ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学


ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学

ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学
著者:入山 章栄

内容紹介
ドラッカー、ポーターしか知らないあなたへ。
「ビジネススクールで学べる経営学は、最先端からかけ離れている! 」
米国で10年にわたり経営学研究に携わってきた気鋭の日本人学者が、
世界最先端の経営学から得られるビジネスの見方を、
日本企業の事例も豊富にまじえながら圧倒的に分かりやすく紹介。
世界の最先端の「知」こそが、現代のビジネス課題を鮮やかに解き明かす!【目次】
【Part1】いま必要な世界最先端の経営学
【Part2】競争戦略の誤解
【Part3】先端イノベーション理論と日本企業
【Part4】最先端の組織学習論
【Part5】グローバルという幻想
【Part6】働く女性の経営学
【Part7】科学的に見るリーダーシップ
【Part8】同族企業とCSRの功罪
【Part9】起業活性化の経営理論
【Part10】やはり不毛な経営学
【Part11】海外経営大学院の知られざる実態
【経営学ミニ解説】内容(「BOOK」データベースより)
日本企業を取り巻くビジネス課題について、10年間米国で経営学研究に携わってきた気鋭の日本人学者が、世界の経営学のエッセンスを圧倒的に分かりやすく解説。最先端の「ビジネス知」が、あなたの常識を覆す。圧巻の全26章。

★読書前のaffirmation!
[きっかけ・経緯] 「ハーバード・ビジネス・レビュー読者が選ぶベスト経営書2016 1位ということで・・・読まないわけにはいけません。
[目的・質問] 前作「世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア」ともダブるところもあるでしょうが、しっかり学びたいと思います。
[分類] 335.1:経営学

日本のビジネスパーソンの間で何となく「経営学」と思われている知見の大部分は、「経営学の当事者」である経営学者がいま世界の最先端で生み出している知とは、大きくかけ離れています。・・・「日本のビジネスパーソンがMBA本やビジネス誌を読んだり、あるいはビジネススクール教育などを通じて知り得ることのできる『経営学』と、世界の最先端で経営学者が生み出している知見の間には、きわめて大きいギャップがある」のは、間違いのない事実なのです。(pp.2-3)

世界の最先端の経営学っていったい何なんだ??日本の経営学者は立ち遅れている?

確かに日本の経営学者の著作でも、海外の最新理論の紹介はありますが日本自ら発信するというようなところも、野中先生・竹内先生の「ナレッジマネジメント」以降ない気がします。

さて、読み進めて行きましょう。

【Part1】いま必要な世界最先端の経営学

経営戦略論の教科書は、どれも中身に大差がないということです。そして、その内容はおそらく四半世紀近く、ほとんど変わっていません。そして何より重要なのは、そこで紹介される基本ツール・コンセプトの大部分を、現在の経営学者がほぼ研究対象としていないということです。・・・すなわち現在の経営学では、「経営学者(=ビジネススクールの教員)が授業で教えていることと、彼らがいま最前線の研究で得ている知見の間に、きわめて大きなギャップが存在する」のです。(pp.13-14)

このような状況になっている要因が二つ挙げられています。

第一は、国際標準化です。・・・(日本を例外として)世界中の経営学者が、同じ学会に参加し、同じ経営理論を使い、同じ分析手法で、英語という世界共通の言語を使って経営学を研究し、発表し、議論を戦わせ、その「知」を膨らませているのです。

第二のポイントは、科学化です。世界の経営学は社会科学の側面を重視しています。科学とは真理を探究することですから、世界の経営学では(大変難しいことではありますが)、「経営の真理法則を科学的に探究する」ことが目指されています。・・・世界の経営学では、その法則が多くの企業・組織・個人に当てはまる「真理に近い法則か」を検証するために、データ分析を重視します。経営学者は、何百・何千・何万、場合によっては何百万という企業データ、組織データ、個人データを使った統計分析をしたり、あるいは人を使った実験やコンピュータ・シミュレーションをしたりして、その経営法則が正しいかどうかを確認していくのです。(pp.17-18)

第一、第二ともになるほどというところですが、日本はそんなに国際的でなく閉鎖的なのでしょうか。新しい理論が紹介されるのも「ハーバード・ビジネス・レビュー」くらいなので、そんなふうになっているとは気づいてませんでした。それにしてももっと「最先端」が紹介されてもいいのに、紹介すらあまりされていないというのが不思議でしかたでありません。いったいどうなっているのでしょうか?

経営学者の生み出す知が、みなさんに伝わり得るのに二つのルートがあります。第一は、経営学者の研究で得られた知見が、そのまま直接ビジネスパーソンに伝えられるルートです。しかし、これはなかなか難しいものがあります。経営学の研究の多くは小難しい統計分析を使っていますし、抽象的な理論表現や、聞き慣れない専門用語で表現するからです。そこで望まれるのが第二のルート、すなわち経営学の知見を実務に応用しやすいように「分析ツールに落とし込む」ことです。(p.20)

ところがこの第2のルートの「学術的な知見のツール化」は十分に進んでいなくてその理由も書かれています。

経営学者があまりこの「ツール化」に熱心でないからです。その大きな理由は、経営学では「ツール化」が学術業績として認められないからでしょう。世界の経営学では、研究によって新しい知を生み出すことが重視されているからです。(p.21)

これまたおかしな話ですね。ビジネスにフィードバックされないと意味がない気がするんですが・・・。

みなさんがどこで「理論をツール化したもの」に出合える可能性があるかというと、それは「ハーバード・ビジネス・レビュー(HBR)」や「MIT スローン・マネジメント・レビュー」のような、実務家向けの雑誌です。しかし、このような雑誌に論文を書くことは、(少なくとも欧米の)経営学者は熱心ではありません。なぜなら、これらの雑誌に論文を掲載していも、学術業績としては認められないからです。(pp.21-22)

なんか矛盾している気がするんですけどね・・・・。さっきも書きましたが、経営の現場で役立てないと、その研究は何のためにやっているのか、その意義を聞いてみたいですが、学術的に認められての名誉、栄誉ということなんですね。

