ポストM&A 成功戦略

ポストM&A 成功戦略―企業価値を最大化する統合の実践シナリオ

ポストM&A 成功戦略―企業価値を最大化する統合の実践シナリオ
著者:松江 英夫

内容紹介
M&Aの成功とは、何よりM&Aに期待した「自身の目的を達成すること」、と「多様なステークホルダーの評価を手にすること」を両立すること。それは、単にその案件が成立することとは異なる。統合後の企業価値をいかに高めるか、実際の企業事例から導き出された成功戦略を説く。内容(「BOOK」データベースより)
M&Aの「成立」はゴールではない。「成立」を「成功」へと導く方法論とは?J.フロントリテイリング(大丸・松坂屋)、JFE、キリン・協和発酵、小田急、三菱ケミカルなどの事例多数。

★読書前のaffirmation!
[きっかけ・経緯]
[目的・質問]
[分類] 335.46:合併.精算.第二会社, 企業買収

「ポストM&A」という言葉をご存じだろうか。PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)と呼ぶことも多い、古くて新しい概念である。買収や合併、持ち株会社化などを実施した後に、いかに企業価値を向上させるかという統合シナリオを意味する。本来、M&Aの「成立」と「成功」は異なる。過去にM&Aを成立させた日本企業が自ら成功と評価している場合は3割程度、その多くがディール成立後の統合フェーズに問題意識を感じている。ポストM&Aとは、まさに「成立」から「成功」に導く方法論である。(p.i)

「成立」と「成功」、確かに全く違いますね。

統合フェーズで苦労する原因の根本は、実は当事者の認識の中にある。それは交渉成立をM&Aのゴールと思いがちな「錯覚」と、新会社が大きなトラブルなく動けば完了と捉えがちな統合への「理解不足」である。ポストM&Aが、ディールの交渉段階と大きく異なるのは、そこに関わるステークホルダー(利害関係者)の広さと複雑さである。そのすべてに向き合いながら経営戦略上の目的を達成し、企業価値を高めるマネジメントにこそ最大の難所がある。(p.i)

これも大変分かりやすいのですが、当事者になったら、「成立」までもっていくのに精根を使い果たしてしまうような気がします。

M&Aの「その後」を見据え、当事者が気づくべき大切なことは、M&Aは必ずしも買う側、買われる側という一方的な勝負事ではないことだ。それは、将来の競争優位に向けた資本移動を伴う戦略の組合せであり、両者の経営資源をどう競争力に転換するかという価値創造プロセスである。そこでは、過去のしがらみや力関係も、長い目で見れば本質的な意味をなさない。(pp.i-ii)

当り前だとは思うのですが、何のためにM&Aをしたのか、その原点を常に振り返って、その目的達成のためにぶれないということなんでしょうね。

ポストM&Aの王道は、実は最もシンプルな発想の切り替えを貫くことにある。それは「主語の転換」というコンセプトである。新会社に「主語」を置き換え、その座標軸からすべてを発想し行動しきれるか、その徹底性こそM&Aの「その後」の成否を大きく左右する。(p.ii)

「主語の転換」、これはM&Aに限らず使えそうな発想ですね。

ポストM&Aの成功に向けて「主語の転換」という基本コンセプトのもと、以下の5つの原則を貫くことを強調している。(pp.ii-iii)

  1. シナリオ
    ポストM&Aの成功シナリオとして、スタート(DAY0)からゴールまでの4段階アプローチを実践する。
  2. スピード
    ロケットスタートこそ統合成功の近道である。DAY1を単なる法的イベントでなく戦略実行日にする。
  3. シナジー
    シナジー効果を ”幻想” に終わらせず、「実現」までをマネジメントするという考え方を持つ。
  4. フォーカス
    企業価値を高めるため優先して統合に取り組む3領域(経営戦略、組織ガバナンス、人事・風土)に知恵とエネルギーを投下する。
  5. リーダーシップ
    経営陣が利害と立場を超えて “一枚岩” となり、強いリーダーシップをもって変革を推進する。

