コトラーの「予測不能時代」のマネジメント

コトラーの「予測不能時代」のマネジメント

著者:高岡 浩三,フィリップ コトラー,ジョン・A. キャスリオーネ

昔から勉強していた「シナリオ・プランニング」にも通じるリスクに備えた先読みの動きの指南です。これを意識しているか、しないかは大きな違いです。(Inobe.Shion)

「chaotics」の画像検索結果

内容紹介

グローバリゼーションとテクノロジーによって、いま世界は「乱気流」という新たな時代に突入している。
今日の変化のスピードと衝撃の規模は、いままでよりもはるかに大きい。
企業には、この乱気流のリスクから身を守り、不確実性に対処する仕組みが必要だ。
その仕組みこそ、本書で解説する「カオティクス・マネジメント」である。

「マーケティングの神様」フィリップ・コトラーが教える
不確実な世界で勝つ戦略と仕組み!

内容(「BOOK」データベースより)
マーケティングの神様が教える不確実な世界で勝つ戦略と仕組み。

著者について
フィリップ コトラー
ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院インターナショナル・マーケティングS・C・ジョンソン・アンド・サン・ディスティンギッシュド・プロフェッサー。「近代マーケティングの父」と目されている。代表的な著書である『マーケティング・マネジメント』は第13版まで出ており、MBA(経営学修士号)取得を目指している人々に世界中でもっともよく読まれているマーケティングのテキストとなっている。IBM、バンク・オブ・アメリカ、GEほか、さまざまな企業の顧問も務めている 。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)

コトラー,フィリップ
ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院インターナショナル・マーケティングS・C・ジョンソン・アンド・サン・ディスティンギッシュド・プロフェッサー。「近代マーケティングの父」と目されている。30冊を超える著書がある。IBM、バンク・オブ・アメリカ、GEほか、さまざまな企業の顧問も務めている

キャスリオーネ,ジョン・A.
グローバル経済の専門家。世界規模のM&Aのアドバイスを行なう、GCSビジネス・キャピタルの創設者兼社長である。国際経営コンサルタント会社のアンドリュー・ウォード・インターナショナルの創設者兼社長でもあった。ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院では客員講師として、グローバル・ビジネスについて講義している。グローバリゼーションと、新興成長市場も含めたグローバル・ビジネス戦略に関する著作もある。ニューヨーク州立大学(バッファロー校)でMBA、シカゴケント法科大学院で法務博士を取得

高岡/浩三
ネスレ日本株式会社代表取締役社長兼CEO。1960年、大阪府出身。1983年、神戸大学経営学部卒。同年、ネスレ日本株式会社入社。各種ブランドマネジャー等を経て、ネスレコンフェクショナリー株式会社マーケティング本部長して「キットカット受験生応援キャンペーン」を成功させる。2005年、ネスレコンフェクショナリー株式会社代表取締役社長に就任。2010年、ネスレ日本株式会社代表取締役副社長飲料事業本部長として新しい「ネスカフェ」のビジネスモデルを構築。同年11月、現職に就任

齋藤/慎子
同志社大学文学部英文学科卒業。広告制作会社、広告代理店を経て、翻訳に従事(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

原題は、
「CHAOTICS」
The business of managing and marketing in the age of turbulence.
です。

こちらですが、もともとは2009年に出された『カオティックス』の復刻版のようです。読んだかどうかの記憶はありませんが、改めて読んでみます。

大勢の人が気づいて購買行動を変えるまでには、ある程度のタイムラグがある。それが一度に起こると急に変化が怒ったように見えるが、実は水面下で徐々に変化が進行しているのだ。予期せぬ乱気流はこのように、知らず知らずのうちに「新しい現実」として忍び寄っている。だから常に目をこらし、「新しい現実」を見極め、問題の早期発見に努めなければならない。経営の舵は、急には切れないのだ。(p.vi)
先に紹介した「ネスカフェアンバサダー」には、家庭内の消費が減ることを早くから見越して準備をしていたから成功したという一面もある。家庭に人がいなくなった代わりにオフィスでの消費を狙ったわけだが、その間ずっと、徐々にだが、大きなサイズの「ネスカフェ」の売上は減少傾向にあった。大きく減少してから初めて新しい現実に目を向けて、「ネスカフェアンバサダー」を軌道に乗せようとしても、急にはうまくいかない。だからこそ、いち早く「新しい現実」を見据え、問題を浮き彫りにし、いち早く準備しておく必要がある。(p.vi)