ここまで述べたように、経営学者にはそもそもツール化のインセンティブがありません。したがって教科書に掲載できるような新しい分析ツールがなかなか生まれず、その結果、経営学の学術的な研究がどれだけ進んでも、その知見がビジネススクールの教科書には反映されないのです。(pp.22-23)

このような背景があるため、著者は世界最先端の経営学の知見を紹介し、実際のビジネス現場で活用するための一助になってほしいということのようです。

著者が米国で10年間経営学を学び、研究を通して感じたことが2つあり、その一つが・・・

学者にとって経営学を探求する推進力となっているのが「役に立つかどうか」よりも、彼らの「都的好奇心」だからに他なりません。(p.26)
厄介なのは、「厳密である(Rigorous)」「知的に新しい(Novel)」に加えて、「実務に役に立つ(Practical useful)」も同時に追求できればいいのですが、それがきわめて難しいことです。この三者はいわばトリレンマの関係にある。(p.28)

トリレンマですが、三重苦という意味だそうです。そして、二つ目が・・・

何をもって経営学が「役に立つ」というのか、一定の評価尺度があるわけではありません。(p.32)

経営学に何を求めるのかを下記のように図示してくれています。(p.33)

経営学に「答え」を求める方 経営学を「思考の軸」として使う方
経営学で主張させることが、もう自社で取り入れられていた場合 ①「既に取り入れていることなので、経営学は役に立たない」と感じる ②自社で取り入れていることの是非を、論理的に確認する
経営学で主張されることが目新しかった場合 ③「抽象的すぎて、すぐに役に立たない」と感じる ④その考えを軸に、実務への思考を深める

これらを踏まえて、著者は次のように言っています。

経営学は何を提供できるかというと、それは(1)理論研究から導かれた「真理に近いかもしれない経営法則」と、(2)実証分析などを通じて、その法則が一般に多くの企業・組織・人に当てはまりやすい法則かどうかの検証結果、の2つだけです。そして、この2つを自身の思考の軸・ベンチマークとして使うことが、経営学の「使い方」だと私は考えています。(pp.34-35)
経営学はあくまで「思考の軸」として使われるべきだと私は思っています。あるいは、羅針盤といってもいいでしょう。・・・羅針盤があっても航海にリスクは伴うように、経営学があるからビジネスがすぐうまくいくわけではありません。しかし、ビジネス思考に軸があれば、みなさんの考えに一本筋が通り、より深く考察が進むに違いがありません。みなさんには、ビジネスを考えて、考えて、考え抜くための軸・羅針盤として、経営学を使っていただければと思います。(p.37)

ここから以降が、羅針盤になり得る世界最先端の経営学の知見の紹介となります。

戦略が上手くいかないそのものの「根本的な理由」について、ビジネスパーソンの間で経営学の知識共有が進んでいないことです。その「根本的な理由」とは、「企業の『戦略』にはそれぞれ通用する範囲がある」ということです。「範囲・限界」があるのですが、ビジネス本で提示されいている戦略をうのみにしたり、他業種の優良企業が取り入れている戦略をそのまま自社に応用したりしても、うまくいかないのは当然なのです。(pp.42-43)

本題に入る前に、「経営戦略」について整理されています。

  • 競争戦略(事業戦略):
    特定の業界・市場で、企業がどのような戦い方をしていくかを考えるもの
  • 企業戦略
    複数の業界にまたがってビジネスする企業が、全体としてどのように戦略を進めるか(広義の多角化戦略といえます)

そして、競争戦略をさら詳細に説明しています。

  • ポーターの競争戦略(SCP戦略)
    SCP(structure-conduct-performance)戦略ともよばれるこの戦略において、代表的な戦略が「ポジショニング戦略」でさらにこれは「差別化戦略」「コストリーダーシップ戦略」の2つに分かれます。
  • リソース・ベースト・ビュー(RBV)
    SCP戦略と対比するように使われるのがRBVです。「企業の競争優位に重要なのは、製品・サービスのポジションではなく、企業の持つ経営資源(リソース)になる」とする考え方です。
SCPとRBVは、MBAの授業で学ぶ二大戦略フレームワークであり、他方で両社は主張が対照的なことから、よく比較されてきました。・・・SCP vs. RBVなどと言う前にそもそも両戦略はそれぞれ適用範囲が限定的ということなのです。有効な範囲が違うのですから、実は両者を比較することに意味すらないのかもしれません。そして、この点を考えるうえで有用なのが、「競争の型」とでも呼ぶべき視点です。(p.45)
バーニーは、競争戦略を考えるうえでは「三つの競争の型」の理解が重要であり、型ごとに適用できる経営理論が違うことを説明します。それは以下の3つです。

  1. IO(Industrial Organization 産業組織)型:
    業界構造が比較的安定した状態で、その構造要因が企業の収益性に大きく影響する業界です。・・・IO型競争をしている業界で有効な戦略は、ポーターのSCP戦略です。
  2. チェンバレン型:
    IO型よりも参入障壁が低く、複数の企業がある程度差別化しながら、それなりに激しく競争する型です。この型では「差別化しながら競争すること」が前提になっているので、その「差別化する力」を磨いていくことこそ、各社が重視すべき戦略になります。結果、各社は少しでも優れた(差別化された)製品・人材などの経営資源に注目するRBVに基づく戦略が有用なのです。
  3. シュンペーター型:
    この型の最大の特徴は、「競争環境の不確実性の高さ」にあります。・・・もちろんIO型でもチェンバレン型でも不確実性はつきものですが、それが際立って顕著な環境と言えます。

バーニーが1986年のAMR論文で提示したこの「競争の型」を、いまこそ日本に当てはめることが重要だ、と私は考えています。なぜなら、「競争の型」と「そこで求められる各社の戦略」の関係がビジネスパーソン・経営者に理解されていないが故に日本企業が取る戦略がちぐはぐになっているのではないか、と考えているからです。(pp.46-48)

▼競争戦略と「競争の型」の関係(p.49)

戦略タイプ\競争の型 IO型 チェンバレン型 シュンペーター型
リアルオプション戦略 整合性高い
多くのIT業界の企業
RBV戦略 普及品をグローバル市場で販売する家電メーカー 整合性高い
日本の自動車メーカー、以前の日本の家電メーカー
ハイエンド製品を製造販売する家電メーカー
SCP戦略 整合性高い
米コーラメーカー、米シリアルメーカー等

