市場を創る―バザールからネット取引まで (叢書“制度を考える”)
著者:ジョン マクミラン
内容(「BOOK」データベースより) 「市場」はどのように「設計」されてきたか、あなたの側にある、その成功と失敗。教科書が教えない「市場」の原理。新しい時代の経済学入門。著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より) マクミラン,ジョン スタンフォード大学経営大学院教授。1971年カンタベリー大学(ニュージーランド)数学科卒業。1978年ニュー・サウス・ウェールズ大学経済学博士。ウエスタン・オンタリオ大学助教授、カリフォルニア大学サンディエゴ校教授等を経て、1999年より現職。ゲーム理論の応用、市場のデザイン、移行経済の改革に関して多数の論文を持つ。FCCによる最初の電波周波数帯オークションのアドバイザー。オーストラリア、カナダ等の電波周波数帯オークションの設計にも参加 |
★読書前のaffirmation!
[きっかけ・経緯] マクミラン氏といえばゲーム理論。ゲーム理論で市場を創ることができるのか?という問題意識。
[目的・質問] ゲーム理論と市場の関係を学ぶ。
[分類] 331.8:経済各論, 価格分析
マクミラン氏は、スタンフォード大学在職中の2007年に癌で死去とのことです。ご存知の通り、「ゲーム理論」の権威であり、運よくこの本と出会えましたので、大作ですし時間の関係もありザッとしか読み切れないですが、エッセンスだけでも掴みたいと思います。なんといってもこのタイトルがいいですね。「市場を創る」(REINVENTING THE BAZAAR ― A natural History of Markets)。でもどうして、タイトルBAZAARを使って、サブタイトルがMarketの歴史として、Marketという単語を使っているあたりは何か肝かもしれません。
さて、読み進めて行きましょう。
市場は繊細な組織である。取引を支えるメカニズムは込み入っており、たえず流動的でもある。人々は相互に利益をもたらす交換の実現方法を見出すことに長けている。しかし市場が期待された通りの機能を発揮するのは、それがうまく構築されているときに限られる。経済的に成功している国はどれも、市場が円滑に機能することを可能にする一連の仕組みや手続きを備えている。市場をうまく機能させるプラットフォームは、次の5つの要素を備えている。情報が円滑に流れること、財産権が保護されていること、人々が約束を守ると信頼して差し支えないこと、第三者に対する副次的影響が抑えられていること、そして競争が促進されていることである。(pp.i-ii) |
市場のためのプラットフォームは、主として試行錯誤によって進化する。取引のメカニズムは、市場参加者によるイノベーションを通じて、ボトム・アップに発展する。自主的進化が市場の主要な原動力なのである。しかしながら、市場がその潜在力をフルに発揮するためには。政府の助けが必要である。だが、市場と政府の関係は不安定なものである。市場はどんな中央集権的方法よりもうまく経済をコーディネートする一方で、政府はときに市場を歪め、市場を破壊してしまうことすらあるからである。しかし、経済がその潜在力をフルに発揮しようとするかぎり、政府の助けは不可欠である。(p.ii) |
市場についての説明です。マクミラン氏の市場の見方を書いたもので、これを前提として読み進めて行きたいと思います。
第一章でさらに「市場」についての説明があります。
「市場」という言葉は何を意味しているのだろうか。あるものに対して、買いたい人と売りたい人がいるなら、その物に関する市場が存在することになる。辞書の定義によれば、市場とは「私的な購入と販売による取引を目的として人々がともに集まること」、「市場が運営される公共の場所」である。しかし、これだけでは不十分である。何が市場取引を特徴づけるのだろうか。・・・市場取引は、自発的に行われる交換と定義することができる。各主体は取引を拒否することもできるし、(市場のルールという制約条件の中で)取引条件に自由に合意することができる。市場とは、このような交換を実行する公共の場である。具体的な市場(markets)に加えて、「市場経済」、「自由市場」、「市場システム」といった言葉の中に出てくるような抽象概念としての市場(the market)というものもある。抽象的な市場は多くの現実の市場の相互関係から生み出される。(pp.6-7) |
