超予測力:不確実な時代の先を読む10カ条
著者:フィリップ・E・ テトロック,ダン・ ガードナー
内容紹介 「専門家の予測精度はチンパンジーのダーツ投げ並みのお粗末さ」という調査結果で注目を浴びた本書の著者テトロックは、一方で実際に卓越した成績をおさめる「超予測者」が存在することも知り、その力の源泉を探るプロジェクトを開始した。その結果見えてきた鉄壁の10カ条とは……政治からビジネスまであらゆる局面で鍵を握る予測スキルの実態と、高い未来予測力の秘密を、米国防総省の情報機関も注目するリサーチプログラムの主催者自らが、行動経済学などを援用して説く。《ウォール・ストリート・ジャーナル》《エコノミスト》《ハーバードビジネスレビュー》がこぞって絶賛し、「人間の意思決定に関する、『ファスト&スロー』以来最良の解説書」とも評される全米ベストセラー。 |
★読書前のaffirmation!
[きっかけ・経緯] 「予測」となると読まないと・・・・。さて何を予測するのでしょう。
[目的・質問] 「予測=先読み」・・・このタイプの情報はすべて吸収します。
[分類] 141.5:思考.想像.創造性, 創作力(心理学)
ムム? この分類「141.5:思考.想像.創造性, 創作力(心理学)」は少し違和感がありますが、いったい何を予測、先読みするのだろう。読んでいきましょう。
1814年にフランスの数学者で天文学者であったピエール=シモン・ラプラスが、次のように書いている。
現在の宇宙の状態は、その過去の結果であり、未来の原因と見なすことができる。ある瞬間における自然の動きを生むあらゆる力とあらゆる物質の位置を知ることができ、しかもそれらのデータを解析できるだけの広大さを持った知性が存在するならば、それはたった一つの公式で宇宙で最も大きい物体から最も小さい原子の動きまで説明できることができる。この知性にとって不確実なことは何もなくなり、その眼には未来も同様にすべてはっきりと見えているであろう。(pp.21-22) |
このラプラスの「全知全能」の考え方に、冷や水を浴びせたのがアメリカの気象学者エドワード・ローレンツのバタフライ効果です。バタフライ効果とは、「ブラジルで蝶が一匹羽ばたくとテキサスで竜巻が起こる」という洞察です。そこから「カオス理論」へとつながっていて、気象のような非線形システムにおいては、当初の条件にわずかな変化を加えると、その影響は途方もない規模に膨れ上がるというものです。
コンピュータ性能の飛躍的な改善と予測モデルの継続的な改良により、予測限界は少しだけ先に延びるかもしれないが、改善は次第に難しくなり、その恩恵はゼロに近づいていくだろう。気象予測はどこまで改善できるか。それは誰にもわからない。だが現在の限界を認識しておくこと自体が一つの成功と言える。(pp.27-28) |
周りの知らない人は、「予測の精度を上げろ!当たるようにしろ!」なんて無理難題を言いますが、予測を作っている人はもちろん、使っている人もそれはよく分かっているのですが。
たいていは予測を立てて、それでおしまいである。事実が判明した後で予測の正確さが確認されることはめったになく、最終評価を下すために定期的かつ厳格に確認されることはまずない。なぜか。問題は主に需要サイドにある。政府、企業、大衆など予測を消費する側は、正確さの根拠を要求しない。だからこそ正確さの測定も行われず、当然見直しもされない。見直しがされなければ、改善もない。(p.28) |
モデルを作るときには、もちろんそのモデルの検証はしますが、実際にそのモデルが運用され出すと、モデルの見直しとでもならないとなかなか抜本的にチェックはしなくなりますよね。
ビル・ゲイツはこう書いている。「人々の置かれた状況を改善する上で、測定することがいかに重要かを痛切に感じた。明確な目標を設定し、その目標に向けた進歩を促すような指標を見つければ、すばらしい進歩を達成できる。(中略)当たり前のことに思えるかもしれないが、それがなされていないことが驚くほど多く、またきちんとやるのはとても難しい」。進歩を促すのに何が必要かというゲイツの見解は正しく、予測においてもそれが驚くほど欠如している。明確な目標を設定するという簡単な第一ステップでさえ、行われていない。(p.29) |
「明確な目標」・・・予測を改善し続けるならそれは必ず必要でしょう。しかし実際のビジネス現場では、いったん予測モデルを作ってしまうとそれを運用し続けるということも多そうな気がします。
