数学する身体

数学する身体

(著者:森田真生)

★読書前のaffirmation!
[目的] 印象的なタイトル!目的は知的好奇心&リフレッシュ!
[質問] なぜ著者はこのタイトルにしたんだろう?

学びとは、はじめから自分の手許にあるものを掴みとることである、とハイデッガーは言う。同様に、教えることもまた、単に何かを誰かに与えることではない。教えることは、相手がはじめから持っているものを、自分自身で掴みとるように導くことだ。そう彼は論じるのである。・・・すなわち、人は何かを知ろうとするとき、必ず知ろうとすることに先だって、すでに何かを知ってしまっている。一切の知識も、なんらの思い込みもなしに、人は世界と向き合うことはできない。そこで、何かを知ろうとするときに、まず「自分はすでに何かを知ってしまっているだろうか?」と自問すること。知らなかったことを知ろうとするのではなくて、はじめから知ってしまっていることについて知ろうとすること。それが、ハイデッガーの言う意味でのmathematical な姿勢なのではないだろうか。(P.30-31)
アラン・チューリングがケンブリッジ大学のキングス・カレッジに入学したとき、ヒルベルト計画はすでにゲーデルの発見によって暗礁に乗り上げていた。それでも、大学の講義でヒルベルト流の「超数学」の世界に触れる機会のあったチューリングは、その瑞々しい感性で、数学について数学的に語るヒルベルトの方法に、計り知れない可能性を見出した。(P.86)
チューリングは数学の歴史に、大きな革命をもたらした。”数”は、それを人間が生み出して以来、人間の認知能力を延長し、補完する道具として、使用される一方であった。算盤の時代も、アンジャブルの時代も、微積分学に時代においても、数は人間に従属している。数はどんなときにも、数学をする人間の身体とともにあった。チューリングはその数を人間の身体から解放したのだ。少なくとも理論的には数は計算されるばかりではなく、計算することができるようになった。「計算するもの(プログラム)」と「計算されるもの(データ)」の区別は解消されて、現代的なコンピュータの理論的礎石が打ち立てられた。(P.91-92)
チューリングはNPL所長チャールズ・ダーウィンに充てた報告書「知能機械(Intelligent Machinery)」の中で、「神経系の単純なモデル」ともみなせる、いくつかのユニットのネットワークから構成された機械のモデルを考案している。そのうえで、そうしたネットワーク状の機会のモデルを考案している。その上で、そうしたネットワーク状の機械が、干渉を受けて自己変更をしながら、意図する機能を有するように「組織化(organize)」していく過程を描写する。ここには現代的なニューラルネットワークによる機械学習を彷彿させるアイディアがある。チューリングは戦後かなり早い段階で、知的な機械を作りだすために「学習」のメカニズムが必要であることを見抜き、そのためのアルゴリズムまで研究していたのだ。(P.100)
岡潔によれば、数学の中心にあるのは「情緒」だという。計算や論理は数学の本体ではなくて、肝心なことは、五感で触れることのできない数学的対象に、関心を集め続けてやめないことだという。自他の別も、時空の枠すらをも超えて、大きな心で数学に没頭しているうちに、「内外二重の窓がともに開け放たれることになって、『清冷の外気』が室内にはいる」のだと、彼は独特の表現で、す学の喜びを描写する。(P.116)

岡潔先生は、私も思い入れは深いです。といいますのも、和歌山県の橋本市に住んでいたことがありまして、すぐ近所の郷土資料館にも岡先生の資料がいくつかあり、岡先生のことは知っていました。改めて、著作にも触れてみたいと思いました。

チューリングが、心を作ることによって心を理解しようとしたとすれば、岡のほうは心になることによって心をわかろうとした。チューリングが数学を道具として心の探求に向かったとすれば、岡にとって数学は、心の世界の奥深くへと分け入る行為そのものであった。道元にとって禅がそうであったように、また芭蕉にとって俳諧がそうであったように、彼にとって数学は、それ自体が一つの道だったのだ。(P.185)

一見すると「数学史」的なアプローチで書かれていくのかと読み進めていましたが、著者の数学者それぞれに対する「数学に対するアプローチ」についてこだわって書かれており、特にアラン・チューリングと岡潔の二人については著者の深い思い入れが感じられ、興味深く読み進められました。ここで紹介された各種文献についても読んでみたいと思いました。

(※紹介文献)
ユークリッド原論 追補版ユークリッド『原論』とは何か―二千年読みつがれた数学の古典 (岩波科学ライブラリー)ユークリッド原論を読み解く ~数学の大ロングセラーになったわけ~ (数学への招待)

現れる存在―脳と身体と世界の再統合荒川修作の軌跡と奇跡

科学史の哲学 (始まりの本)

チューリング人工知能は私たちを滅ぼすのか―――計算機が神になる100年の物語

岡潔―日本のこころ (人間の記録 (54))

生物から見た世界 (岩波文庫)

ブルバキブルバキ数学史〈上〉 (ちくま学芸文庫)ブルバキ数学史〈下〉 (ちくま学芸文庫)

(気に入ったら投票をお願いします!)

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください