経営戦略の思考法


経営戦略の思考法

経営戦略の思考法
著者:沼上 幹

内容
先手必勝の矛盾、シナジー崩壊、選択と集中の失敗、組織の暴走−。戦略論を大胆に整理し、最先端の知で問題を解明する。総合判断力を深化させる第一人者によるマネジメント強化の書。

★読書前のaffirmation!
[きっかけ・経緯] おそらく「経営戦略」系のほうをよく読んでいるからでしょうか。しばしばレコメンドされるので、ならば読んでみようかと。
[目的・質問] 経営戦略の思考法を学ぶ。
[分類] 336.1:経営政策.経営計画

経営戦略論は、きわめて実践志向の強い研究領域である。そもそも経営戦略論は学問的な関心が先に立ってスタートしたというよりも、実務的・社会的重要性から生まれてきた研究分野である。経営戦略論は、最も単純な言い方をするならば、「企業を取り囲む環境とその企業の経営資源の間に見られる長期的な適合パターンについて考察を巡らすもの」である。(まえがき p.i)

「長期的な適合パターン」であったり、法則性を見出すことがアカデミックな範疇であり、さらに・・・

この適合パターンが事前に合理的に設計されたものなのか事後的に創発するものなのかについては人によて見解が分かれるところではあるが、この環境と資源の適合パターンが個々の企業の経営成果にとっても、資本主義市場経済システム全体の効率性・成長性にとっても、非常に重要であることには議論の余地はないだろう。経営戦略は、企業にとって、あるいは社会にとって、非常に重要な問題領域であるために、多くの実務家と研究者がエネルギーを注いできた対象なのである。(まえがき p.i)

「個々の」というのがミソで、その経営戦略は取り巻く環境におけるさまざまな変数のなかでの成功であり、失敗であり、また変数と変数が絡み合うことにより生じる現象がトリガーとなったりすることもあり、本当に法則性なんて見つけられるのか・・・でもそこが研究者にとっても醍醐味でしょうね。

「実務的・社会的に重要な問題・課題があるために始まった研究領域」ではりますが、学者が深く関与する意義として次のことを挙げられています。

第一に、実務家からは「新しい解決策」・「新しい概念」が出てくるが、実は古い世代の理論がベースになっていることもある。こういった過去の概念や理論の相互関係や背後の考え方の基本構造を明確にし、実務家に伝えなおさなければ混乱を招くし、使い方を誤ってしまうこともある。

第二に、現実的な問題の解明のために、新たな理論的アイデアを他の学問分野から輸入・加工して、問題そのものから少し距離をとって新たな視点から問題を考えてみる、というアイデア創出の機能を学者が果たせる可能性もある。

そして、本書は次のような問題意識から書かれているようです。

新しい概念や理論の吸収窓口を開き、多様なアイデアを試すことのできるコミュニティー構造をもたなければ、経営戦略について思考を巡らす人々の集団は自分たちに必要な知識を生み出すポテンシャルを失うだろう。経営戦略論の知識プールの成長はその分だけ遅くなり、実務家が抱えている複雑な問題を解決するための新たな切り口が見つからないまま何年もの年月が経過する可能性もある。その点でも、実務的な問題を出発点としている経営戦略論に、学者の関与する意義が存在すると思われる。(まえがき p.iv)

ここで言っている新しい概念や理論とは、「ゲーム理論」や社会科学のエルスター、ギデンズ、ブードンなどを挙げられています。

合理性を圧倒する感情 (ジャン・ニコ講義セレクション)モダニティと自己アイデンティティ―後期近代における自己と社会社会学の方法 (文庫クセジュ 483)

さて、ここから本文に入っていきます。
第一部では、経営戦略論の基本的な学説を次のような観点で整理されています。

学説の整理を行う際に、基本的には5つの経営戦略観に分類して議論を進めて行く。すなわち、①アンゾフに代表される戦略計画学派、②ミンツバーグに代表される創発戦略学派、③ポーターに代表されるポジショニング・」ビュー、④バーニーやプラハラードとハメル、伊丹に代表されるリソース・ベースト・ビュー、⑤ブランデルバーガーとネイルバフに代表されるゲーム論的アプローチの5つである。(p.2)