これはまさに「シナリオ・プランニング」ですよね。

予測不能の乱気流が常態化した現代、企業を持続的に成長させるためには、経営者は常に「新しい現実」を見続け、問題を発見していく以外に道はない。そして本書で書かれているカオティクス・マネジメント・システムは、きっとその一助となるはずだ。(p.ix)
インテルのアンドリュー・S・グローブは不確実性と常に隣合わせだった。インテルは、厄介な状況が差し迫ればその兆しがわかる早期警報のしくみを立ち上げざるを得なかった。さまざまな「起こりうる事態」を想定しなくてはならなかった。そして、そうしたさまざまな想定シナリオが実際に起こった場合に備えて、さまざまな対応策をあらかじめ計画する必要に迫られていたのである。グローブは、リスクから身を守り、不確実性に対処するしくみを新たにつくることになった。そうしたしくみには名前がいる。わたしたちはこれを、カオティクスと呼んでいる。どんな企業も、リスク(測定可能)と不確実性(測定不能)から逃れることはできない。したがって、景気後退そのほかの乱気流状態で経営し、売り込んでいくための、早期警報のしくみ、シナリオ・プランニングのしくみ、素早く対応するしくみをつくり上げる必要がある。(p.xiv)

そして、ほとんどの企業がカオティクスのしくみを全く用意していないことが分かったと。そして、うまくいっていることが通常だと思っていると。それに対してアンチテーゼを提示しています。まさにシナリオ・プランニングの必要性です。

乱気流こそが新しい通常状態(ニューノーマル)であり、景気が突然よくなったり沈滞したりということが断続的に起こる。そして、景気沈滞が長引いて景気後退や不況にまで至ることもあるのだ。(p.xv)

さらに説明が続きます。

乱気流で明らかになる大きなことがふたつある。ひとつは脆さで、企業はこれに対する防衛策をとる必要がある。もうひとつは機会で、これは活用しなければならない。景気が悪いのは多くの企業にとって嫌なものだが、中にはそれが吉となる企業もある。力のあるどこかの企業が、あるライバル企業の事業を奪い取ったり、体力の落ちているライバル企業を割安で買収したりするときに、機会が生じる。競合他社が軒並み重要な費用を削減している中、自社だけは削減しないときに、機会が生まれるのだ。(p.xv)

乱気流には、いろいろな視点でかつポジ的にもネガ的にも見つめ直すことで新たな考える筋が見えてくるのだということなのでしょう。これこそがシナリオ・プランニングの真髄でもあると思います。

乱気流時代、企業の競争環境は劇的に変化している。動きの鈍い既存企業が各々のポジションんを維持しようとする競争から、動きのすばやい攻撃的企業が業界大手の優位性の破壊に狙いを絞った戦略によって引き起こされる競争になってきている。そうした業界大手の優位性の破壊に狙いを絞った戦略によって引き起こされる競争になってきている。そうした業界大手のほうがたいてい規模が大きく、融通が利かず、その優位性も、より従来型の(そしてますます時代遅れの)ものであることが多い。競争上の優位性がますます一時的なものとなっているため、もっとも成功している企業とは、この乱気流とカオスのさなかに競争の場を次々と移していける企業ということになる。このカオス的超過当競争下では、これまでの地位が崩れ落ちる前にすばやく新たな競争力を付けられない企業は、利益を減らすことになる。無意味で費用ばかりかさむ戦略が重荷となり、新たなカオティクスによる戦略的対応が素早く取れない企業の多くは、特にそうなるだろう。(p.43)
乱気流が猛烈なペースが発生しているため、多くの企業は準備が整わないまま、乱気流がもたらす様々なカオスにさらされやすい状態にある。この新時代への突入は、とてつもない機会の時期にもなれば重大なリスクの時期にもなる。そして、ビジネスにおける乱気流は避けられないが、それにどう立ち向かうかは確実に選択できるのである。うまく切り抜けられるかもしれないし、巻き込まれるかもしれない。ふんばって生き残りを模索しながら、乱気流が引き起こすカオスに見て見ぬふりをしたり、じっと耐えたりする手もある。しかし、乱気流の威力を予想して、レバレッジ効果で有利になるようにもっていくこともできるはずだ。(p.56)