超予測力には柔軟で、慎重で、好奇心に富み、そして何より自己批判的な思考が欠かせない。集中力も必要だ。卓越した判断を導き出す思考とは、楽にできるものではない。かなりの一貫性をもって卓越した判断を導き出せるのは意志の強い者だけであり、われわれの分析でも優れた実績を出す人の予測因子として最も有効なのは「自らを向上させようとする強い意志」であることが繰り返し示されている。(p.36) |
「自己批判的な思考」・・・これが難しいんですよね。予測モデルを一度仕上げてしまうと。
われわれはみな、あまりにも拙速に判断を下し、それを覆すのにあまりにも時間をかけすぎるきらいがある。そしてなぜそうした失敗を犯したのか検証しなければ、同じ失敗を繰り返すことになる。停滞した状況は何年も、あるいは生涯にわたって続くかもしれない。何百年と続くこともある。医学界の長く不幸な歴史を振り返ると、それがよくわかる。(pp.42-43) |
「拙速に判断を下す」・・・「あたりまえ」だと思っている思考停止の「前提」がその判断をさせてしまう。しかしその「あたりまえ」が実は当たり前でないということに気付くのは非常に難しいんですよね。
自分の考えを、意識に浮かぶアイデア、イメージ、計画、感情などと結びつけて考えるのは自然なことだ。・・・われわれがどのようにモノを考え、意思決定をするか説明する際に、現代の心理学者がよく用いるのが、われわれの頭の中を二つの領域に分割する二重課程理論である。「システム2」とはおなじみの意識思考の領域である。ここにわれわれが意識を向けようと決めたことがすべて含まれる。対照的に「システム1」をわれわれが意識することがほとんどない。これは自動的に働く知覚的、認識的領域で、あなたが今このページに印刷された文字を意味のある文章に転換したり、コップに手を伸ばして水を飲む間この本を支えたりといった行為がこれに当たる。このように矢継ぎ早に起こる様々なプロセスをわれわれはまったく意識していないが、そうしたものなしには何もできない。動作が停止してしまう。(pp.52-53) |
二重課程理論のもう少し詳しい説明がこちらにあります。
どちらがシステム1でどちらが2かという順序は、でたらめに決まっているわけではない。最初に動くのがシステム1だ。システム1は迅速で、常に背後で動いている。何か問われたとき、あなたの頭にすぐ答えが浮かんだら、それはシステム1から湧き上がったものだ。システム2にはその答えを突き詰めていく役割がある。その答えは精査に耐え得るのか。何らかの証拠に支えられているのか。このプロセスには時間と手間がかかるので、一般的に意思決定は次のような手順を踏む。まずシステム1が答えを見つけ、それに続いてシステム2が介入し、システム1が決定したことを検証し始める。(p.53) |
このあと、いろいろな過去の予測に関して、それに関する批評が展開されるというパターンです。そして、最後に要チェックの「超予測者をめざすための10の心得」が掲載されていますので、こちらしっかりと見ていきましょう。
その前に・・・お誘いがあります。
本書で蝶予測者と「優れた判断力プロジェクト」に興味をもたれたら、ぜひわれわれのプロジェクトに加わっていただきたい。予測力を磨きながら、科学的研究に貢献できる機会だ。詳しくはウェブサイトを参照してほしい。(p.348) |
では、お待ちかね、「超予測者をめざすための10の心得です。(pp.349-359)
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心得については、ここは学ぶべきところになりますので、しっかりと引用させていただきましたが、あらためて、ポイントを列挙しましょう。
- トリアージ(選別格付け)
- 一見手に負えない問題は、手に負えるサブ問題に分解せよ
- 外側から内側の視点の適度なバランスを保て
- エビデンスに対する過少反応と過剰反応を避けよ
- どんな問題でも自らと対立する見解を考えよ
- 問題に応じて不確実性はできるだけ細かく予測しよう
- 自身過少と自信過剰、慎重さと決断力の適度なバランスを見つけよう
- 失敗したいときは原因を検証する。ただし後知恵バイアスにはご用心
- 仲間の最良の部分を引き出し、自分の最良の部分を引き出してもらおう
- ミスをバランスよくかわして予測の自転車を乗りこなそう
- 心得を絶対視しない
上記が10の心得+1になっています。予測をするうえで、これらをしっかりと認識したうえで対応を図っていきたいものです。
さて、最後に訳者あとがきで復習です。