さらにこの5つ戦略観を次の3つの次元での整理を試みます。

それら相互の関係について3つの次元を用いて整理を行う。3つの次元とは、①事前の合理的設計重視vs.事後の創発重視、②市場ポジションの重視vs.経営資源の重視、③安定的構造重視vs.時間展開・相互作用・ダイナミクス樹脂である。これらに基づいて戦略観の相互的位置関係を確認した上で、それらが相対立するように見えながらも、実際には相互作用を通じて知的地層を形成してきたこと、しかし同時に一般的には戦略にいずれか特定のバイアスがかかる可能性があること、それを克服するためにも学説の整理が時には必要であることなどが指摘される。(p.2)

最後に書かれていますが、この学説間の相互関係の理解というものは次の理論を導き出すためにも非常に重要であり、ここでしっかりと身につけたいと思います。

経営戦略とは何か、という問いに対して、実は多様な考え方・答え方がある。もちろん「環境の機会と脅威に対応して、自社の強みと弱みを、時間展開の中でマッチングさせていくパターン」というような抽象的な言葉のレベルでは、強調点の相違がある程度存在するにせよ、それほど議論が分かれることはない。しかし、もう少し具体的なレベルにまで下りようとすると、何をもって経営戦略と呼ぶのかという点で経営戦略論の学者間でも見解が多岐に分かれていく。(p.3)

以下、大きく分けた5つの戦略観である。(pp.6-7)

【戦略計画(planning)】:戦略とは、組織全体の目標に向かってそのメンバーの活動を整合化させるプラン(シナリオ)である。そのプランを体系的に、抜けが無く、合理的に作成する作法がある。その作法を明確化し、体系化することが経営戦略論の課題である。

【創発(emergence)】:「戦略」などという格好の良い言葉と実務は違う。実際には皆が目の前に現れた機会や脅威にその都度適応してきた結果、後から振り返ってみると何かパターンがあったので、それを「戦略」と呼んでいるだけなのだ。事前にこの「戦略」を描けていた人はいない。戦略は誰かが事前にトップダウンで決めるものではなく、現場のミドルたちの相互作業の結果として事後的に創発するものなのである。だから、トップが事前に決め打ちする「戦略」を重視するよりも、現場に自由度を与えてミドル以下から湧き上がってくる戦略的なアイデアを重視し、そこに秘められている成長ポテンシャルを活用するのが適切である。

【ポジショニング(positioning)】:戦略とは特定の「立地」をとることである。ここでいう「立地」とは、コンビニの出店する場所というような物理的なスペースでもよいし、人々の心の中の心理的なスペースでもよい。あるいは競争相手との棲み分けが可能な業界構造上の特定のスペースを指す、と考えても良い。戦略とは、利益の出やすい事業分野や市場セグメント、場所などを見つけ出し、そこにいち早く進出して一定の地位を築いていくことである。重要なことは、良い「立地」を見出す戦略家の知識とスキルである。

【経営資源(resource)】:どれほど良い「立地」を見つけたとしても、その「立地」を確保し、競争相手よりも魅力的な製品・サービスを顧客に提供できなければ企業は成り立たない。そのため、戦略を考えるには、ポジション以上に経営資源(あるいは能力)に注目する必要がある。この経営資源があるから、顧客にとって有用なサービスや製品を生み出し、他者と差別化する活動が成立するのである。経営資源は、大まかに分ければ、ヒト・モノ・カネ・情報に分類できる。その中でもとりわけ重要なのは、ヒトに体化された情報であり、特に市場取引の難しい暗黙知のような知識が重要である。戦略とは、価値があり、容易に模倣されない経営資源を見定めて、それを自社の競争力の厳正に位置づけ、超過利潤を獲得していくことである。

【ゲーム(games)】:戦略の本質は、巨総相手や取引先との駆け引きである。そのため、競争相手や取引先との「出し抜き」合いのプロセスが最終的に何をもたらすのかを見通す能力が非常に重要である。出し抜くべき相手の意図を読み、その行動を読み、その後の相互作用が展開されていくシナリオを読むことが戦略のエッセンスである。