そして、さら言及します。

いますべきことは、自社の技術・しくみ・手順・専門分野を発展させて、周囲の乱気流をすばやく検知・予測し、それがもたらすカオスから生じる自社の脆さと機会を見極めることである。そして、賢明かつ慎重に、断固とした決意で対応しなければならない。(p.57)
カオスがもたらす唯一確実なことは、どれほどやり手の企業であっても、乱気流時代、特に強度の乱気流時代には保証は一切ない、ということである。だからこそ、カオスがより頻繁に意表をついてあちこちで発生するにつれ、もっと自覚し、うまく準備を整えて、乱気流に見舞われたときに企業が犯しやすい過ちを避けながら、切り抜けなければならないのである。(p.67)

切り抜けるにあたって、従来とカオティクスアプローチの比較です。本文では図解されています。

■乱気流を切り抜ける(p.67の図)
【従来の2パターンのシナリオ・アプローチ】
1.乱気流に接近

  • 通常通りの姿勢で堂々と業務を行う
  • 差し迫る激流の恐れを軽視し、従業員の不安を鎮静化する
  • 組織変更を行う前にまず様子見の姿勢を取る

2.乱気流に直面

  • 会社一律の強引な経費削減や人員削減
  • 新規プロジェクトの中止
  • 新製品の研究・導入の中止
  • 買収の中止

3.乱気流からの脱出

  • 過去の失策の穴埋めとして、収益確保のために規模を縮小する
  • 従業員の士気・顧客・その他ステークホルダーを含めて、事業を再建しようとする

【カオティクスアプローチ】
1.乱気流に接近

  • 新たな戦略的対応を主要な事業と部門に盛り込んで、各事業と市場を守る
  • その上で、自社より弱い、あまり準備の出来ていないライバルを踏み台にして果敢に成長する

2.乱気流に直面

  • 方策を広く検討する
  • 戦略上重要なステークホルダーにパートナーとしての協力を求め、確実に切り抜けられるようにする
  • ライバル企業の買収・新たな人材・新たな資産を獲得する
  • 核事業の確保と強化

3.乱気流からの脱出

  • 一貫して安定した強い勢いで前進を続ける
  • 目的をもって計画的に行動し、勢いのないライバル企業を尻目に成長する

以上のように、乱気流を切り抜けるにあたっての新旧比較と合わせ、乱気流に見舞われたときに企業が犯しやすい過ちが書かれています。(p.68)

  • コア戦略と企業文化を損なうような資産配分を行う過ち
  • 計画的行動ではなく、全社一律の経費削減をする過ち
  • 目先のキャッシュのために人材を使い捨てにする過ち
  • マーケティング、ブランド、新製品開発の各経費を削減する過ち
  • 売上減少を挽回するために値下げする過ち
  • 販売関連費を削減することで自ら顧客から離れていく過ち
  • 社員研修や能力開発費を削減する過ち
  • 仕入先や販売業者を軽視する過ち