リアルオプション戦略:常に不確実な事業環境に、素早く柔軟に対応する
RBV戦略:価値があり模倣されにくい経営資源を形成・活用する
SCP戦略:競争環境の参入障壁・移動障壁を高め、ライバルとの競争を避ける

不確実性の高いシュンペーター型競争では、ポーターのSCP戦略やRBVに基づいた戦略は通用しなくなります。なぜなら、この手の戦略は「競争環境が当面変わらない」「顧客ニーズに対応するための自社の強み(リソース)は、当面変わらない」といった前提で耐えられるからです。すなわち、不確実性がある程度低いときにだけ有効な戦略なのです。不確実性が低いから「それなりに将来が見通せる」ので、戦略・事業計画が立てられるのです。

最近、中長期経営戦略などは立てなくなった企業も増えているのはこういった時代の流れなのでしょうが、とはいえ、社としての方向性は示さないと社員は何をしていいのか迷ってしまいます。そこはしっかりと社員に腹落ちさせるよう伝えていかなければならないところです。

リアル・オプションは事業環境の不確実性が高いことを前提にした考えです。その含意を平たく言えば、「不確実性の高いときには、とにかくまずは少額でもいいから投資をしたり、小ロットでいいから製品・サービスを市場に出したりしてみよう」という感じでしょうか。不確実性が高いのですから、そもそもどのような製品・サービスが当たるのか、どのような技術が有用になるか、誰にとっても判断するのが難しい状態です。ですから、小規模・小ロットでいいから、まずは素早く投資をしたり製品・サービスをローンチしたりして、反応を見ることが重要なのです。もちろん不確実性が高いのですから、こういった行動の多くはうまくいきません。しかし、少額投資であればダメージは大きくありません。製品・サービスも、小ロットならすぐに販売中止ができるので、痛みは小さくて済みます。(pp.52-53)

著者は、このリアル・オプションは、シリコンバレーの「リーン・スタート・アップ」と近い発想だと言っています。

競争の型が違えば、求められる戦略は異なるのです。それを理解せずに戦略を適用している限り、いつまでも「戦略がうまくいかない」のは当然なのです。ぜひみなさんもご自身の業界の「競争の型」を客観的に眺めてみることをお勧めします。(p.54)

各社の「競争の型」「戦略」を分析・比較してみるのは勉強になりそうです。

第4章では、「成功しやすいビジネスモデルの条件とは何か」というタイトルになっていますが、この“ビジネスモデル”という言葉の学術的定義がないと著者は言います。そこでビジネスモデル研究を主要学術誌に最も多く発表しているペンシルベニア大学のラファエル・アミットとスペインIESEのクリストフ・ゾットが2001年に発表した定義を紹介しています。

「ビジネスモデルとは、事業機会を生かすことを通じて、価値を創造するためにデザインされた諸処の取引群についての内容・構造・ガバナンスの総体である」

この文の要素は5つです。まず(1)価値の創造です。当然ながらビジネスモデルは価値を生み出さねばなりません。そしてそのために(2)社内外でどのような相手にどのような取引をするかを選び、(3)それらを構造的に結び付け、(4)その取引の担当主体(ガバナンス)を決めることになります。さらに、(5)それら取引群の全体をまとめたデザインが、「ビジネスモデル」ということになります。(p.57)

アミット=ゾットの2001年論文は、59のネット系企業を分析した結果、「価値を創造するビジネスモデル・デザイン」の条件を帰納的に導出しています。(pp.58-59)

  1. 効率性(Efficiency)
    従来よりも取引上のコストを抑えらえるビジネスモデル・デザインのことです。
  2. 補完性(Complementarity)
    複数の取引主体を結びつけることで、単体では得られなかった効果をえること、いわゆる「シナジー効果」です。
  3. 囲い込み(Lock-in)
    顧客を同業競合他社の製品・サービスに流出しにくくすることです。
  4. 新奇性(Novelty)
    いわゆる「イノベーティブなビジネスモデル・デザイン」のことです。これは技術的なイノベーションとは異なり、取引主体との関係性や構造に変革を起こすことです。

アミット=ゾットは欧米のネット系の新興上場企業190社を対象に上記の4条件を統計分析して、各企業のビジネスモデル・デザインの4条件と企業価値の関係を統計分析し、新しい企業に求められるのは「イノベーティブでかつ、シンプルなビジネスモデル」と解釈できる結果を得た。

ビジネスモデルをアミット=ゾットに準じて定義するなら、ビジネスモデルと戦略はまったく異なる概念です。前者は「社内外のビジネス取引全体のデザイン」のことであり、後者(なかでも競争戦略)は「業界内で企業がどのようなポジショニングを取るかなどの行動パターン」のことです。したがって、「企業が何かの戦略をとっても、それがビジネスモデルとフィットしていなければ結局うまくいかない」可能性があります。(pp.63-64)
競争戦略論では通常、「コスト優位戦略よりも、差別化戦略の方がよい」とされます。実際、差別化戦略はそれだけでも企業価値とプラスの関係を持っています。それに比べると、コスト優位戦略は他者と価格で勝負することですから、どうしても最後はコスト削減による体力勝負となり、企業が疲弊していきます。したがってコスト優位戦略だけでは決して企業にプラスとは限りません。しかし、もしその企業が同時に「新規なビジネスモデル・デザイン」を持っていれば、やはり企業価値は高まるのです。(pp.65-66)
みなさんの中には、まさにいま、新しい事業プランで価格勝負を仕掛けようとしている方もいるかもしれません。アミット=ゾットの結果が正しいなら、そういう事業プランにこそ、「新奇性」の高いビジネスモデルの裏付けがないと、長期にわたって勝つのは難しいと言えるのです。(p.66)

p.66の10行目ですが、「新奇性」とするところを「新規性」になってます。校正漏れでしょうか。この「新奇性」は大きなポイントとなるように思うのですが、そう思うと、p.59での定義をもう少し厳格にしておいてほしい気がしました。ここにあるような“「新奇性」の高い”ということを何を持って「新奇性」と捉えられるか、何を持って高い低いと言えるのかが説明できる状態こそが「裏付け」ということでしょうから、このあたりはもう少し説明が欲しいところでした。