またこの5つの分け方について、次のように書かれています。

戦略計画・創発・ポジショニング・経営資源・ゲームという5つの戦略観に大きく分類できると指摘したからといって、この5類型ですべての戦略論を分類でき、論理的に水も漏らさぬ厳密な体系化が可能である、というような主張を本書は行うつもりはない。この5分類は、おおよその地図を頭の中に構築するためのラフな手掛かりにすぎない。また、ここに挙げた5つの視点は、必ずしも互いに矛盾するようなものでもない。・・・これら5つの戦略観は、論理的に相互に排他的なものとして分類されたものではなく、あくまでも強調点の違いに応じて、おおよそどのような戦略観があるのかということを理解するための、ある種の「地図」として機能させるために設定されている。(pp.7-9)
時代 戦略観 提唱者
1960年代 戦略計画 アンゾフ(企業戦略論)、スタイナー(戦略計画論)、アンドリュース(経営政策)、チャンドラー(経営史家)
1970年代 創発 ミンツバーグ、バウアー、バーゲルマン
1980年代 ポジショニング ポーター
1990年代 経営資源 バーニー、伊丹、Wernerfelt、プラハラード、ハメル
2000年代 ゲーム ブランデルバーガー、ネイルバフ
創発戦略学派は、実態としての起業経営を丹念に観察し、その実証研究を通じて過度に合理的な戦略計画が現実に実現可能ではない、ということを示唆し、また同時に、ある程度自由度を与えられたミドル・マネジメント(事業部長クラス)が現場でイニシアティブを発揮して、事後的に見て比較的良好な経営戦略を実現できるということを示してきた。これらの示唆は、戦略計画学派の過度な合理性信仰に対する解毒剤として有効であると同時に、経営戦略と組織行動の相互作用を実証研究によって明らかにしていくという研究の流れを作り出し、今日に至るまで多様な知見を生み出してきた。学問的には、これらの点が創発戦略学派の貢献だと評価できると思われる。(pp.50-51)
ポジショニング・ビューは環境の機会と脅威を中心として経営戦略を考える思考法であり、リソース・ベースト・ビューは自社の強みと弱み(経営資源)を中心として経営戦略を考える思考法である。(p.54)

ポジショニング・ビューについて、次のように説明されています。

ポジショニング・ビューに分類される戦略論は、どのようなポジションが利益をもたらすのかという「市場の法則」を探求し、その「市場の法則」に基づいて戦略を組み立てる立場を指す。特定の条件を満たしたポジションが利益に結び付きやすいのであれば、そのポジションに自社事業を位置付ける(ポジショニングする)ことで利益を生み出す事業活動が展開できるようになる。「どのような市場に出れば儲かるのか」という基本的な考え方自体は、多くの実務家にとっても興味のあるところであろうし、同時に多くの経営学者にとっても重要な関心事であったので、ポジショニング・ビューの起源は多様に存在すると考えられる。(p.56)
ポーターの業界の構造分析法とは、まさに企業経営の立場に立った産業組織論の知見の体系的整理だと位置付けられる。この分析法は、ある業界あるいは市場セグメント(業界の一部)から潜在的に利益が得られるか否か(利益ポテンシャル)を判断することを目的としており、利益ポテンシャルを左右する要因を体系的にチェックするための要因リストを用意している。別名をファイブ・フォーセズ・モデル(5つの諸力モデル)と呼ばれるように、この手法では、利益ポテンシャルを左右する諸力が①既存企業間の対抗度、②新規参入の脅威、③買い手の交渉力、④売り手の交渉力、⑤代替品の脅威の5つのカテゴリーに分類される。これら5つの競争要因が厳しくなるほど、業界の利益ポテンシャルが低下する。(pp.57-58)
業界を超えて、この標準的な分析法が応用可能であったという点で、ポーターはそれまでにない有益な枠組みを提供した。特定業界の利益ポテンシャルを推測したいというニーズは、その特定業界内の経営者のみならず、そこに参入しようか否かを検討している企業や、融資を検討している銀行、推奨株を考えている証券アナリスト、それらを報道する経済ジャーナリストなど、すべての人に共通するものである。それ故、ポーターの業界の構造分析法は急速に普及し、非常に強力なインパクトをもったのである。(p.62)
ポーターの業界の構造分析よりも少し早くから、どのような事業が儲かるのかを実証研究を通じて突き止めようという研究を、同じハーバード大学の別のグループが始めていた。市場戦略の利益に対するインパクト(Profit Impact of Market Strategy)の研究、PIMSプロジェクトがそれである。・・・PIMS研究は、高いROIを得るうえで市場シェアが重要な役割を果たしていることを多様な角度から強調している。より具体的には市場シェアの10%ポイントの相違は、ROIの3.5%ポイントに対応する、とPIMSプロジェクトは指摘している。しかしどのようなときにでも市場シェアを高めればよいかというと、必ずしもそうではない。PIMSプロジェクトによれば、市場シェアを拡大しようという努力は、とりわけ次の条件が成立している場合に報われやすい。

