ハーバード流 キャリア・チェンジ術

ハーバード流 キャリア・チェンジ術

ハーバード流 キャリア・チェンジ術
著者:ハーミニア・イバーラ,宮田 貴子,金井 壽宏

商品説明
長きにわたって情熱を注いできた仕事に対し、このままで良いのかと疑問を持ったことはないだろうか? 自分のやりたいことは別にあるような気がする。とはいえ、人生半ばでキャリアを変更するのはもったいない──そんな躊躇(ちゅうちょ)から脱し、キャリア・チェンジを成功させた、あるいは成功させつつある39人の転職体験から、キャリア・チェンジの原則を見いだしたのが本書である。本書の特徴は、従来のように綿密な計画を立て、自己分析を行ったうえで行動するといった、「考えてから行動する」という順序を否定している点にある。キャリアを「チェンジ」するプロセスと、そこに働く心理を解明し、計画や考えることよりも、進化や行動を重視するアプローチが新鮮だ。また「人は数多くの将来の自己像を持つ」ものだというスタンスは、人生半ばでキャリア変え、アイデンティティーを構築し直す後ろめたさや敗北感から解き放ってくれる。さらに本書では、過去と現在のアイデンティティーの板挟みに悩む「過渡期」の苦しみの乗り越え方についても、紙幅を割いている。過渡期を支えるのは、古くからの友人や前職の仲間ではない。今までのキャリアから乗り換えるにあたり、「強いきずなは視界を奪う」という言葉は、よく心しておくべきだろう。 本書の後半にまとめられている「新しいキャリアを見つけるための型破りな9つの戦略」は、キャリア・チェンジに留まらず、人生におけるさまざまな岐路に直面したときにも等しく効果的な戦略である。次のステップを模索中の人に、勇気を与える1冊だ。(朝倉真弓)

★読書前のaffirmation!
[きっかけ・経緯] 天職を探したい・・・キャリア・チェンジ!
[目的・質問] 天職を探すための心構えを知る
[分類] 366.29:職業.職種.職業紹介.職業訓練.就職

この本がよりどころとするのは、拍子抜けするほど単純な二つの考え方だ。第一に、キャリア・アイデンティティーは心の底に隠された宝物で見出されるのを待っているわけではなく、数多くの可能性からなると考える。なかには具体的な可能性もあり、行動や人間関係によって、そして仕事や人生に対して抱く「物語」によって明確になる。一方で漠然とした可能性もあり、個人的な将来の夢の世界にだけ存在する。第二の考え方は、キャリア・チェンジは自分を変えるのに等しいというものだ。自己像はいくつもあるので、今のアイデンティティーを別のものと取り換えるわけではなく、キャリア・チェンジを過渡期と見做しあらゆる可能性を部分的に修正していく。こうした単純な考え方に基づくと、転職について当然だと思っていたすべてのことが変わってくる。時間や気力のほとんどを、思考でなく行動に、計画でなく実行に費やすことになる。この点が従来の戦略とは異なる。(p.14)

キャリア・チェンジは自分を変えるのに等しい・・・そう、新しい自分を見たい、私自身もそれは一つの原動力になっています。

実際には、キャリア・チェンジは従来のこの方法ではうまくいかない。自分の本質を理論としてでなく現実的に理解するには、内面を見つめるのではなく実際に試すことだ。本当の可能性を見出すのは行動を通じてである。新しい活動を試し、いままでと違う人に接し、新たな手本となる人を探し出す。自分の「物語」を周りの人に伝え、書き換える。経験を重ね人から認められることで、ほしいものがはっきりしてくる。新しい情報を取り入れ理解し、色を加え輪郭を描き足し、陰影や濃淡をつけ形を整える。何かを選ぶたびに、将来の自分の肖像画が描かれてく。再出発するには、考えるよりまず「行動」することだ。(p.15)

これはグサッときました。いろいろな人と話をすることで、「未見の我」が少し見えてきます。それは行動しないと見えてこない部分であり、先ず動くことの大切さは最近、本当に感じています。

キャリア・チェンジはキャリア・アイテンティティーを修正することだからだ。キャリア・アイデンティティーとは、職業人の役割を果たす自分をどう見るか、働く自分を人にどう伝えるか、最終的には職業人生をどう生きるかといったことを指す。転職の過程が「行動してから考える」という順序になるのは、人の本質と行動がきわめて密接な関係をもつからだ。両者の関係は長年の行動の結果築かれたものであり、それを変えるには同じ手法を用いることになる。(p.20)