次は第5章、「イノベーションの絶対条件!『両利きの経営』を進めるには!」に入ります。

日本では、イノベーションと聞くと米ハーバード大学のクレイトン・クリステンセンによる『イノベーションのジレンマ』を思い浮かべる方が多いようです。しかし、世界の経営学で最も研究されているイノベーション理論の基礎は「Ambidexterity」という概念にあるといって間違いありません。この言葉には「両利き」という意味があるので、本章では「両利きの経営」とでも呼びましょう。そして、バランスの良い両利きができない企業が陥る罠を、コンピテンシー・トラップといいます。(p.74)

Ambidexterityという言葉は初めて聞きました。google scholarで調べてみました。

innovationが、約 79,200 件で、ambidexterity 約 14,600 件
このambidexterityで検索候補のサジェスト機能で出てくるものは、
・organizational ambidexterity(組織の両利き):約 17,100 件
・contextual ambidexterity(文脈上の両利き):約 7,130 件
・ambidexterity exploration(両利きの探査):約 9,850 件
・ambidexterity exploitation(両利きの開発):約 13,700 件
・ambidexterity dynamic capability(両利きの動的能力):約 11,900 件
・ambidexterity reilly:約 6,440 件→スタンフォード大学のCharles O’Reilly先生の検索だと思われます。
・brikinshaw ambidexterity :約 3,920 件→ロンドン・ビジネス・スクールのJulian Birkinshaw先生の検索だと思われます。
・innovation ambidexterity:約 10,600 件
・ambidexterity march:スタンフォード大学のJames G. March先生の1991年の論文の検索だと思われます”Exploration and Exploitation in Organizational Learning
あのジェームズ・マーチ先生です。

このあたりはまったく知りませんでした。このあたりのワードも意識しながら読み進めたいと思います。

「両利きの経営」の基本コンセプトは、「まるで右手と左手が上手に使える人のようのように、『知の探索』と『知の深化』について高い次元でバランスを取る経営」を指します。(p.75)
企業・人は様々な知の組み合わせを試せた方がいいですから、常に「知の範囲」を広げることが望まれます。これを世界の経営学では「Exploration」といいます。本書では、「知の探索」と呼びましょう。一方、そのような活動を通じて生み出された知からは、当然ながら収益を生み出すことが求められます。そのために企業は一定分野の知を継続して「深める」ことも必要です。これを「Exploitation(知の深化)」というのです。これらの考え方は、1991年に、米スタンフォード大学の著名経営学者ジェームズ・マーチが「オーガニゼーション・サイエンス」誌に掲載した論文で提示して以来、世界の経営学のコンセンサスになっています。(p.76)

不確実性の時代に必要な「両利きの経営」

http://president.jp/articles/-/9433?page=3

ちょうど入山先生のWeb記事に図がありました。

現実には、企業組織はどうしても「知の深化」に偏り、「知の探索」を怠りがちになる傾向が本質として備わっています。そもそも人・組織には認知に限界がありますし、毎年の予算を立てないといけない企業が目先の収益を高めるには、今業績のあがっている分野の知を「深化」させることがはるかに効率がいいからです。他方で「知の探索」は手間やコストがかかるわりに、収益には結びつくかどうかが不確実で、敬遠されがちになります。この企業の知の深化への傾斜は、短期的な効率性という意味ではいいのですが、結果として知の範囲が狭まり、企業の中長期的なイノベーションが停滞するのです。これを「コンピテンシー・トラップ」と呼びます。(pp.76-77)

そして、著者は「日本企業にイノベーションが足りない」と言われる根底になるのは、このコンピテンシー・トラップだと言います。これは非常によく分かります。ステークホルダーの株主からのプレッシャーもあったりで短期的な利益が要求されて、長期的な投資はできなくなってくる。しっかり利益が出ているときに先の投資をリアル・オプションでやっていかないと、本業が突然立ち倒れることもあり得るわけで、それに備えておかないと沈没していくしかないのかもしれません。特に、「人」への投資は絶対にしておかないといけないと思います。RBVの考え方になると思いますが、リソースの範囲でしか企業の戦略は実現できないですから、いろいろな戦略に対応できるリソースを確保していくためにも人材だけはすぐに買えるものでもありませんから。

イノベーションを目指す企業には、コンピテンシー・トラップに陥らないように、「知の深化」を継続しながらも、「知の探索」を推し進める組織体制・ルールづくりが求められます。上図でいえば、矢印のようにバランスよく知の探索と進化をすることです。(p.78)
両利きの経営を実現するために大事なことは、まずはビジネスパーソン・経営者自身が「知の探索」を怠らないことでしょう。イノベーションの出発点は知と知の新しい組みあわせであり、それには知の探索が欠かせないからです。(p.79)

それを回避するために、「両利きの組織」が提案されているとのこと。上記のgoogleのサジェスト機能で出て来ていた“organizational ambidexterity”がこれですね。

企業は組織としてどうしても知の深化に傾いてしまうという、コンピテンシー・トラップが「組織の本質」として備わっています。したがって、組織としてバランスよく両利きの経営を実現するための施策が重要です。・・・タッシュマンとオライリーは、企業が新しいビジネスを試みる(知の探索をする)ことを支える仕組みとして、新規事業担当部署を中心とした「両利きの組織体制」の構築を提案しています。それは、新しい事業を探求する部署には、(1)そのビジネスに必要な機能(例えば、開発・生産・営業)をすべて持たせて「独立性」を保たせること、(2)他方でトップレベル(例えば担当役員レベル)では、その新規部署が既存の部署から孤立せずに、両者が互いに知見や資源を活用しあえるよう「統合と交流」を促すこと、が重要であるという主張です。すなわち、新規事業部署にはなるべく「知の探索」を好きなようにやらせて、他方で「知の深化」は上層部で既存事業分野との融合を図ることで実現すべきだ、ということなのです。(pp.81-82)
タッシュマンは別の研究者たちと、両利きの経営を企業が実現するために必要なリーダーシップのあり方を議論しています。新規開発を担うチームは、既存の開発部門のもとに置かれることが多いはずです。しかし、その開発部長は他の既存部門との予算獲得競争にさらされることも多く、そして往々にして、いま目に見える成果の出ている「知の深化」型の既存部門に予算が割かれてしまいがちです。これは、コンピテンシー・トラップの遠因になっているかもしれません。このような事態を避けるため、経営者には三つの「両利きのリーダーシップ」が求めらえる、とタッシュマンたちは説きます。それは、(1)自社の定義する「ビジネスの範囲」を狭めず、多様な可能性を探求できる広い企業アイデンティティーを持つこと、(2)「知の探究」部門と「知の深化」部門の予算対立のバランスは経営者がとること、(3)そして「知の探索」部門と「知の深化」部門の間で異なるルール・評価基準をとることをいとわないこと、だと述べています。(p.83)