  1. 急成長市場であること
  2. 若い産業であること
  3. 高度な垂直統合を必要とする技術的条件があること
  4. 組合組織率が低いこと
  5. 特許による参入障壁が存在しないこと
  6. 参入するのに高いマーケティング支出が必要であること

逆に、これらの条件が1~2個しか当てはまらないような業界では市場シェア拡大が高い成果に結びつ句可能性が低い、ということをPIMSプロジェクトは実証データから明らかにしている。(pp.62-64)

どのような環境条件に直面している事業が利益を上げやすいのか、という問いを巡って研究を積み重ね、その知見を活用して、適切なポジションに事業を位置付けていくことで企業を運営していこうというポジショニング・ビューは、ここの事業運営に当たる事業部長クラスの経営リテラシーを高めることに貢献するとともに、経験値の体系化という限界を持っていた戦略経営学派に実証的な証拠を提供する役割を果たした。(p.69)
成長はあらゆる悪い構造要因を覆い隠す。たとえば、成長している産業では、需要の伸びに合わせて生産・流通体制を構築するのに必死であり、他社の顧客を奪い合う激しい競争は展開されにくい。それ故、成熟期には非常に重要になるスイッチング・コストの大小は、成長期にはそれほど大きな問題にはならない。また、設備の拡張単位の大きさや、固定費の大きさ、戦略的価値の高さなど、成熟期や衰退期には深刻な問題として立ち現れる要因の多くが、成長期には深刻なものとしては見えてこない。「右肩上がり」を前提とした日本の企業人の間では、ポーターの業界の構造分析を1要因ずつチェックする必要は強く感じ取られなかったのではないだろうか。世界的なベストセラーであるため日本でもベストセラーになったが、その実、その手法を体系的に身に付けた戦略スタッフが日本国内に多数育成されたとまでは言えない状況が長く続いてきたのではないだろうか。しかし、その出版から10年以上経た「失われた10年」以後、このポジショニング・ビューの重要性がひときわ強く感じられ、まさに現代の日本企業で経営戦略を立案する人々にとって必読書になったのだと思われる。(p.70)
アンゾフの言う4つの経営戦略(①製品―市場の範囲、②成長の方向、③競争優位、④シナジー)の要素を見れば分かるように、「会社が目指すべき姿は、製品―市場ポートフォリオの範囲と構造という観点からすると、どのように捉えるべきなのか」といのが、アンゾフの考えた経営戦略の中核的課題だったのである。しかし、アンゾフ自身は、どの製品―市場を選択すると、より高い利益率を得られるのかということについて、長年の実務的な経験を通じた知恵と優れた常識以上のフレームワークを提供していない。この空隙を、ポジショニング・ビューの戦略論は埋めることができたのである。(pp.71-72)
重要な貢献ポイントのあるポジショニング・ビューではるが、同時にそれに基づいた戦略を構築する際の問題点も若干指摘できる。まず第一に、企業間の相互作用という観点が弱いということである。ポジショニング・ビューに基づく戦略論も、その戦略論に基づいて戦略を立案する実務家も、どのような条件の下では利益率が下がるか上がるかというような、各種の条件を列挙していくことが多く、相手企業のリアクションや波及効果を考える思考が弱い。・・・主要な競争相手や取引先が当方の手に対してどのような対抗策を打ってくるのか、それに対して他のプレーヤーがどのように反応するのか、という読み筋の欠如した戦略シナリオを作りがちになる、ということである。このような企業間の相互作用という視点が弱いというところがポジショニング・ビューの戦略思考の問題点であり、後にゲーム論的アプローチが重要な貢献を生み出す背景となっている。第二の問題点は、環境要因に基づいて製品―市場ポートフォリオの取捨選択を行いがちだということである。ポジショニング・ビューは、環境要因に注目して、どの事業は利益ポテンシャルが高く、どの事業はそれが低いのかを明らかにしていく考え方であるから、それを製品―市場ポートフォリオの取捨選択に応用すれば、環境要因に基づいて、より高い利益ポテンシャルが予想される領域への絞り込みが行われていくのは当然であろう。もし長期的に得られる利益が、ポジショニング・ビューの主張する通りの要因によって規定されているのであれば、この取捨選択に問題があるとは主張できない。(pp.71-73)