自分を見直せるので、自然と「修正」していくことになりますが、このように定義してもらえると、確かにそうだと納得できます。

この本では、あらゆる分野の職業の人がキャリア・チェンジをどう実践したかを調べた。行動の意図や振り返って考えたことでなく、実際の行動を詳細に見ていくことにより、従来の見識とは異なる二つの重要な点が明らかになった。第一に、人は数多くの将来の自己像をもつ。そのため、これまでのキャリア・アイデンティティーを新しいものと単純に交換することはできない。新しい可能性を見出すには、たくさんの選択肢を何度も見直し修正しながら過渡期を乗り越えることだ。第二に、新しい自分を見つける「方法」を考え出すのはほぼ不可能であり、したがって計画をきちんと実行するのも難しい。大切なのは心の底の本当の自分をはじめから把握することではなく、将来の自己像を思い描いては試すといういくつかの段階の第一歩を始めることだ。どれほど自分を見つめても、直接経験することの代わりにはならない。選択肢を評価するには経験が必要だし、評価の基準も経験を重ねるにつれ変わっていく。(p.21)

これも深いです。特に第二の「直接経験することの代わりにはならない」というところは、転職活動のなかで、これまでビジネスキャリアのなかでは経験できなかったことを真剣に考える場ができます。たとえば、エージェントから紹介を受けた会社で、その会社の一員になったつもりで、企画案を巡らせたりするのは、疑似ではありますがそれなりに深く考えることで、替えがたい経験値を積み重ねることができると思います。

職業や所属する組織が自分に合っているかどうかだけでなく、今後何をしたかとの疑問をもった人なら、これまで教えられてきたマニュアルどおりの職探しの方法では不十分だ。将来の自己像がさまざまなに変わる過渡期では、変化を生み出す唯一の方法は下図のようになる。将来の自己像を実際に試し、念入りに対処し修正していく。やがて経験により十分な基盤が築かれ、さらに重要な次の段階へ導かれる。(pp.41-42)

▼アイデンティティーを確立する方法
―キャリア・チェンジに上手く対処するためにどう行動するか

これまでのキャリア・アイデンティティーを決定していた要素 新しいキャリア・アイデンティティーを確立する戦略
行動や活動(携わる仕事の内容) さまざまなことを試みる
大きな決断を下して別の道を選ぶ前に、新しい活動や仕事を少しずつ試みる
関わる人々(仕事の人間関係や所属する職業集団) 人間関係を変える
新しい世界の扉を開いてくれる人と人間関係を築く
手本になる人や仲間を見つけて、進歩を導き評価してもらう
人生で進行中のできごとや、自分の過去と将来を繋げる「物語」 深く理解し納得する
変わるためのきかっけや刺激を見つけるか生み出す
「物語」を修正する根拠としてそれらを利用する
計画して実行するという順序では新しいキャリア・アイテンティティーを築けない。アイデンティティーの本質や確立される過程を根本的に正しく認識していないからだ。計画して実行する方法は、可能性を見つける過程を直線のようにみなす。十分に形成された今の自分を、もっとすぐれた新しい手本と交換するものだと考え、その手本は初めから明確なものだとされている。試して学ぶ方法は、すでに存在するものを見つけ出すのではなく、人と周りの環境が影響を及ぼしあって方向が決まっていくと考える。その過程で最初になかった可能性が生まれることもある。(pp.59-60)

計画するためにはゴールを定義しないといけないでしょうから、あまりジャンプした計画は立てられないのでしょうが、試しながらだと新しい自分が都度都度発見しながら、新しいゴールを創っていくことができるということは納得できます。

 

以下、いろいろな人の事例が紹介されていきますが、その部分は割愛して結論部分について考察します。

紹介した数多くの体験談から、一般的で重要な指針がいくつかはっきり見えてきた。ここではその指針を、「新しいキャリアを見つけるための型破りな9つの戦略」としてまとめた。行動してから考える、可能性絵を気軽に試す、矛盾を残す、小さな段階を積み重ねて大きく変わる、新しい役割を試みる、なりたいと思う人を見つける、きっかけを待つな、ときには距離をおいて考えるがあまり長い時間はかけない、チャンスの扉をつかむ、である。(p.219)

新しいキャリアを見つけるための型破りな9つの戦略(pp.220-223)

 