この5つ、重要ですね。覚えておきたいと思います。

M&Aの「その後」の世界は、多くの利害関係者が絡むので、机上の理屈だけで割り切れるほど単純な世界ではない。実際に日本企業の多くは、ポストM&Aで思い描いたほど上手くいかずに苦労している。その原因の大半は当事者の認識の中にある。具体的には、ディール成立をM&Aのゴールと思い込みかねない「錯覚」と、単にくっつければ終わりという統合に呈する「理解不足」である。(p.5)
新会社が形の上で統合されて大きなトラブルもなく動いていると、まるでその後の統合自体が成功であったという錯覚に陥ってしまう。まして新会社がスタートしてから現業に終われてしまうと、よほど経営者の意識が高くない限りは統合にエネルギーをかけられないものである。実は、そこに大きな落とし穴がある。ポストM&Aとは、外形上で組織を単にひとつにすること、くっつけることではなく、それが本当に効果を上げるための統合の在り方自体を設計し、価値を上げるためのシナリオを実践することにある。つまり、M&Aのゴールとは、統合の成果をステークホルダーと分かち合える時であり、それは3年から5年越しの長い道程である。(pp.5-6)
一般にM&Aは投機的なイメージを持たれがちだが、「その後」の世界は実はマネジメントサイクルに戻ってくる。つまり、ポストM&Aの方法論とは、M&Aを自社のマネジメントサイクルにしっかりと組み込み、企業価値向上を実現できたかどうか、という従来の単体経営とは異なる応用問題を解き明かす経営論なのである。(p.6)
改めて「成立」と「成功」のそれぞれを定義するならば、「成立」は「M&Aの法的手続きが終了して新会社として立ち上がること」、つまり法的な契約締結が完了し、合併の場合は実態として新会社ができる、もしくは買収の場合は資本関係が変更されて新たなグループ会社という位置づけでスタートすることを意味する。
一方で「成功」の定義とは、「企業自身の戦略上の目的が達成でき、加えて様々なステークホルダーの評価が得られること」である。ここでは成功の要件として2つの意味が込められている。「当初の目的達成という主観的評価」と「ステークホルダーの視点からの客観的評価」という両側であり、その2つが同時に達成されることを成功と位置付けている。(p.15)

トーマツコンサルティングが2007年にM&Aを経験した日本企業162社を対象に調査を行ったようです。

成功企業、普通企業、非成功企業で比較すると、成功企業ほど「顧客」を意識する割合が高く、一方で非成功企業は「従業員」を意識する割合が高いという結果が出ている。つまり、成功企業ほど顧客を重要要素と考える外向きの傾向にあり、反面、非成功企業ほど従業員を重視する内向きの傾向が強い。このように株主以外に顧客を重視する姿勢を持ち続けるか否かは、これも成否を分ける一つのポイントになりうる。(p.19)
成功のモノサシで真っ先に挙がる指標としては「利益」が最も多い。ただし、より興味深いのが、成功企業ほど、利益、売上に加えて、キャッシュフローや株価、並びに非財務指標(顧客満足度、従業員満足度)という複数の指標を掲げている点である。(p.19)
M&Aの成功の定義を見てきたが、それは同時に経営にとってのM&Aの位置づけに立ち返ることを意味している。M&Aとは企業にとって、投機でも特殊な一時的なイベントでもなく、まして、買う側、買われる側という一方的な勝負事でもない。M&Aとは、将来の競争優位を目的とした資本移動を伴う “経営戦略の組合せ” であり、外部の経営資源を自社のそれと合わせてどう価値に転換していくのか、という企業価値創造のプロセスである。(p.21)
M&Aの成否は、そのプロセスでの変化への対応力が大きく左右する。違う会社同士があるときから利害を同じくした立場に変わる。そこにおいては、長い将来の時間軸においては、買う側、買われる側という当初の図式は意味をなさないのである。つまり、未来の企業価値向上という共通の目的のものと、双方に訪れる新しい環境に向けていかに向き合えるかが問われている。(p.21)

日本企業のM&Aは、費用節約面での効果に留まるという見方となっており、被買収企業での売上面でのシナジー効果は微弱であり、主としてリストラによる費用節約面での効果が中心となっていると指摘している、(『平成19年版 経済財政白書』)とのことです。

このあたり、「被買収企業」だと思うのですが、「非買収企業」と校正漏れが連発です。

このあとも、調査情報を踏まえながら、M&Aの各フェーズについて解説がされています。

先に読んだ、『M&Aを成功に導くPMI』よりも、さらに詳しく書かれています。先にそちらを読んでいたので、こちらはさらに深くという形で読むことができてよかったです。

なお、読む本がたまってまして、このあたりで抜き出しは終わります。
失礼いたしました。

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