しかし、もしポジショニング・ビューの注目する環境要因が短期の利益を規定しているだけであるとか、新しい技術の登場によって環境要因自体が変化するとか、あるいはさらに、画期的なイノベーションを生みだすなど、自社の努力を通じて環境要因が変化する可能性がある、というような場合には、ポジショニング・ビューの主張する通りに製品―市場ポートフォリオを選択しても、長期的な利潤最大化は達成できない。いや、自社の固有の強みを見失いながら、市場の波間に漂流するだけの企業に堕してしまうこともあり得る。この点が、リソース・ベースト・ビューの戦略論から見て最も深刻な問題点であったと思われる。(p.74)
もしポジショニング・ビューの見ている要因が実際には短中期の利益と結びついているものである場合や、重要なのはむしろ環境の構造を創造的に破壊するような新規の事業を自ら創り出す能力であるのだとしたら、ポジショニング・ビューの示唆する戦略的策定法には問題が多いことになる。このような点に注目して提唱されたのが、プラハラードとハメルの「コア・コンピタンス」という概念であった。コア・コンピタンスとは、今、目に見える製品やSBUではなく、その背後にある知識・行動の体系である。このコア・コンピタンスを武器として、企業は新しく事業を創出し、長期にわたって競争に打ち勝ち、利益を上げていくのである。プラハラードとハメルは『コア・コンピタンス経営』の中で、SBUをカット・アンド・ペースト(切り貼り)するタイプの経営を痛烈に批判する。この種のリストラクチャリングを行っても、せいぜい、現在の市場に適合するようになるだけで、競争相手に追いつくだけである。しかも、目に見えるSBUのリストラを行うことで、実は失われた人材や知識が多数存在し、それがもたらしたかもしれない潜在的な成長を考えると逸失利益は計り知れない。(pp.76-77)
ポジショニング・ビューをそのまま素朴に用いるなら、個々の製品や製品群が成熟後期や衰退期に到達し、今後利益を上げられそうになくなったならば、その事業を売却したり、その事業から撤退したりすればよい。そのような経営を行うことで、その都度、高い利益率を達成することも可能かもしれない。しかし、そのように個々の事業を売却するような経営を続けていると、その事業を背後で支えている技術力やマーケティング力、オペレーションのノウハウなどは消失してしまう。それらのコンピタンスが残っていれば、それを基礎にして、新しい業界を切り開けるようなブレークスルーを生み出せたかもしれないのに、である。主体的な事業開発を通じて、段違いの経済的成功を収めるためには、目に見える製品やSBUに注目して経営戦略を考えてはいけない。目に見える製品やSBUという表層の背後にある、深層のコア・コンピタンスに注目して、それらをいかに経営管理するかという発想を持つ必要がある。(pp.77-78)
ハメルとプラハラードは次のように言う。「未来を展望するためには、『当社の商売は何か』とか『当社の製品やサービスは何か』という問題に関して、視野の狭い常識的な見方を捨てなければならない。ちょうど事業単位で考えるのをやめて、根底にあるコア・コンピタンスに進まなければならないのと同じように、-従来の製品やサービスで考えるのをやめて、その下にある機能に焦点を定めなければならない」。(pp.78-79)
目に見えるものではなく、その背後に存在する本質に注目し、その本質部分のダイナミクスを活用して企業戦略を考えるべきである、という思考法は伊丹の『新・経営戦略の論理』にも見出される。伊丹もまた、現時点で目に見えている表層としての製品―市場ポートフォリオとそれを背後で支える「見えざる資産」とを区別し、その見えざる資産がもつダイナミズムを利用して高度な発展を可能とする戦略を描くべきだと主張している。ここで伊丹の言う「見えざる資産」とは、特に人が創り出し、学習・蓄積する情報という経営資源のことを指す。(p.79)