  • 型破りな戦略 1
    行動してから考える。行動することで新しい考え方が生まれ、変化できる。自分を見つめても新しい可能性は見つけられない。
  • 型破りな戦略 2
    本当の自分を見つけようとするのはやめる。「将来の自己像」を数多く考え出し、そのなかで試して学びたいいくつかに焦点を合わせる。
  • 型破りな戦略 3
    「過渡期」を受け入れる。執着したり手放したりして、一貫性がなくてもいいことにする。早まった結論を出すよりは、矛盾を残しておいた方がいい。
  • 型破りな戦略 4
    「小さな勝利」を積み重ねる。それによって、仕事や人生の基本的な判断基準がやがて大きく変わっていく。一気にすべてが変わるような大きな決断をしたくなるが、その誘惑に耐える。曲がりくねった道を受け入れることだ。
  • 型破りな戦略 5
    まずは試してみる。新しい仕事の内容や手法について、感触をつかむ方法を見つけよう。いまの仕事と並行して実行に移せば、結論を出す前に試すことができる。
  • 型破りな戦略 6
    人間関係を変える。仕事以外にも目を向けたほうがいい。あんなふうになりたいと思う人や、キャリア・チェンジを手助けしてくれそうな人を見つけ出す。だが、そうした人をこれまでの人間関係から探そうと考えてはいけない。
  • 型破りな戦略 7
    きっかけを待っていてはいけない。真実が明らかになる決定的瞬間を待ち受けてはいけない。毎日の出来事の中に、今経験している変化の意味を見出すようになる。人に自分の「物語」を実際に何度も話してみる。時間が経つにつれ、物語は説得力を増していく。
  • 型破りな戦略 8
    距離をおいて考える。だがその時間が長すぎてはいけない。
  • 型破りな戦略 9
    チャンスの扉をつかむ。変化は急激に始まるものだ。大きな変化を受け入れやすいときもあれば、そうでないときもあるから、好機を逃さない。
複数の事例研究を並行して進め、各事例は、検討中の考えを肯定または否定するための別々の判断材料と見做した。目的は理論を試すことではなく生み出すことだったので、調査計画は変更できるものとし、途中で得た情報から予想外のテーマを見つけられるようにした。

面接結果は、データ対話型理論(グラウンデッド・セオリー)を構築する帰納的な手法により分析した。面接と分析の初期の段階で、対象者を分類できるようなキャリア・チェンジの過程の類似点を探した。即座にキャリア・チェンジの戦略は大きく分けて3つあることがはっきりした。

一つ目は副業として携わっていく方法だ。

二つ目は人材会社や以前の友人や同僚を通じて、仕事の依頼を受けたり一時的に他の職業に就いたりするものだ。

三つ目は正社員の仕事を中断するか長期休暇をとるもので、大学院などに通う人が多い。

この三種類があきらかになったあとは、理論的サンプリングの手法を利用し、比較可能な事例数を種類ごとに確保した。・・・結果としてキャリア・アイデンティティーをつぎのように考えることになった。過渡期では、目指したい人に近づくために、「原稿を推敲する」ように自己認識が何度も書き換えられる。現実的には自分の可能性を綿密に考え、修正し、更新する。それにより可能性の輪郭と詳細の両方が育まれていき、やがて新しいキャリア・アイデンティティーが十分に確立されるのだ。(pp.234-235)

この三つのパターンが立証されたことは興味深いです。またおそらく複合型もあるのでしょうが、私の場合は、就業しながら大学院に通うことがキャリア・チェンジを目指すきっかけになり、過程であるというタイプで少し一般的でないかもしれません。しかし結果としては、ここに書かれている通りで(まだ過渡期ではありますが・・・)、「自分の可能性を綿密に考え、修正し、更新」しています。

 

最後に、神戸大学の金井先生の監修者解説がありますが、理解度を深めていくことになりますので、考察していきたいと思います。

これまでの通説:MITのエドガー・H・シャインによる「キャリア・アンカー」の考え方です。

周りの要望に自分を合わせるばかりでなく、自分が得意で、やりたことで、意味を感じられることは何なのか、自分に問い掛け、そこを自分が歩む長いキャリアの拠り所にすべきだ。シャインは、このような考えから、その拠り所を、船の碇にたとえて、「キャリア・アンカー」と呼んだ。どのような遠洋にも、知らない世界にも、このアンカーがあれば、航海ができる。・・・どうしてもあきらめたくないもの、犠牲にしたくないものが、その人のキャリア・アンカーを探すヒントとなる。(p.241)