大変刺激を受けました。「両利き」についてしっかりとインプットされました。実際の論文についても当たってみたいと思います。

さて、第6章「なぜ大企業は革新的イノベーションについていけないのか」についてです。

イノベーションの源泉の一つは「組み合わせ」を変えることにあります。・・・多くの方はイノベーションと聞くと、なんだか大幅な技術革新を想起しがちです。しかし、このように(部分)ごとの変化は小さくとも、全体の組み合わせを変えることで、革新的なイノベーションが起き得るのです。そして、組織構造に既存のドミナント・デザインが染みついている大企業がこの変化に対応できないのは、ある意味当然と言えます。「大企業なのに外部イノベーションになぜ対応できないのか」とよく議論されますが、大企業だからこそ対応できないのです逆に言えば、このような企業にこそ新たな「アーキテクチュラルな知」、すなわち組み合わせをつくり出す知が促される組織作りが求めらえると言えます。(pp.89-90)

この点をさらにレベッカ・ヘンダーソンとイアン・コックバーンの論文で探求されています。

この論文で発見された、医薬品産業における「アーキテクチュラルな値を高める組織特性」は二つです。それは、(1)研究者が会社の枠を超えた広範な「研究コミュニティー」で知識交換することが評価される組織であること、そして(2)社内でも分野の垣根を幅広く越えて情報を交換することです。・・・ヘンダーソンとコックバーンが発見した「アーキテクチュラルな知を高める組織特性」の(1)は、まさに「知の探索」そのものです。やはり知の探索ができる人がいる組織は、イノベーションを生み出しやすいのです。さらに(2)は、「企業内での部門を超えた知の探索」の重要性を示唆しています。先にも述べているように、企業は製品・サービスのドミナント・ロジックに支配されるため、自部門と関連のない部門との交流が減っていきます。逆に言えば、分野の垣根を越えた幅広い情報交換による知の探索が企業内でできれば、新しい組みあわせを生んでいくことができるのです。(pp.90-91)

続いて、第7章です。

欧米を中心とした世界の経営学では、近年、「創造性」と「イノベーション」を明らかに区別した上での研究が増えています。そしてそれらの結果を総合すると、実は、「創造的な人ほどイノベーションが起こせない」という結論すら得られるのです。(p.95)

「創造性=新しいアイデアを生み出す力」であるとし、ネットワークの重要性について述べています。

企業・個人が新しい知を生み出すには、なるべく自分から離れた遠い知を幅広く探し、それを自分が持つ知と組み合わせることが求められます。それが「知の探索」です。・・・「知と知の新しい組みあわせ」すなわち、知の探索のためには、「幅広い人々からの多様な情報が効率的に流れる」ネットワーク上にいるほうが有利です。そして、そのようなネットワークは、「弱いつながり」からできているのです。したがって、弱いつながりの人脈を多く持つほうが、人はクリエイティブになれるのです。(pp.98-99)

このようなネットワークの考え方は日本の職人気質と受け入れにくいがゆえに「創造的な人ほどイノベーションが起こせない」ということのひとつになるようなのですが、さらに重要なポイントとして続きます。

では、弱いつながりを多く持って創造性を高めれば、それがそのままイノベーションに直結するかというと、実はそうではありません。そもそも創造性とイノベーションは、学術的にも実務でも、互いに異なる概念です。なぜなら、いくら創造的で新しいアイデアを出しても、それが製品化、会社で導入・特許化など、実際に活用されるところまでたどり着かなければ「イノベーティブ」とはいえないからです。アイデアは「実現(Implement)」されて、初めて周囲からイノベーティブと評価される可能性が出てきます。すなわち、創造性とはあくまでイノベーションをゴールとするプロセスの通過点に過ぎず、イノベーションという成果を得るには、まずアイデアが「実現」される必要があるのです。(pp.100-101)

そして、この問題に対して、米ワシントン大学のマーカス・バエアーが論文にしているようです。

バエアーは、企業内のクリエイティビティ-の高い人(発案者)が、さらにそのアイデアを「実現化」するために、何が必要かを研究しました。バエアーは、そのためには発案者に二つの条件が必要だと主張します。

第一に「発案者の実現へのモチベーション」です。これは言うまでもないでしょう。・・・しかし、意欲だけ高まっても、本人にその力が備わっていなければ実現はできません。そこでバエアーが注目した第二の条件は、その発案者の「社内での人脈」です。しかも、「その人脈は『強い』ものでなければならない」という主張なのです。いくらクリエイティブな人でも、アイデアを実現するまでに持っていくには、社内の多くの人の賛同を得なければなりません。(p.103)

下記のまとめ・・・イノベーションを起こすための部分部分の職務・役割を想像するに、広く、また相反する能力が要求されるというあたりについては、しっかりと理解しておきたいと思います。

ここまでの議論をまとめると、日本企業に向けての示唆は三つあると私は考えます。

第一に最も基本的なこととして「創造性」と「イノベーション」は別物であることを理解したうえで、自社の問題が「創造性の欠如」なのか、「創造性→実現の橋渡しの欠如」なのかを把握することです。・・・第二に、もし自社の問題が「クリエイティブな人が足りないことにある」と判断したら、社員が「弱いつながり」を社内外に伸ばせるサポートをしてやることです。・・・第三に、この弱いつながりを持った創造性の高い人を「アイデアの実現化」まで橋渡しするにはまったく異なるサポートが必要です。もちろん弱いつながりを持つ人自身が強いつながりを持って社内の根回しをできればいいのですが、人間はスーパーマンではないので、これは簡単ではありません。(pp.104-105)、