 

目に見える経営資源としてのモノとは異なり、人には学習能力がある。そのため、今描こうとしている経営戦略は今保有しているモノとフィットしていなければならないが、ヒトや情報とは多少アンバランスな状態でも問題はない。現時点では十分な知識・情報を持たないとしても戦略を実行している間に学習が進み、戦略を実行している間に、事前の戦略とそれを支える経営資源とがバランスするようになる可能性があるからである。いやむしろ、多少無理をした高いレベルの目標を実現するような経営戦略を描いた方が、結果的に組織メンバーの学習が進み、かえってダイナミックな成長を加速できる可能性もある。だから、経営戦略を策定する段階では、ややバランスを欠いても、大きな戦略構想を描いた方が結果的に成功する可能性が高い。これが伊丹の言う「オーバーエクステンション」の論理である。(pp.79-81)

今では、この「オーバーエクステンション」はある意味、すべての企業に求められるところになっています。結局、環境に適応していくためには悠長なことは言ってられず、計画・目標とののスキマを埋めるために、「仕組みの改善」が必須になってくるでしょうし、それを下支えする「人の成長」までをもカバーするとなると、やらねばならないこととその優先順位を余裕を持って設定できる企業力があらかじめないと難しいと思うのです。もしその企業力がないと、近視眼的な活動を行いがちで、「勝てない」という状況が続くように考えます。