これって、まさに言い得て妙です。堕ちていく企業は不思議とこの過ちの掛け算になってますね。

 『ビジネスウィーク』誌があるリストをまとめた。景気低迷期や乱気流期に対処しようとして、企業が犯す重大な過ちトップ10である。これを見れば、真剣に価格競争をするつもりがないかぎり、新たな取り組みを続ける力があることこそが、競争力を維持し、ライバルに差をつけるために残された数少ない手段であることに気づくはずである。新たな取り組みいかんで、業績・成長・株価が変わるのだ。(p.79)
◎景気の乱気流期に起業が犯す、新たな取り組みに関する過ちトップ10
①有能な人材を解雇する
②技術費を削減する
③リスク覚悟で思い切ったことをしない
④製品開発をやめる
⑤トップを成長志向型からコストダウン志向型の人物に代えてしまう
⑥グローバル化路線から撤退する
⑦重要戦略である新たな取り組みをトップが撤回してしまう
⑧業績指標を変更する
⑨協調路線よりも序列関係を強化する
⑩安全な場所に逃げ込む
予算が苦しい時、企業がより保守的になるのはもっともなことだが、リスク覚悟でやってみようとしない、製品開発に投資しない、協調路線の必要性を見誤る、こうした企業は、景気が上向きになったときに太刀打ちできなくなってしまう。一方、景気が厳しい時に研究開発や新製品開発に投資している企業は、引き続き収益を上げることになる。上げるどころか、景気が最も厳しい時期に決まって現れて、なにか斬新なものを武器にライバルをほぼ間違いなく打ち負かす、勝ち企業となるはずだ。・・・乱気流をうまく切り抜けるカギの一つは、厳しいものの見方に慣れることである。困難な時代にものをいうのは、現実的なものの見方である。業績が悪化するにつれ、つい厳しい経済環境のせいにしたくなる。しかし、もっとも厳しい時期であっても、ライバル企業の中には他社をしのいでいるところもあるわけだ。勝ち企業となって乱気流から抜け出る唯一の方法は、そのタイミングをつかむことである。つまり、手堅く現実的な決断を下すことで、自社と自社製品が努力次第で生き残れる、ひょっとすると繁栄すらできるチャンスをもたらすのである。(pp.80-81)
信頼できるブランドや専門性の高いサービスを求めて、価格に関係なくまた利用してくれるような顧客を維持するための投資を控えていると、その企業の将来はいずれ危ういものとなる。多くの業界で、ひとにぎりの顧客が全売上に対して高い割合を占めていることが、十分な裏付けのある調査で明らかとなっていることを考え合わせると、これはかなり危険である。(p.85)
社員研修や能力開発の重要性を認識していない企業は、最終的にはステークホルダーの価値を損なうことになる。また、社員研修や能力開発への投資をいとわないライバル企業に、自社の有能な人材を奪われるかもしれない。(p.87)
仕入先を締め付けるという一時的な解決策も、効果よりむしろ害になりかねない。不景気や乱気流はいつまでも続くわけではない。仕入先に値下げを強要したり、次の四半期中に売り切るのは無理と分かっていながら、製品在庫を販売業者に押し付けたりすると、乱気流が静まった後も相手は忘れないものである。コスト管理は慎重に行わなければならない。重要なのは一貫性である。好況時と不景気時で態度を変えるのはよくない。さもないと、仕入先・販売業者・その他ステークホルダーから信用してもらえなくなり、協力関係や生産性がすっかり低下してしまう。(p.89)
乱気流はマクロ(世界・地域・国)レベルで起こるかもしれないし、ミクロ(業界・企業)レベルで起こるかもしれないのだ。乱気流は予測不可能なので、その兆しをできるだけ早く見極めることが、企業が将来にわたって成功するために不可欠である。(p.99)
ひとたび戦略転換点に達すると、企業はそれまで露呈していなかった脆さ、あるいは新たに発覚した機会に対処せざるをえなくなる。いずれにしても、慎重かつときに大胆な行動で取り組むことが迫られる。それにはたいてい、新しいものの見方を身に付けることが求められ宇賀、そうでなければ、もはや時代遅れとなった戦略やビジネスモデルを押しのけられない。一般に、新しいものの見方とは、こうした変化の原因にずばり迫ることである。そうした原因が、目に見えない脆さの根幹にあるかもしれない。(p.106)

検討すべき新たな態度として次の3つが挙げられています。
①変化を直接肌で感じる
②フィルターを外す
③戦略が廃れていくのは避けられないことを認める

カオティックス・マネジメントは、乱気流とそれによるカオスを検知・分析してそれに対応するための体系的手法であり、次の三要素からなる。(pp.108-109)

  • 「早期警報システム」を開発して乱気流源を検知する。
  • 「キーシナリオの構築」でカオスに対応する。
  • 優先順位の高いシナリオとリスクに対する態度に基づいた「戦略を選択する」。
企業の早期警報システムの開発で高い評価を受けている第一人者の二人の共著『強い会社は「周辺視野」が広い』で二人がこう述べている。「企業にとって一番危ないのは、迫っていることに気づかない危険であり、そうした前兆の重要性を理解し、一方で機会を先取りするには、強力な周辺視野が必要である」。(p.111)

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ディとシューメーカーはさらにこう指摘している。「自社の重点分野をよく検討するときに問うべきことは絞られているし、その答えも明瞭だ。・・・ところが、周辺ニーズを検討するときの問いは、それよりはるかに制限がなく、その答えも明瞭とは程遠い。・・・デイとシューメーカーが勧めているのは、まず経営陣が次の8つの重要な問いに答えること。その上で、この問いに沿った議論を深めてから、早期警報システムの開発に着手することである。(pp.112-114)

