです。(pp.16-17) |
昇進するには、それに値するだけの成長が求められます。ただ、自分が成長できれば、それ相応の機会は与えられる、ということでもあります。(p.19) |
後につながる大きな学びになったのは、マーケティングという仕事は、みんなの中心にいるようで、実は自分では何もできない、ということです。製造部門がないと物も作れないし、ロジスティク部門がないと製品を店舗に届けられないし、販売部門がないと売ることもできないのです。(p.23) |
「人は”やりたいこと”か”やらなければならないこと”しかやらない」その通りだと思いました。となれば、この2つにいかにもっていけるか。仕事で結果を出すには、論理と感情を駆使する必要がある、ということなのです。(p.24) |
「ワンページメモ」。これは、何か書類を作るときには、できるだけ1ページにまとめるというものです。最初に、メモをの「目的(Objective)」を書きます。情報を共有したいだけなのか、決断してほしいのか、意見を求めているのか。次にバックグラウンド「背景(Background)」を書きます。どういう背景で、このメモが作られているのか。さらに、自分はこうしたい、という「結論(Conclusion)」を書き、最後にその「理由(RationaleまたはFindings)」を書くのです。紙の書類なら1枚ですが、これはメールも同じです。まずは「目的」があって「背景」があって「結論」があって、最後の最後に「理由」が書かれます。しかも、それぞれを数行で簡潔にまとめるのです。・・・「ワンページメモ」は、相手のことを考え、相手がいかに早く理解し、決断できるのか、ということを考えた書類づくりなのです。読む人が、いかに時間をかけずに読み、理解でき、アクションを起こせるかを考えながら書くのです。(p.26) |
●ワンページメモ
・目的 Objective
・背景 Background
・結論 Conclusion
・理由 RationaleまたはFindings
そして、メールだけでなく会議もこれに沿って進めるというのです。
そうすることで、自分だけではなく、周りも含めて全体として効率を追求できるのです。(p.27) |
上のポジションのメンバーが先に発言したりすると、下のポジションのメンバーは、特に見解が違っている場合には、自分の意見を言いにくくなるので、あえてそれをやらないのです。下のポジションのメンバーから意見を聞いていくのです。私がこれが極めて合理的だと思ったのは、実は一番消費者に近いのは、一番ポジションが下のメンバーだからです。会社や商品にどっぷり染まっておらず、一番消費者データを分析していて、冷静に客観的に商品や会社、事業を見ることができるのです。逆に一番消費者から遠いのが、一番上のポジションにいる人です。一番消費者から離れている人の発言が最も大きくなったり、なんでも通ってしまったりするような会社は、危険だと思います。(p.34) |
言葉を換えると、「人」ではなく「意見」を大切にすることです。ポジションや権力にひもづいた「人」ではなく、「意見」そのものを重視するのです。これをやらないと消費者からはどんどん離れてしまい、ビジネスのために正しい意見が採用されなくなる危険があります。(p.34) |
レビューには、たしかに手間と時間がかかります。ただ、誰かがやりましょう、と言えばできることですし、やり続ければ、それが組織能力を上げ、成功の確率を上げるための素晴らしい仕組みだということに気づくと思います。ただし、それは上のポジションの人が率先しないといけません。ある程度の強制力がないと、誰もが忙しいので、わざわざレビューに時間を使い、それを他の人と共有したりしないからです。レビューをすることで、見せたくなかったものが見えてきてしまうかもしれません。・・・たとえ不都合な真実でも、知ることによって何らかのアクションが起こります。それは間違いなく改善と進化につながります。(pp.40-41) |
誰にどのような価値を提供してどのように収益を確保し続けていくか、というマーケティングの全体像がないと、どんなITインフラが必要なのか、どんな営業体制であるべきなのか、理論上、構築できないのです。経営戦略の前に、最初に来るのは実はマーケティング戦略で、それがあった上で、初めて営業やらITやらの戦略も固まってくるということなのです。その意味では、マーケティング戦略は、極めて重要です。誰にどんな価値を提供していくか、ということは、企業活動の根幹になるからです。理念やビジョンという形をとることもあるでしょう。(p.58) |
実務として大切だと感じたのは、知識を持つことではなく、「自分の意見を持つ」ということです。対峙する相手が上場企業の経営企画部長であっても、財務部長であっても「私はこうしたほうがいいと思います」「それはやめたほうがいいと思います」とはっきり言えるかどうか、です。逆に、知らないことは「そこはわかりません」と正直に言えるかどうか。それができるかどうかで、圧倒的に相手からの信頼が変わります。知識はいくらでも身に付けることができます。しかし、見解をもてるようにならなければ、成長したことにはなりません。自分が常に、どんな課題に対しても見解を持てるように、いろんな人と話したり、本を読んだりしました。(p.67) |
コンサルタントというと、ロジックのイメージを強く持っていましたが、ここでもやっぱり「感情」なのか、と思いました。一生懸命さ、パッション。どんなに正しいことを言われても、腹落ちしなければ動かないのです。「感情」がなければ、人は動かないということです。(p.68) |