これがこれまでの通説としてのキャリア・デザイン論でした。ところが、著者のイバーラは「考えてばかりいるよりも動け」というのだ。

 

イバーラは違う視点を提供してくれる。迷った時には、自分の内側の世界を内省して大きな絵を描き、それにいっきに飛びつこうとするよりも、まず行動を起こしてみて、小さな勝利を重ねるのがいいという視点だ。つぎのビッグステップを考えあぐむと、ジャンプが怖くて、そもそも飛ぶのを止めてしまう人が続出してしまう。困ったときに、一番してはならないのは、長時間立ち止まることだ。(p.241)

特に、日本人の場合、考えれば考えるほど利害関係者のことまで考えが及び、二の足を踏んでしまうことになりがちだと思います。「動く」と「決める」は違います。「決める」のは後でいいから、「動く」ことで「決める」ための情報はたくさん入りますし、「決める」ための選択肢も広がると思いますので、止まってないで「動く」べきだと思います。

 

たったひとつのほんとうの自分という発想に囚われるのは避けるべきだ。人間は、もっと可能性に満ちている。自己規定を狭くしてはいけない。アイデンティティーは、過去を内省すれば、自分のなかに「ほんとうの自分」としてひとつだけ見つかる確固たる秘宝ではない。

最初から存在する宝を探すのがキャリア・チェンジではない。将来指向でみれば、アイデンティティーとは、複数の可能な自分のありよう(possible selves)から、行動を通じて見つけて選んでいくものだ。その見つけ方に注意したい。事前に描かれた計画と地図によって探す過程(plam-and-implement processと呼ばれる、計画しそれを実施していく過程)ではなく、試しては学習する過程(test-and-learn process)から見つけていくものがイバーラの考えるアイデンティティーだ。しかもそれは一人で見つけるものというより、いろんなきっかけ、いろんな人々とのつながりの中から見つけ、育てられる。(p.244)

自分の最終地点・・・これだけ環境の激しい時代、新しい自分が見つかることもきっとあるでしょうから、「たったひとつの本当の自分」に囚われては見えるものも見えなくなってしまうかもしれません。

 

キャリア・アンカー論で有名なエドガー・シャインも、心の内なるキャリア・アンカーの声を聞くだけでなく、仕事上繋がっている大勢の人たちの声を聞き、どのように仕事環境でうまくやっていけているのかという面に注目している。前者のキャリア・アンカーに対して、後者は「キャリア・サバイバル」と呼ばれている。(pp.244-245)

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そして、このアプローチをさらにマクロ的な考え方で説明されている。

 

進化論的な考え方は、経営戦略論の中で、イバーラが勤務するINSEADのヘンリー・ミンツバーグによって、計画立案型戦略に対して、工芸制作型戦略として提唱されている。おおげさだが、両者の違いは、(聖書で神が世界を創造していくような類の)大計画アプローチ(Biblical “grand” plan approach)とダーウィン的進化論的アプローチ(Darwinian evolutionary approach)とも対比される。(p.245)

あわせて、後者はレヴィ=ストロースのブリコラージュ的なアプローチであるようにも思います。環境に適応しながら、ありあわせの材料の中で最良のものに仕上げていくことであるようにも感じました。

会社の将来を左右するような大きい戦略的決定となると数は非常に限られる。そのときは、事前に綿密にデータを集め、計画を練る。大きな絵を探し、それにいっきに向かおうとする。でも、それはなかなか一筋縄にはいかない。一見すると目立たないが、やや小さな意思決定を積み重ねていく中で、小さな勝利をどんどん収めていくと、その歩みの軌跡や、その軌跡の全体を将来にも語り継ぐための物語が、やがて会社を徐々に大きく方向づけていくことになる。過去の鍵となる経験の積み重ねを振り返り、たとえ後知恵であったとしても将来構想のために経験の流れを意味づけていこうとする。そのことの大事さがクローズアップされるのは、会社にとっても個人にとっても、節目の時なのである。(p.245)

個人にとっての節目・・・そうなんですよね。この節目をどう折り合いをつけるか。会社の場合は、意思決定に応じてメンバーへのその意思の意味・意義を伝達して納得させないといけませんが、個人の場合は、すべての遺伝子は自分の意思に従って動きますからどんどん柔軟に変えていっても対応できるわけですから、朝令暮改も問題ありません。どれだけ情報を集めて、感じて、その節目に対応するかということになると思います。