「創造性」は「イノベーション」の種でしかなく、また「創造のためのスキル」と「イノベーション実現のためのスキル」は異なることがよく分かりました。逆にこれを分かって入れば、うまく役割を演じ分けることで川上から川下までやり遂げることができるということですが、簡単ではないということです。

さてさて、次に進めます。第8章からはPart4の「最先端の組織学習論」に入ります。

第8章では、「トランザクティブ・メモリー」というまた初めて聞く言葉が出てきます。

google scholarで検索すると、Transactive memory:約 12,100 件
トップは、”Transactive memory: A contemporary analysis of the group mind” という論文になっており、これは後ほど出てきそうです。

さらに踏み込んで、「企業はこの探索した知をどう活用して、学習すべきか」について考えてみましょう。そのための第一歩は、情報の共有化です。各社員が持っている知を「新しく組み合わせる」には、企業内において社員が、その知を共有している必要があります。この情報の共有化あるいは「組織の記憶力」において、最先端の組織学習研究で重要視されているのが、トランザクティブ・メモリーでという考えです。(p.112)
トランザクティブ・メモリーは、世界の組織学習研究ではきわめて重要なコンセプトと位置付けられています。その要点は、組織の学習効果、パフォーマンスを高めるために大事なのは、「組織のメンバー全員が同じことを知っている」ことではなく、「組織のメンバーが『他のメンバーの誰が何を知っているのか』を知っておくことである」というものです。英語で言えば、組織に必要なのはWhatではなく、Who knows whatである、ということです。よくビジネス誌などで「情報の共有化」という言葉が使われます。そして多くの方は、情報の共有化とは、「組織のメンバー全員が同じことを知っていることである」と認識されているはずです。・・・ヒト一人の知識のキャパシティーには限界があります。それなのに全員が同じことを覚えていては、効率が悪いはずです。組織の本来の強みとは、メンバー一人ひとりが、マーケティングの人なら商品の知識、開発者なら技術の知識、法務の人なら法律の知識、・・・それぞれの専門知識を持って、それを組織として組み合わせることにあるはずです。(p.113-114)

私も「情報の共有化」について、勘違いしていました。情報のレベル感にもよりますが、何をどう共有するかということについても、ヒトの脳、能力をうまく活用することは覚束ないですね。難しいです。

そしてさらにその共有の方法については、Face to Faceがメールよりも勝るという結果が出ているようです。さらにホリングスヘッドによると、目と目を合わせる「アイコンタクト」や顔の表情を通じてのコミュニケーションが、トランザクティブ・メモリートランザクティブ・メモリーを高める効果を主張しているようです。

現在はこの研究結果を受けてか、シリコンバレーのオフィスでもFace to Faceになりやすい平場のオフィスを使っているところも出てきているようです。

どんどん進みます。次は、第9章「ブレスト」についてです。

ブレストの目的が「アイデアを出す」ことにあるのは、みなさんの共通認識でしょう。ところが世界の経営学研究では、「ブレストでアイデアを出すのは、実は効率が悪い」という結果が得られています。まるで、本末転倒な印象ですが、しかしこれは、ブレスト研究者の間ではよく知られたことなのです。(pp.122-123)

企画会議での初期段階などでは定番の「ブレスト」ですが、無駄な時間を使っていたんですね・・・。例えば、5人のメンバーだとすると、ブレストよりも「5人が個別にアイデアを出して最後にアイデアを足し合わせ」ほうが、よりバラエティーに富んだ質の高いアイデアが多く出ることが分かっているようです。

ブレストでプロダクティビティー・ロスが起きるのは、「他者への気兼ね」「集団で話すときは思考が止まりがち」という2つの理由からだそうです。

しかしそんな「ブレスト」ですが、有名なアメリカのデザイン会社のIDEOでは行われているようなんですが、「IDEOのブレストは、『アイデアを生み出す』ことを超越した役割を持っている」らしいのです。

その役割とは、
1.「組織(IDEO)全体の記憶力を高める」
トランザクティブ・メモリーの強化の役割
2.参加メンバーによる組織の「価値基準・行動規範」の共有
より突飛で大胆なアイデアを出す行動の促進

経営理論では、「シェアード・メンタル・モデル」がこの考えに近いといえます。これは「組織学習では、組織メンバーがメンタル・モデル(=基本となる思考体系)を共有していることが重要」という考えです。先の価値基準・行動規範はまさにメンタルモデルです。そしてトランザクティブ・メモリー同様、顔を突き合わせての直接交流のほうが組織はシェアード・メンタル・モデルを高めやすい、という研究結果も出ています。このようにブレストは「その場でアイデアを出す」機能としては実は効率は悪いのですが、他方でブレストの場を超えて、企業全体での学習能力を高める効果がある、というのがサットンとハーガドンの主張なのです。(p.129)

日本もかなり変わっては来ていますが、とくに大企業ほどプロパー社員が多いわけで、染まってしまうのは良くないですがあまりにバラバラも問題ですし、ある程度までは価値基準や行動規範のレベル合わせは必要だと思いますし、そういった形で「ブレスト」を使うのもいいかもしれません。

第10章は「失敗は成功のもと」はビジネスでも言えるのか、ということですが、次のことが立証されているようです。

「全般的には成功体験は良い効果をもたらす」のですが、しかし「失敗経験が乏しいまま、成功だけを重ねてしまうと、むしろその後は失敗確率が高まっていく」のです。(p.140)