超予測者(上位2%の的中率の高いボランティア)のどこが特別なのか。テトロックによると「優れた予測を立てるのに確立された方法はないが、超予測者はだいたい同じ手順を踏む」という。まず質問を分解し、知り得る情報と知り得ない情報に選別する。また、一般人が予測すべき事象そのものに注目する傾向があるのに対し、超予測者は事象と距離を置き、それを同じような現象の一つの事例に過ぎないととらえ、発生確率の「基準値」を導き出そうとする。さらには自分の見解を他の人々の見解などと比較・統合し、結論にまとめる。その後も新たな事実が判明するのに従い、予測はアップデートしていく。(p.367) |
超予測者には人生に対する基本姿勢においても、いくつか共通項が見られる。まず知的刺激への欲求(認知欲求)が高く、常に異なる視点に対してオープンであろうとする「積極的柔軟性」がある。また努力を怠らず自らを向上させていこうとする強い意思、今どきの言葉でいうと「やり抜く力」がある。そして運命論的ではなく「確率論的にモノを考える傾向」がある。事象が起きたときに、それを「そうなる定めだった」ととらえるのか、「さまざまな展開がありえたなかで、特定の条件が重なった結果、たまたまその事象が起きた」ととらえるのか。テトロックの研究では予測者の運命論的思考の度合いと予測の正確性を比較したところ、両者のあいだに有意な相関がみられた。正確に将来を予測するには、さまざまな選択肢を比較検討する確率論的思考が欠かせない。(pp.367-368) |
「FRB(連邦準備制度理事会)による資産購入はインフレを引き起こすリスクがある」という場合、「インフレ」とはどの程度の物価上昇率を想定し、「リスク」とは何%の発生確率を意味しているのか。曖昧な言葉遣いは予測が外れた場合の隠れ蓑になり、誰もメンツを失わずに済むが、どちらの政策が正しかったのか、社会が教訓を学ぶことはできない。問題は予測を消費する側にもある。「企業経営者、政府高官から一般人まで、有効性や安全性の確認されていない得体の知れない薬なら絶対に飲まないが、こと予測については行商人が荷台から出してくる不老不死の薬と同じくらい怪しいものでもさっさと金を払う」とテトロックは指摘する。われわれは自らの予測力を高めると同時に、政治家、評論家、学者など権威とされる人々の予測を無批判に受け入れる前に、「この人物の過去の予測は性格だったのか」と問いかける必要がある。それが空疎な議論を防ぎ、予測と検証のプロセスを通じて社会が賢くなることを訳者として祈念している。(pp.368-369) |
訳者の土方奈美さんのファンになってしまいそうです。私も本文を通じて感じたことをうまくまとめてくださっていて、良い復習になりました。
それにしても、私も「予測」についてはさまざまなシステムを作ってきましたが、非常に痛いところを突かれ反省もしつつ、逆に間違ってなかったんだというのもあってそこはしっかりとこれからもこの「10の心得」にそって精進していきたいと感じました。
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明らかな誤字,脱字があります.
もう一度,引用文の校訂をお願いいたします.
舫 隼人さま
お世話になっております。お読みいただきどうもありがとうございます。
また、ご指摘ありがとうございます。数か所、誤字・脱字に関して修正いたしましたのでご連絡いたします。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
どうもありがとうございました。
返信が遅くなって申し訳ありません.
修正をしてくださって,ありがとうございます.
話が少し違いますが,私が探した限りこの本のように実践的な本はありませんね.
この本にも紹介されている本,例えば,
D・カーネマン「ファスト&スロー」ハヤカワ文庫
にしても,理論的な解説はされていますが,では,どうすれば良いのかということは記されていません.
「ファスト&スロー」は行動経済学の本らしいので,行動経済学の本を読んでみましたが,ではどうすれば良いのかと言う疑問には答えてくれないものばかりですし.
(行動経済学は面白いとは思いますけれども.)
この「超予測力」を頂点におき,理論を補って予測し,行動するべきかも知れません.しかし,「超予測力」に,「あらゆるモデルは誤っている. だが中には有益なものもある」とあります,すなわち,理論とは,モデルに他ならないからです.予測し,実戦し,フィードバックさせて修正していくことが必要なのだと,痛感させられます.