  1. これまで盲点だったのはどこか。そこで今何が起こっているか。
  2. 役に立つ似たような例がほかの業界にないか。
  3. 無理やり正当化している重要な兆候はなにか。
  4. 業界内で、ちょっとした信号に気づき、それに基づいてどこよりも先に動くのがうまいのはどこか。
  5. 社内の一匹狼や非主流派が言おうとしていることはなにか。
  6. 今後、自社にかなり損害を与えそうな(あるいは役立ちそうな)思いがけないことはなにか。
  7. 業界の流れを変えそうなこれからの技術はなにか。
  8. 想定外のシナリオはあるか。どんな内容か。
早期警報システムの分野に取り組んでいるもうひとりの第一人者、ベン・ジラードが、同じことを繰り返し強く主張している。すなわち、起業には目の前のことが少しも見えていないということである。ジラードのシステムは、企業が思いがけない事態に不意に見舞われるのを避けられるよう、外部環境に焦点を合わせたものである。焦点を合わせた、3つの要素からなるこの強力な早期警報システムは、ジラードのいう「業界の不調和」を避けることを想定している。これは、市場の現状が一企業の戦略を追い越したときに起こる事態のことである。このシステムの3つの要素は次のように、異なりながらも互いに依存している。

  • リスクの特定
    影響を受ける可能性があるのは、どのような市場動向と産業動向か。
  • リスクの観察
    影響を及ぼす(あるいはそのうちに及ぼすようになる)兆しとなりそうな、ライバル企業や業界全体のどういう動きがあるか。
  • 経営陣の対応
    リスクがどう変化するかを常に頭に入れて、組織が損害を受ける前にすばやく積極的な対応に着手する用意ができているか。
企業が複数のシナリオを構築する際、不確実な要素がどれだけあるかに大きく左右される。マッキンゼーの再起のあるレポートが、不確実性を4つに分けて、それぞれの特徴を挙げている。(pp.122-124)

  • 【レベル1】はっきりした将来像が見えていて、多少は残る不確実製要素も戦略決定には影響しないため、ひとつの予測展開だけで、戦略立案に十分正確な基盤となり得る。
  • 【レベル2】いくつかの将来像が考えられ、いくつかのシナリオのいずれかになると想定できる。
  • 【レベル3】さまざまな将来像の可能性が考えられるが、重要な不確定予想は限られている。
  • 【レベル4】まったく不透明であり、不確実な状況のさまざまな局面が互いに影響しあっていて、予測がほぼ不可能である。
マッキンゼーのこの不確実性の4つのレベルに当てはまらない、極度のカオス状況下では、正しい答えを見つけようとしてもおそらく無駄だろう。そもそも、因果関係をハッキリさせるのが無理である。絶えず変化していて扱えるようなパターンが存在せず、ただ、極度の乱気流とカオスがあるのみだからである。これはもう不可知の領域である。2001年9月11日に起きたこともこの範疇に入る。こういう場合に企業が即すべきことは、パターンを見つけることではなく、止血である。まず、秩序を確立すべく行動し、次に、安定しているところとそうでないところを探り出し、それから、カオス的状況を複雑な状況へ、そして、ある程度の秩序へと変えることに取り組む。そこまで来れば、カオスの出現パターンを特定することが、この先の危機を防ぐことにも、新たな機会に気づくことにも役立つ。ここでは、もっとも直接的なトップダウン方式や一斉伝達のようなコミュニケーションが不可欠である。意見を求めている時間など一切ないからだ。(p.125)
シナリオ構築に積極的に関わることで、より深い洞察力が得られ、戦略立案にもっと柔軟性が持てるようになる。そうやって見ていくと、ある情報群がほかの情報群よりも重要になってくる。そうなれば、さらなるヒントやパターンを探したり、自分たちの考え方や戦略的対応を試したりしながら、情報収集に磨きをかけることができる。こうしたシナリオ立案で一番重要なのは、「将来をリハーサル」出来ることがあり、これは、あらゆる行動と決定が問われる日々の企業活動にはない機会である。(p.126)