例として、若くして成功した起業家のその後の低迷や、逆に若いときに多くの失敗を経験した中国アリババ集団のジャック・マー氏が挙げられています。

【Part5】グローバルという幻想
【Part6】働く女性の経営学
こちらは、割愛します。

Part7は「科学的に見るリーダーシップ」ですが、こちらはポイントを引用していきます。

経営学でコンセンサスとなりつつある「2種類のリーダーシップ」について、まず理解したいと思います。

その二種類とは、「トランザクティブ・リーダーシップ」と「トランスフォーメーショナル・リーダーシップ」です。欧米のリーダーシップ研究者で、この区分けを知らないものはいないと言ってもいいかもしれません。まずトランザクティブ・リーダーとは、部下の自己意志を重んじ、まさに取引のように(=トランザクティブ)部下とやり取りするリーダーです。部下に対して「アメとムチ」をうまく使えるタイプのリーダー、ともいえます。さらにこれまでの研究で、トランザクティブ・リーダーシップは三つの資質に分解されることも分かっています。第一は「コンティンジェント・リワード」です。これは、成果をあげた部下に対して正当な報酬をきちんと与えることです。・・・第二と第三の資質は関連しています。両方とも英語では、「マネジメント・バイ・イクセプション」というのですが、それがさらに第二の資質「能動型」と第三の「受動型」に分かれます。能動型は、部下が何か問題を起こす前に「そのままだと失敗するぞ」と介入するタイプのことです。受動型は、部下が失敗しそうでも敢えてそこで介入せず、実際に失敗してから問題に対処するタイプのリーダーです。なお、この三つの資質は、必ずしも互いに相容れないものではなく、一人のリーダーが複数の資質を持ちえます。(pp.203-204)
もう一つのリーダーシップは、「トランスフォーメーショナル型」です。・・・先のトランザクティブ型リーダーは「アメとムチ」を重視しますが、トランスフォーメーショナル型リーダーが重視するのは「啓蒙」です。このタイプのリーダーは四つの資質から構成されます。すなわち、(1)組織のミッションを明確に掲げ、部下の組織に対するロイヤルティーを高める、(2)事業の将来性や魅力を前向きに表現し、部下のモチベーションを高める、(3)常に新しい視点を持ち込み、部下のやる気を刺激する、そして(4)部下一人ひとりと個別に向き合いその成長を重視する、の四つです。よく言われる「カリスマ型リーダー」は、これに近いかもしれません。日本では、「革新的リーダー」という言葉も使われますが、これもトランスフォーメーショナル型に近い意味合いではないでしょうか。この「トランスフォーメーショナル」と先の「トランザクティブ」もそれぞれ異なる概念ですが、これらもまた一人が両方の資質を持ち得ます。(pp.204-205)

例えば、職務の内容、そのチームの人数、中間管理職の場合は上司のリーダーシップのタイプによっても、適切なリーダーシップのスタイルというのがある気がしますね。そうなると、中間管理職ほど柔軟にリーダーシップのタイプを使い分けられる能力が必要となり、人事もそのリーダーがリーダーシップを発揮しやすいようなチームにできれば、企業としての価値をより高められる状態を作り出せる気がします。

全般的な傾向として、「相対的に『トランザクティブ型』よりも『トランスフォーメーショナル型の4資質』を持ったリーダーのほうが、高い組織成果につながりやすい」という結果になっているのです。また、トランザクショナル型の資質の中では、コンティンジェント・リワードが高い組織成果につながります。他方、一般に組織成果につながりにくいのは「マネジメント・バイ・イクセプションの受動型」というのが、私の理解です。(p.206)

「マネジメント・バイ・イクセプションの受動型」というのは、「部下が失敗しそうでも敢えてそこで介入せず、実際に失敗してから問題に対処するタイプ」です。教育者としてでは、これもありだと思うのですが、リーダーがこれをやるとあまり良くないんでしょうかね。部下のタイプにもよるでしょうし、難しいですね。

次の第16章は、「ビジョン」になります。これまた興味深いです。

世界の経営学ではこの「リーダーのビジョン」という曖昧な概念に対しても、心理学や統計分析を使った多くの研究があり、そこからいろいろな知見を得ているのです。ビジョン研究は膨大で、その全貌を本書だけで書き切ることは不可能です。そこで本章は、私が独断で「ビジネスパーソンに有用かもしれない」と考える二つの切り口に焦点を絞って、最先端の経営学の知見をご紹介します。それは、「ビジョンの特性」と「ビジョンの伝え方」です。(pp.214-215)

「ビジョン」に関する研究が膨大ということに驚きましたが、言われてみれば、「ビジョン」に関するビジネス書については結構出てますし、なるほどというところでしょうか。

優れたビジョンが企業の業績に良い影響を及ぼす可能性も、多くの研究で示されています。バウムたちの論文によると、「CEOが優れたビジョンを持っている企業ほど、事後的な成長率が高くなる」という結果を得たのです。ここで当然ながら、では「優れたビジョン」の基準は何かということが気になります。ビジョン研究では、その評価軸には「ビジョンの中味(Vision Content)」と「ビジョンの特性(Vision Attribute)」があるとされています。バウムたちは過去の経営学の研究を精査した結果、優れたビジョンには6つの特性があると指摘しました。それは①簡潔であること、②明快であること、③ある程度抽象的であること、④チャレンジングなこと、⑤未来志向であること、⑥ぶれないこと、です。(pp.215-216)

Baumさんらの論文はこちらになります。
A longitudinal study of the relation of vision and vision communication to venture growth in entrepreneurial firms.

さてバウムたちの研究には、もう一つのポイントがあります。それは「CEOと従業員のコミュニケーションの重要性」です。この論文では、前述した分析結果に加えて「CEOと従業員のコミュニケーションが高まるほど企業の成長性が高まる」という結果も得られています。・・・・ビジョンを社員に浸透させるには、経営者が自らの声で語りかけることが何より大事なはずです。(p.217)

そして、「ビジョンの伝え方」についても、経営学では色々と研究されているようです。これまた興味深いです。

人が自分の考えを伝えるときには、その中身だけではなく、言葉の選び方で効果が変わります。いわゆるレトリック(修辞学)です。リーダーならば、自分のビジョンを組織・部下に浸透させるために言葉を選ぶ必要があります。エンリッヒたちは、米国歴代大統領の演説を分析対象にしました。ここで彼女たちが注目したのは、演説の中に使われた二つの正反対のタイプの言葉の数です。それは「イメージ型の言葉」と「コンセプト型の言葉」です。「イメージ型の言葉」とは、そこからまさに「光景」や「映像」が思い浮かんだり、あるいは臭い、音などのイメージまでも伝わったりするような言葉です。「感性・五感に訴える言葉」といってもいいでしょう。それに対して「コンセプト型の言葉」とは、人の論理的な解釈に訴える言葉です。似たような意味を指す言葉にも、イメージ型とコンセプト型があり、それぞれで印象はかなり違ってきます。(pp.218-219)