「シンガポール・プリンシパル(シンガポール原則)」という言葉があります。それは、何か嫌なことがあったときは、出て行く、ルールを変える、我慢する、の3つしか選択肢がない、という考え方です。・・・シンプルですが、このことに気づくと、ストレスがなくなります。多くのケースで、我慢するしかないという選択になりますが、どうせ変わらないルールなら、そもそも考えなければいいのです。自分でコントロールできないことを、いくら考えても仕方がありません。・・・考えてもどうしようもないのです。であるならば、考えなければいいのです。自分でコントロールできること、自分のアクションで変えられること、しか考えない。そうすれば、ストレスはなくなります。(pp.94-95) |
新しく来たリーダーというのは、何かの取り組みをしようとするとき、時間をかけても、効果の高い施策をやりたがる傾向があるのです。・・・時間のかからないもの、すぐできる施策をやっていくことで、結果が出て行きます。そうすると、自信が生まれていきます。その間に、効果の高い施策を準備しておけばいいのです。実績を出してリーダーとして信頼を得ながら、必殺の一撃を準備しておく、ということです。(pp.112-113) |
どうして、こういうやり方をしているのか。そこには、理由があるはずだからです。だから、「どうしてなのか」または「どうしたらいいと思う」と聞くわけですが、私にもこう質問する意図がありました。多くの場合、その質問に対して、すでに私が答えを持っていた、ということです。ただ、私から「こうしてはどうですか」と言ってしまうと、聞く方からすると、その瞬間に上から押し付けられた意見になりかねません。言われたことをやるのと、自分で気づいて自発的にやるのとでは、同じ行動でもまるで意識が変わります。だから、どんどん聞き続けるのです。そうすると、正しい答えにたどり着いたり、近づいたりするようになるのです。私が考えていた答えが社員の口から出たときは、「そうですよね!素晴らしい!やりましょう!」と、言うわけです。そうすると、その答えはもはや私の意見ではなく、社員が自発的に出して私が同意した意見、になるわけです。(p.140) |
企業文化は極めて重要です。同じ考え方や価値観を持つ人が多ければ、圧倒的に仕事が進めやすくなります。そして外からは会社としての顔が見え、特徴のある会社になれます。そこで私が提案したのが、「4つの行動規範」でした。企業文化というと、ビジョンやスローガンなどのメッセージを思い浮かべる人がいます。しかし、例えば「お客様第一主義」などという言葉を掲げたところで、企業文化は生まれません。それよりも重要なことは、「具体的な行動」です。それこそが、企業文化を作るのです。私が提示した行動規範は、以下の4つでした。(pp.153-154) |
1.共同体=Ownership ・(自分とは関係ない部署のことでも)見逃さない ・あきらめない ・自ら行動する 2.責任=Commitmenet ・できない約束はしない ・約束したら必ず守る ・他責をしない(他部署のせいにしない) 3.意見=Opinion ・意見を言おう ・代替案のない批判はしない ・自らが納得して行動する 4.スピード=Speed ・電話・メールを問わず、48時間以内の回答 ・すぐにできないなら、いつまでにできるか、の提示 ・会議の徹底的な効率化 |
スピードを追求する一方で、「重要だが緊急ではないことに、毎日一定の時間をあてる」ことも求めました。中長期的に強い会社になろうとすれば、目の前の火消し作業だけではなく、緊急ではないが重要なことに目を向けて、未来の種を蒔いていくことも必要です。(p.155) |
実は、ほぼすべての行動規範には「悪い例」もつけました。「何をしてはいけないのか」が明らかにされていれば、望ましくない行動を消し去ることができるからです。(p.155) |
日本マクドナルドでマーケティング本部のメンバーに伝えていた「マクドナルドのマーケティング 15の戒律」をご紹介しておきます。そうです、この「戒律」という言葉は、竹内ゼミの「30の戒律」から取っています。(p.279) |
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組織を動かすには3つの要素が、この順番で必要です。 「感情」 「結果」 「KPI」 まずは、「この人、誰?」という状態から抜け出さなければなりません。「こいつが言うならやってやろう」と思ってもらい協力してもらえるようになるためには、「感情」を意識しないといけません。言葉を換えれば、「仲間」とか「戦友」になることです。こいつは仲間だな、と思ってもらえるかどうかです。(p.283) |
マーケティングは企画だという人もいますが、私はそうではないと思います。実行して動かしていくのが、マーケティングの最も重要なところです。マーケターには、3つの役割があると考えています。1つ目は扇動者です。人の心に影響を与え、結果として行動に影響を与えるような、人心操作をする人です。2つ目はプロデューサーです。ビジネスを作るためには、誰の仕事でもないけど必要な仕事がたくさんあります。なので、自分の責任範囲外だろうがなんだろうが、それをすべて拾って、仕事を進めていく役目です。3つ目の経営者です。単発ではなく、継続的にビジネスが成功するような仕組みを作る役割です。例えば、強いブランドを作るというのはこの役割の仕事のひとつです。マーケティングとは、これだけ重みのある仕事であり、経営そのものだ、というのが私の信条です。(pp.285-286) |
久しぶりにがっつりと読ませていただきました。それぞれ転職を通して、多くのエッセンスをご自分の中で消化されて、自分流を確立していった様が良く述べられていました。