大半の取引が家庭内、企業内、政府内で行われているのに、なぜ市場経済と呼ぶのだろうか。それが市場経済と呼ばれるのは、これらの非市場的な取引でさえ市場の文脈の中で行われているためである。市場経済によって、経済全体の型が形成されているのである。誰も市場に対して責任を持っていない。いや、むしろ、すべての人が責任を持っていると言うべきかもしれない。この分権化がダイナミズムをもたらしている。(p.9) |
教科書的な経済理論は、市場がどのように機能しているかについてほとんど記述しておらず、市場が魔法であるという考え方を払拭していない。経済学の大部分は市場の研究であるにもかかわらず、経済学の教科書は市場を抽象的に記述しているだけである。(pp.10-11) |
3人のノーベル経済学賞受賞者(ジョージ・スティグラー、ダグラス・ノース、ロナルド・コース)たちも、市場の理論に関してはほとんど注意されていないとのことを指摘しているとのことです。しかし、現在では解消されつつあるとのこと。
現代経済学は市場の働きについて多くのことを語ることができる。理論家たちが需要と供給に関しては、ゲーム理論が持ち込まれた。市場を至近距離から調べている新しい経済学は、市場の摩擦の存在と、その摩擦がいかに抑制されているかを強調している。(p.11) |
典型的な市場は、・・・参加者たちによって後押しされ、自主的に進化するのである。ある点までは、市場はまったく、あるいはほとんど形式的な構造を持たずに運営されうる。しかし、ある程度の洗練の度合いに達するためには、市場の手続きは明確にされ、権威者がその手続きを実効化するための権限を与えられる必要がある。非公式なルールがいくらかの形式的なルールによって補われるときにのみ、市場はその潜在力を完全に発揮し、取引が効率的に行われ、複雑な取引が可能となる。(p.17) |
市場は貧困撲滅のための最も有力な、現存する原動力なのである。しかし、それは市場が有効に機能するときのみのことである。この注意事項は重要である。(p.18) |
市場メカニズムが新たに成長していくのを見るとき、あらゆる種類の市場の鍵となる特徴が明らかになる。どのような取引も売り手と買い手の両者に利益をもたらし、価値を創出する。(どちらの主体も取引を拒否できるので、取引が実現するならば、それは取引をしない状況よりも両者の状況を良くしていかなえればならない)。したがって、売買は創造の一形態である。このポイントは単純なものではあるが、その重要性はいくら強調しても強調しすぎることはない。取引利益が存在するところ、人々はその利益を実現する方法を見出すことに余念がない。(p.36) |
今日の経済学は情報の問題をその中心に据えている。ケネス・アローは2000年に、「過去30年間の経済学における最重要の新しい概念は、情報の偏在に関する議論の発展と情報の重要性についての議論の発展にある」と述べている。(p.61) |
情報の不均等な供給から、2つの種類の市場における摩擦が発生する。第1は、探索費用の存在である。何がどこでいくらで手に入るのかを知るのに、時間、努力、お金がかかることである。第2は、買い手が品質を評価することが困難なことから生じる評価費用の存在である。うまくいっている市場は、情報の偏在から生じる取引費用を削減するメカニズムを持っているのである。(p.61) |
売り手と買い手を引き合わせると同時に、購入しようとしているものの品質を買い手たちが確かめられるようにするような情報流通のチャネルを構築することは市場設計の主要な一部分である。「ビジネスの秘訣は他の誰も知らないことを知ることである」と運送業の大立者アリストテレス・オナシスは言った。(p.73) |
競争市場を実現するもっとも確実な方法は、新規企業を登場させることである。独占が存在するなら、その独占企業は以上に高い価格をつけ、経済の他の部分における価格よりも高い価格を設定する。そこで得られる高い利潤は、新規企業をその事業活動に引き付け、その結果、かつての独占企業は競争に直面し、価格は下落する。独占はそれ自身を破壊する要因を含んでいる。(p.104) |
競争は、どんな水準の複雑性を持つ市場でも自然発生するわけではない。競争を支えるメカニズムの設計はしばしば起業家によって行われるが、ときには経済学者によって行われることもある。経済理論を厳格に検証する方法は、ビジネスを行う新しい方法を設計する際にそれを用いてみることである。新しい競争メカニズムの設計に際して、経済学者たちは理論をかなり実践的な用途に役立てている。(p.128) |
本当だともっとしっかりと読み込まないといけないんでしょうけど、消化不良です・・・時間不足です。
「市場」をどう定義するかで考え方も変わってくるということに気づかされたことは大きなポイントです。
これはマーケティング的でもあり、経済学とマーケティングの接点を見た気がしました。