次にあげるのは、シナリオ・プランニングの効果的かつ効率的なやり方の一つである。

  1. そのシナリオ分析で答えるべき主要な問いを決める
    こうすることで、ほかの手法や類推による分析よりシナリオ・プランニングのほうがいいかどうかの判断ができる。
  2. 分析の範囲と期間を設定する
    これまでにどのくらいの速さで変化が起きてきたかを考慮したうえで、デモグラフィックス(人口動態)・製品ライフサイクル・その他関心のある分野の動向をどの程度予測できるかを判断する。
  3. 主なステークホルダーを特定する
    起こり得る結果に影響を受けたり関心があったりするのは誰かを判断する。そうした相手の目下の関心事はなにか、それは時とともに変わってきたかどうか、変わっていたらそれはなぜか、を特定する。
  4. 基本動向・乱気流・その結果生じるカオスの威力を調査する
    この調査には、業界・競合・景気・政治・技術・法律・社会の各動向を含まれる。ブレインストーミングを行い、そうした動向が調査項目にどの程度影響するかを判断する。その後、それぞれの動向が、なぜ、どのように、組織や事業に影響するかを明確にする。
  5. カオスを生み出す主な不確実要素をつきとめる
    業界・市場・事業に重大な影響を与えそうなカオス的魅力も突き止める。異なるカオス的勢力の間に何らかのつながりがあるかどうかを判断し、「ありえない」シナリオは一切排除する。
  6. キーシナリオを決める
    たいてい、2~4通りのシナリオができあがる。できればそれを座標化すること。ひとつのやり方として、プラス要素はすべてひとつのシナリオに、マイナス要素はすべて別のシナリオに入れてから、それ以外のシナリオを練り上げる方法がある。そうすれば、100%の最良・最悪シナリオにならない。さらに必要となりそうな追加調査を確認し、実施する。
  7. キーシナリオの善し悪しを判断する
    目標達成に必要なシナリオか。内部に矛盾がないか。典型的か。比較的安定した結果状況を象徴しているか。
  8. 決定したシナリオに集中する
    組織が直面している基本的問題に取り組むシナリオができあがるまで、ここまでの7ステップが繰り返し見直す。それぞれのシナリオのプラス面とマイナス面を見極めてから、起こり得る確率に基づいて各シナリオに優先順位をつける。
シナリオの場合は、企業が直面している現実世界にもっと近い。複数の要素の複合効果に焦点を合わせている。したがって、シナリオを構築することは、複雑に織りなされた状況で、その中の糸を数本動かしたら、ほかのさまざまな糸がどう動くかを理解する手助けとなる。すべての要素を総合的に検討しているうちに、その中のある組み合わせが影響を拡大しうることに間もなく気づく。それによって、起こり得る将来に対する理解がさらに深まるかもしれない。(pp.129-130)
一番の問題は、不確実な要素が多すぎて、どのシナリオが現実となりそうかが分からないことである。それでも、なにが起ころうと、そこそこうまく対処できる戦略を探し求めることに意味がある。もしかなり違う事態になっても、ほかに考えられる対応をすでにじっくりと練ってあるからである。(p.132)
現在、そしてこれからは、企業がなにを所有しなにを生産しているかということよりも、乱気流を検知し、カオスを予想して、リスクを管理する能力のほうが問われるかもしれない。リスクを特定して管理するのは決して容易なことではない。シナリオと戦略を構築して予想されるリスクに対処し、一方で機会を活用するには、新たな戦略的対応と規律を組織全体に浸透させなければならない。そして、こうした新しくかつ必要な対応が日々の意思決定プロセスに浸透することで、弾みがつき、乱気流によるカオスを組織が一丸となって切り抜け、ライバル企業に常勝する企業文化が生まれる。乱気流の激しい逆風を受けながらも、この「波乱の時代」に成功するのは、そういう企業なのである。(pp.135-136)
企業には、カオスへの対応と戦略が組織の隅々にまで行き渡り、しっかりと浸透するように徹底する責任がある。・・・この新しい環境をさらなる機会と見ようが、さらなる脅威と見ようが、増大している乱気流は、いまやビジネス界の避けられない現実である。この新たな現実にもっとも効果的に対処する方法は、実践的かつ規律正しく取り組むことである。この新たな現実にもっとも効果的に対処する方法は、実践的かつ規律正しく取り組むことである。明確な仕組みのこの手法は、反応性・強靭性・弾力性の高い、経営のフレームワークを中心に設計したもので、このフレームワークをベースに、各主要部ものを運営するといい。そうすれば、シティグループやGMのように危機の際に不意を突かれたり、とんでもない混乱や破綻する事態を避けようと慌てふためいたりする可能性を減らせる。(p.139)
ビジネス環境はいまや、予測がますます困難となりつつあるほどの変わりようである、と認識すること。この新たなビジネス乱気流環境に乗じるには、反応性・強靭性・弾力性を着実に高めなければならない。さもないと失敗する恐れがある。それが、「カオティクス・マネジメント・システム」を実施する目的である。企業に必要なのは、避けられない経済の乱気流とカオスに正面から立ち向かうこと、それも、新たな戦略的対応、つまり「カオティクスによる戦略的対応」を各主要部門に展開し、積極的に対応することである。標準的企業で言えばこの主要部門とは、財務(情報通信テクノロジーを含む)、製造/オペレーション、マーケティングと販売、調達、人事の各部門である。(pp.141-142)
企業の究極の目標は、反応性・強靭性・弾力性の高い組織づくり、つまり、生存し、反映する能力のある組織づくりである。「企業の持続可能性(BES)」を目指し、実現するのはそういう組織である。(p.142)

