誰がアパレルを殺すのか

誰がアパレルを殺すのか

著者:杉原 淳一,染原 睦美

アパレル業界・・・、大きく様相が変わりました。セール価格がすっかり標準価格になってしまっています。ファストファッションの台頭?いやそれだけではなく、やはり価格に見合った付加価値がなくなってきたのでしょうか。そのあたりの謎を知りたくて、手に取ってみました。

「アパレル」の画像検索結果

メディア掲載レビューほか
消費者に見放されたいつのまにか服を買わなくなった。デパートにもほとんど行かない。こうした傾向はぼくだけのものでないらしい。杉原淳一・染原睦美の『誰がアパレルを殺すのか』を読んでよくわかった。経済誌の若い記者がアパレル業界を取材・分析した本である。ワールドや三陽商会など、大手アパレル企業は業績悪化に苦しんでいる。原因は単純。消費者を無視して、服をつくりすぎるから。規制緩和で全国各地に大型ショッピングセンターができた。アパレル企業はブランドを乱発して大量出店。価格を抑えるため、商品はOEM(相手先ブランドによる生産)メーカーや商社に発注して中国で生産。どの服も違うのはタグだけで本体はそっくり。販売員は低賃金で働かされ、使い捨てにされる。その結果、とうとう消費者に見放された。

なぜ大手アパレル企業はそろって転落していったのか。経営陣がかつての成功体験から抜け出せないからだ。「つくれば売れる」「安けりゃ売れる」と思い込み、買う人・着る人の気持ちを考えなかった。デパートも同様・同罪である。

消費者も変わった。もはやモノを買うことや所有することは快楽ではない。古着への抵抗感はなくなり、レンタルやシェアも積極的に使う。見栄で服を着る時代ではない。

しかし、絶望ばかりではない。既存のやりかたにこだわらず、業績を伸ばしている企業も紹介されている。たとえば皆川明が率いるミナペルホネン。「売れ残る」という概念を捨て、何年前の商品でも売り続ける。いい商品を適正価格で。70代の販売員もいる。読んでいてホロリときた。希望はある。

評者:永江朗

(週刊朝日 掲載)
内容紹介
アパレル業界がかつてない不振にあえいでいる。
オンワードホールディングス、ワールド、TSIホールディングス、
三陽商会という業界を代表する大手アパレル4社の売上高は激減。
店舗の閉鎖やブランドの撤退も相次いでいる。
またアパレル業界と歩みをともにしてきた百貨店業界も、地方や郊外を中心に店舗閉鎖が続き、
「洋服が売れない」事態は深刻さを増している。なぜ突如、業界は不振に見舞われたのか。
経済誌「日経ビジネス」の記者が、アパレル産業を構成するサプライチェーンのすべてをくまなく取材した。

ユニクロを展開するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は、
「もう、”散弾銃商法”は通用しない」と業界不振に警鐘を鳴らす。
大手百貨店首脳は「我々はゆでガエルだった」と自戒。
業界を代表する企業の経営者から、アパレル各社の不良在庫を買い取る在庫処分業者や
売り場に立つ販売員まで、幅広い関係者への取材を通して、不振の原因を探った。

また本書では、業界の将来を担うであろう新興企業の取り組みについても取材した。
ITなどを武器に、業界の「外」から勢力図を変えようとするオンラインSPA(製造小売業)や、
業界の「中」から既存のルールを変えようと挑戦するセレクトショップなど、
国内外の新興プレーヤーの取り組みを紹介する。

この1冊を読めば、アパレル産業の「今」と「未来」が鮮明に見えるはずだ。

【登場する企業】
オンワードホールディングス/ワールド/TSIホールディングス/三陽商会/
ファーストリテイリング/ストライプインターナショナル/GAP/H&M/
三越伊勢丹ホールディングス/大丸松坂屋百貨店/高島屋/そごう・西武/
スタートトゥデイ/メルカリ/エアークローゼット/ナノ・ユニバース/
トウキョウベース/ジャパンブルー/ミナペルホネン/パタゴニア/エバーレーン/
エムエムラフルール/グレイツ/アマゾン・ドット・コム/レントザランウェイ  など

 

◆朝日新聞書評 ジャーナリスト・梶山寿子氏「成功体験で「思考停止」した業界」
深刻な苦境にあえぐアパレル業界。国内大手の売上高や純利益は激減し、アパレルと二人三脚で歩んできた百貨店も閉店が相次ぐ。
不振の原因はどこにあるのか。アパレル産業に未来はないのか。経済誌の記者である筆者は、その答えを探して取材を重ねる。
そこで見えてきたのは、「作れば売れる」時代の成功体験に縛られ「思考停止」に陥った業界の姿だ。
売れ筋を安く速く大量に作るため生産は中国に依存、商品企画は外部に丸投げ。結果、ブランド名が違うだけの似た服が店にあふれた。
「買いたい服がない」と消費者の財布の紐は固くなるのに、ショッピングセンターの増加で供給される商品は倍増。
不良在庫が積み上がる……。「業界が集団自殺している」「まさに、ゆでガエル」という関係者の嘆きが痛々しい。
こうした凋落の構図は地産業にも当てはまるという。自信の業界に置き換えて読む人も多いのでは?
出版もしかりと独りごちた(書名も酷似の『だれが「本」を殺すのか』を思い出す)。
一方で、ITを武器に台頭する新興企業には勢いが。中古販売、レンタル、カスタマイズといった新潮流にも言及。
業界の枠を超えた大再編を予感させる。
※朝日新聞2017年7月2日掲載