これは勉強になります。

Cynthia G Emrich, Holly H Brower, Jack M Feldman, Howard Garland
Images in words: Presidential rhetoric, charisma, and greatness

コンセプト型「助ける」→イメージ型「手を貸す」
コンセプト型「働く」→イメージ型「汗をかく」

「~のもとになるのは」はコンセプト型で、それを「~の根っこにあるのは」と言えばイメージ型ということのようです。

そして統計分析により、イメージ型の言葉を使う比率が高い大統領ほど「カリスマ性が高く」、そして「後世の歴史家から『偉大な大統領』と評価されている」という結果を得たのです。この結果をもって、エンリッヒたちは、「イメージ型の言葉は相手にビジョンを浸透させやすい:可能性を指摘します。イメージ型の言葉はビビッドなので耳目をひきやすく、光景をイメージさせるので理解してもらいやすく、覚えやすく、そして聴衆の感情に訴えやすいからです。(pp.219-220)

また、ジェフリー・ミオ達3人は米大統領の就任演説における「メタファー(比喩的な表現)」を使う頻度に注目しました。「カリスマと評価される大統領のほうが、就任演説でメタファーを多く使っている」傾向を確認しています。

このように「カリスマ」「偉大なリーダー」と評価される人は、自身のビジョンを伝えるために、イメージ型の言葉やメタファー、すなわち「相手の五感に訴える」言葉を使う傾向があります。(p.221)

【Part8】同族企業とCSRの功罪、すみません、割愛します。

少し飛んで、第21章 成功した起業家に共通する「精神」とは に行きます。

経営学の「起業家精神」を理解するうえで最も知られたコンセプトは「アントレプレナーシップ・オリエンテーション」(以下、EO)です。EOは米国の企業研究者で知らないものはない、と言ってもよいほどのコンセプトと言えます。中でも金字塔になったのは、現インディアナ大学のジェフリー・コーヴィンとピッツバーグ大学のデニス・スリーヴァンが1989年に発表した論文です。

この論文で両教授は、小規模企業が成功するために経営幹部に必要な「姿勢(Posture)」に注目し、特に革新性(Innovative)、積極性(Proactive)、リスク志向性(Risk-taking)の3つが重要だと主張しました。・・・この定量化された「経営幹部の姿勢」指数と企業業績の関係を検証したところ、、「事業環境が不安定なときには、経営幹部がこの3つの条件を満たしている企業ほど業績が良くなる」という傾向が明らかになったのです。この論文の発表以降、世界中の研究者がこれらを「EOの三姿勢」として、起業家分析に応用するようになりました。(pp.274-276)

さらに、パッションも重要であることが分かりました。

「経営者のパッション→コミュニケーションの活性化→ベンチャーの成長」という、パッションの「間接的な効果」が確認されたのです。(p.278)

EO、パッションに続く、もう一つが「第三の起業家精神」です。大成功した起業家たち、革新的な事業を生み出すには、人はどのような思考パターンを持つべきなのでしょうか?

クリステンセンたちはまず世界中の「イノベーティブ・アントレプレナー」たちにインタビュー調査をし、そこから彼らの思考パターンに共通点を見つけることにしました。・・・インタビューの結果、クリステンセンらはイノベーティブ・アントレプレナーに共通する思考パターンは、以下の4つにまとめられると主張しました。(pp.279-281)

  1. クエスチョニング(Questioning)
    現状に常に疑問を投げかける態度のことです。中でも重要な言葉が「What if」です。イノベーティブ・アントレプレナーたちは事業を立ち上げる前から、「もし私がこれをしたら(if)、世の中はどうなるか(what)」を考え続けるのが共通の思考パターンなのです。
  2. オブザーヴィング(Qbserving)
    興味を持ったことを徹底的にしつこく観察する思考パターンです。
  3. エクスペリメンティング(Experimenting)
    それらの疑問・観察から「仮説をたてて実験する」思考パターンです。
  4. アイデア・ネットワーキング(Idea Networking)
    「他者の知恵」を活用する思考パターンです。

ENTREPRENEUR BEHAVIORS, OPPORTUNITY       RECOGNITION, AND THE ORIGINS OF INNOVATIVE VENTURES

さすがに、「DHBRが選ぶベスト経営書2016」で1位だったことも納得の1冊でした。学ぶべきことが多く、引用の文字数もおそらく読書レビューのなかで最高記録だと思います。

非常に勉強になりましたし、まだまだ勉強すべきことが多いと知らされる非常に刺激的な1冊でした。

 

最後に、本文のなかに挟み込まれていた(経営学ミニ解説)部分について、確認しておきます。

【メタ・アナリシス】
これは経営学に限らず、現在の社会科学研究でよく使われる分析手法です。メタ・アナリシスとは、「過去の統計分析の結果を、さらに統計的に総括する手法」とご理解いただ明ければいいと思います。・・・同じ法則でも、その実証分析の結果が論文ごとに同じとは必ずしも限りません。実証分析は、データの対象期間や対象産業・対象国が違ったり、論文ごとに細かい分析手法も異なったりします。そういった差異が、結果に影響を与えるのです。(pp.38-39)
【知の探索】
ここでは、マーチの1991年の論文について詳しく解説されています。マーチはのその論文で発見された4つののことがまとめられています。(pp.107-109)

  1. メンバーが組織の考えを学ぶスピードが遅い方が、最終的な組織全他の学習量は増加する。
  2. 組織の考えを学ぶのが速いメンバーと、遅いメンバーが混在している方が、最終的な組織全体の学習量は増加する
  3. 組織のメンバーは一定の比率で入れ替えがあったほうが、組織の最終的な学習量は増加する
  4. 発見3で得られた効果は、特に組織を取り巻く環境が不確実性が高いときに強くなる。
【内発的な動機】
モチベーションには大きく二種類ある。
・外発的な動機(Extrinsic motivation):給料、昇進、周囲からの評価
・内発的な動機(Intrinsic motivation):心の中から湧き上がる動機この「内発的な動機」についての第一人者は、米ペンシルベニア大学のアダム・グラント教授。The necessity of others is the mother of invention: Intrinsic and prosocial motivations, perspective taking, and creativity

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