ここで、反応性・強靭性・弾力性の3つの特徴が書かれていますので、抜粋します。(pp.142-143)

 

  • 反応性
    外的刺激にすばやく反応できる資質
  • 強靭性
    ストレス、プレッシャー、やり方や環境の変化に耐えられる資質、つまり、環境に対処する上で、機能性の損害・変更・低下を最小限に抑えながら、さまざまな変化(時に予測不可能な変化)にうまく対処できる力。
  • 弾力性
    曲げたり縮めたり伸ばしたりした後に、元の形状や元の場所に戻ることができる資質のことで、企業の場合は、再起や回復の力があること。

ハーマン・サイモンが2000社を超える隠れたチャンピオン企業を詳しく調べるとある特徴が見出せたということです。

一般の人にはあまりよく知られていないものの、非常に収益性の高い企業ばかりである。世界中に散らばっているが、欧州と北米に特に集中している。サイモンは隠れたチャンピオン企業を、通常、B2Bに従事している中規模の会社と説明している。高度に集中化していて、同業種トップの品質を誇り、顧客密着型で、革新性があり、事業活動は地域または世界展開していることが多い。さらに、非常に収益性が高く、事業を行っている大陸内で1位か、世界市場でも3位内に入っている。(p.143)

サイモンは、この隠れたチャンピオン企業に学んだ「9つの教え」を、重なり合う3つの円を用いてまとめている。(pp.143-144)

●コアに欠かせない2つ
①強力なリーダーシップ
②意欲的な目標
●内部能力と密接につながっている3つ
③自社の強さへの信頼
④たゆまぬイノベーション
⑤選り抜きのやる気ある従業員
●外部の機会を追う力を特徴づけている4つ
⑥限られた市場への集中
⑦競争力
⑧顧客密着型
⑨グローバル志向
隠れたチャンピオン企業が、環境はいまや予測不可能なほどさまざまに変化していることを認識しているように、どの企業もこの新しい環境の中で、反応性・強靭性・弾力性をさらに高め、着実に成長しなければならない。(p.144)
サイモンの隠れたチャンピオン企業のモデルは、進化生物学者であるスティーブン・ジェイ・グールドが提唱しているモデルとよく似ている。いわゆる「断続平衡説」でグールドは、進化は徐々に起こるのではなく突発的に起こるものだと主張した。ごくわずかな変化しか見られない期間が長く続いた後に、短期間で突然変異が起こる。この仮説は、市場全般に、そして隠れたチャンピオン企業には特に、うまくあてはまるといえそうだ。(p.144)
「カオティクス・マネジメント・システム」を実施する明確なロードマップとして、わかりやすく高度に集中化した8段階の手順を次にまとめた。(pp.145-146)

①乱気流とカオスの発生源の特定
②乱気流に対する誤った対応の特定
③早期警報システムの確立
④キーシナリオと戦略の構築
⑤キーシナリオの優先順位付けと戦略の選択
⑥カオティクスによる戦略的対応の実施
⑦カオティクス・マーケティング戦略の実施
⑧企業の持続可能性(BES)の達成

さらなる指針として、「カオティクスによる戦略的対応」を実行する5つのステップをまとめた。これを主要部門ごとの主な支援部門とステークホルダーに組織全体で部門ごとに適応すること。各部門がこの実行プロセスをステップごとに進める際は、絶えずその戦略的対応を見直し、守勢する必要があることを忘れないこと。(pp.146-149)

ステップ1:現在のビジネスモデルと戦略の再確認
ステップ2:カオス下での戦略実行能力の判断
ステップ3:戦略的対応の実行プロセスの明確化
ステップ4:「カオティクスによる戦略的対応」の実行
ステップ5:見直しと修正

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