このままだと悪循環ですね。ただでさえ人口減少の中、デザイン関連もそうですし、素材関連もそうですし、さまざまなところで関わってくる優秀な人たちも別の業界や分野に進んでいくとなると・・・。企業衰退もそうですが、業界衰退というのはもっと大きなスパイラルで、その業界の中の企業は身ぐるみ剥がれるような感じになっていく気がしますね。それを解くカギは・・・。

例年売上高が1割ずつ減少し、純利益も急降下する。アパレルを扱う売り場やブランド、そこで働く人々が次々と姿を消しているのだ。影響は業界内に留まらない。大手アパレル企業と二人三脚で成長してきた百貨店も、主力商品としてきたアパレルの不振によって、構造改革を迫られている。(p.2)
アパレル産業には、深刻な「分断」がある。分業体制が進みすぎた結果、例えば「川上」で生地を生産している企業は、「川下」の小売店で何が起こっているのか、ほとんど把握していない。逆もまた然りだ。川上から川下まで貫く問題の本質を正しく認識しない限り、解決の糸口を見つけることはできない。そのすべてを取材して見えてきたのが、業界全体に蔓延する「思考停止」だった。多くの関係者が、過去の成功体験から抜け切れずに目先の利益にとらわれ、年々先細りして競争力を失っていた。
古い慣習や成功体験に囚われた従来型の思考。売り上げの減少を恐れ、いつまでも現状維持に固執する経営層。消費者不在の商品企画や事業展開。アパレル産業を衰退へ導いた病巣は、何も彼らの業界特有の問題ではない。同じような構図は、ほかの産業にもある。そして、こうした課題を乗り越えようとする挑戦者が登場し、大きなうねりの中で、産業そのものが生まれ変わる様子も、また同じと言えるだろう。(pp.7-8)

ちょうど前回投稿したリクルートの考え方があれば、乗り切れたのでしょうか・・・。(詳細はこちら

ボストン・コンサルティンググループの分析によると、大企業がこうしたビジネスモデル・インベーションに失敗する主な要因として、次の5つが挙げられる。

既存ビジネスからのしみ出しの発想で、大胆な発想がない
成功体験をもとに発想し、消費者や事業者の今のニーズを把握できていない
既存ビジネスへの配慮から、イノベーションのジレンマに陥る
リソースの配分やアセットの活用が不十分
関連プレーヤーとWin-Winの関係ができない
リボンモデルによって業界構造を捉え、顧客や、顧客の顧客、そして関連プレーヤーのニーズまで理解する。既存のビジネスの枠を超えることを奨励し、仮にそれが自社ビジネスを侵食することになっても許容する。そして事業の段階に合わせて、リソースやアセットを配分していくための明確な基準を持つ。特に「外部にディスラプトされるくらいなら、自ら死神軍団(ディスラプター)を抱えてしまう」というほどの徹底した考え方を持っており、これは私にも新鮮であった。(「リクルートの すごい構“創”力 アイデアを事業に仕上げる9メソッド」pp.46-47)

「思考停止」のひとつにちょうど猛暑、暖冬などずっと環境のせいにしていたところもあるでしょう。ここは特にアパレル特有の目を眩ませる要因だったのではないかと思います。異なる業態であれば、もう少し自社の要因としての問題分析をしたと思うのですが、アパレルは環境が変われば、元に戻るとそんなふうに問題を先延ばしにしていたところもきっとある気がしますね。

 

しかし、「今売れている商品を、すぐに作って売り場に届ける」という目的に固執するあまり、本来は、「売れ筋を作る」はずのアパレル企業が、「売れ筋を追いかける」という本末転倒な構図に陥った。(p.41)
「セールは、価格設定が誤っていることの証左だ」「顧客は騙せない。適正な価格と価値を示さなければ離れていく」・・・従来型のアパレル企業にとっては耳の痛い話かもしれない。オンラインSPAの台頭によって、消費者はアパレルの販売価格の中に、企業側の都合によって積みあがったコストが多分に含まれることを知った。消費者はもう「安い」」だけで財布のひもを緩めない。見ているのは、その中身だ。(pp.142-145)

ざっと読んで感じたことは、個々のアパレル業者でここに書いてある要因については、大小あるでしょうが必ず存在するものと思われます。それぞれ各社でそれを洗い出すことが必要だと思います。

そして、最終的には、「作り手」のこだわりのあるものと、それに共感する「売り手」というサプライチェーン、モノのチェーンだけでなく、消費者にとってのお金ではないバリューのチェーンにならないといけないというのが私が思うところです。

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