本書の中で何度も出てくるウィリアム・ブリッジズは、キャリアの節目を考える研究者、実践書の必読書だ。ブリッジズによれば、キャリア・チェンジに限らず人生のあらゆる節目をうまく乗り切るには、「始まり」に強く固執すること以上にもっと大事なことがある。始まりをバラ色に彩る「計画」に浮かれる前に、まずは、「行動」としてすべきことがある。それをしっかり経た後のほうが、「始まり」の歩みももっと元気になり持続力が出る。「始まり」の前にすべきことのひとつは、まず、重くのしかかる過去の「終わり」をしっかり告げること(psychological ketting goとも呼ばれる)である。それから、この「始まり」と「終わり」のあいだの谷を深く感知することだ。つまり、「終わりつつあるが、まだ新しいことが始まっていない宙ぶらりんな時期(neutral zone 中立地点と呼ばれる)で思い切りまじめに悩むことが大事だとブリッジズはいう。(pp.247-248)

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経営学の中では、キャリア・チェンジや組織変革の分野で、この種のエピソードがたくさん紹介されている。ほかならぬブリッジズは、端的な例えとして、空中ブランコをあげている。それまで握っていたブランコを手放さない限り、目の前に迫りくる別のブランコに決して手が届かない。その間には、どちらのブランコからも手が離れてしまっている。文字通り宙ぶらりんな時期がある。・・・しかし、そこをくぐらないと、ほんとうの始まりはない。(p.248)

A man tightrop walks with a large building in the background
(写真は空中曲芸師のザ・フライング・ワレンダス家の7代目のニック・ワレンダ

リーダーシップ論の大御所の一人ウォレン・ベニスは、カール・ウォレンダという綱渡り名人の例をよく用いる。ウォレンダは、当代随一の綱渡り名人として、名をはせていた。綱の上を渡る方が、ふつうに地面の上を歩くよりも自由だと豪語したぐらいだ。高いビルとビルのあいだに綱を張り、セイフティネットもなく綱渡りをすると彼が指定した日は、強い風の日だった。しかし、綱渡りの名人は、綱の上に立った。子どものころから、ずっとサーカスで使ってきたバランス棒を手に、綱をすいすいと渡っていった。しかし、突風にあおられバランスを失った。バランス棒を捨てて素手で綱を握れば命は助かったはずだ。しかし、彼は、落ちそうになったとき、困ったとき、不安になった時には、いつもこのバランス棒をよりしっかり握ることによって、これまで生きてきた。だから、この突風が吹いた後も、バランスを失えば失うほど、ますます強くバランス棒を握りしめた。そして、とうとう綱から墜落した。なんと、カーク・ウォレンダは、地上の墜落現場でも、バランス棒を握ったままだった。そこでウォレン・ベニスは、変革を起こすリーダーシップがうまく発揮されるためには、このような心理状態の罠に気をつけなければならないという意味で、それを「ウォレンダ要因」と名付けた。もちろん、キャリア・チェンジにもこのようなウォレンダ要因があるはずだ。(pp.248-249)

よく言われる、「賢者な歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」というオットー・フォン・ビスマルクの言葉を思い出しました。なかなか成功体験や植え付けられた意識というのは、習慣化されるに及んでは、手放すことは非常に難しいというのはどの場合もそうなんですね。

大きな節目をくぐり抜けるには、小さな勝利の積み重ねを通して作られる大きな物語が、事後でもいいから必要になってくる。生涯発達心理学でも、ノースウェスタン大学のダン・アダムズは、「われわれがそれによって生きている物語(stories we live by)」を重視してきた。物語のなかから、また複数の可能な自己像から、目指すものが進化のプロセスを通じて生き残り、意味づけられ、クローズアップされてくる。そのためには、他者にも、自分にも物語ることが大事だ。医者が僧侶になるような大きなキャリア・チェンジは、物語をもってその意味付け作業が進展する。アイデンティティーの変容と形成には、アイデンティティーの物語が必要だ。・・・新しい可能性を見つけることは、新しい物語を再構成することだとも言い添える。そして、何よりも新しい可能性を見つける物語には決定的な転機や決定的な瞬間が訪れるという。ハーバードのジョゼフ・バゴラッコは、これを、自分や職場や会社を定義づける瞬間(defining moments)と呼んだ。そのような機会に、ひとは自分というものがにじみ出て、自分が試され、そして自分が形成されていく。

さぁ、新しい物語を創りだすために動き出そうじゃありませんか。
非常に勇気づけられる著作でした。

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