リソース・ベースト・ビューの考え方によれば、政府の規制のような場合を除けば、超過利潤を除けば、超過利潤が生まれるのは、経営資源を売買する市場が不完全であるからであって、特定の製品―市場ポジションを占めているからではない。自由に市場でやり取りすることができず、急に供給量を増やせないような経営資源がボトルネックになって、超過利潤が発生している、というのが、経営学系のリソース・・ベースト・ビューの論者の議論であり、このような経路から資源への注目がなされたのである。ここでも、製品―市場という表層と、その背後にある戦略遂行のための毛家資源・資産という深層の二重性が理論的思考の基礎として重要な役割を果たしていることを確認することができる。(pp.82-83)
目に見える製品の背後には、目に見えない、あるいは見えにくい「能力」があり、この「能力」を意識して、うまく発展させることこそ、経営戦略の最重要課題である。そのため、まず①コア・コンピタンスを特定し、②それを育成・発展させることを最重要課題として認識し、③それらのコンピタンスを単独で、あるいは組み合わせて他の事業へと展開していくシナリオを描くことが重要である。(p.83)
このような考え方で戦略を策定する場合、何と言っても、自社にとっての本質的な経営資源は何であるのかという議論が重要な問いとなって現れてくる。この点で多様な手法が、この種の経営資源の探求を促すべく考えられてきた。・・・この種の作業は、まず顧客が購入する製品・サービスが何によって市場での競争に勝っているのかという問いからスタートする。企業が技術サブシステムと管理・制度サブシステム、戦略的資産の3つに大別されているが、個々の企業の実情に合わせて、他の分解の仕方をしてもかまわない。ここでは、たとえば、技術サブシステムに注目すると、それはさらに、コア・プロダクトに分類されたり、技術者たちの行動様式や知識体系に分解される。この分解作業を通じて、自社の基本技術や戦略的資産、プロセスが何であるのかを明らかにし、その上でさらに、その深層に存在する知識・行動の体系が何であるのかを追い詰めていくのである。このように、コア・コンピタンスを追求していく作業は、執拗に深く企業の本質的部分を明らかにしていくものである。この点を多くの実務家が見落としがちではないだろうか。・・・しかし、これらは定義的にコア・コンピタンスではない。これらはコア・プロダクトとか、コア・デバイスであり、そのコア・プロダクトやコア・デバイスの背後にある知識と行動の体系がコア・コンピタンスなのである。プロダクトやデバイスは比較的短期のうちに消え去るかもしれない。しかしその背後にある知識や行動様式の体系は永続的に活用できる。目に見えにくい本質部分にまで思考を巡らせて辿りつくような議論がなければ、リソース・ベースト・ビューに基づいた戦略を立てることはできないのである。(pp.83-85)
「組織プロセス」と「経営資源」とを明確に分けることは難しい。リソース・ベースト・ビューとポジショニング・ビューは、論争の中で徐々に変質し、重複する部分を多く持つ観点に変わってきたと考えられる。少なくとも、現時点では、一部の論者が強調して主張するほどには両社は対立しているものではない。実務的には、両方を複眼で用いて戦略を構築していけばよいと理解しておく方が得策なのである。(p.89)
リソース・ベースト・ビューの主張から学ぶべき点は数多い。たとえば、長期の成長・発展に注目し、その成長・発展を支える学習のメカニズムや知識創造のメカニズムなどに人々の注意を向けてきたことは長期的な企業の健全性を確保する上で重要な貢献だといえるだろう。しかも、目に見えるものを目に見えないもので説明しようという姿勢は、本質を探究しようという科学的な姿勢に合致している点もわれわれにとって大いに学ぶべき点であるように思われる。(p.89)
リソース・ベースト・ビューには理論的にも問題が残されている。特に重要な問題は、何をもって価値ある経営資源だと考えるのか、という資源の評価の部分である。バーニーはリソース・ベースト・ビューの基本原理をまとめて、①価値(Valuable)があり、②希少(Rare)であり、③模倣不可能(Inimitable)で、④代替不可能(Nonsubstitutable)な経営資源が持続可能な競争優位を生み出すと主張している。頭文字をとってVRINフレームワークと呼ばれている4要素のうち、「価値がある」という部分は資源の分析だけでは答えが出ない。ある資源が顧客にとって価値があるサービスを生み出すか否かは、顧客の視点、あるいは言い換えるなら市場側・需要側の評価を措定しなければ明らかにならないはずである。そのため、リソース・ベースト・ビューは市場側・需要側の分析を必要としている。しかし、リソース・ベースト・ビューは事実上ほとんど需要側の分析・考察に関する理論的要素を欠いているという問題がある。実際んはリソース・ベースト・ビューも市場側の視点で補われる必要がある、ということである。(91)

ここでは、VRINフレームワークと書かれているが、VRIOとは「VRI」までが同じで、OはOrganaizationで、この4つの視点で競争優位の源泉を分析するのです。

VRIOはVRINでいうところの代替不可能なものとして、組織(力)と限定したものとすると、原典を読んでませんので私見ですが、VRINは「今」を見ていて、VRIOは企業の継続性も視野に入れているような印象を受けます。

ゲーム論的アプローチは、簡単な相互作用ではなく、複雑で長いプロセスを経る相互作用を視野に入れ始めることで、企業間の相互作用メカニズムを明らかにし、経営戦略に関連する現象に貴重な洞察を与えてきた。その貢献が多数存在し、しかも現時点で最も活発に研究業績が生み出されている領域でもあるために、その貢献を簡単にまとめることは難しい。しかし、ここでは敢えて現時点でにおける貢献点を簡単に3点にまとめて記しておきたい。まず第一に、競争と協調の混在に注目し、補完的プレーヤーの重要性を指摘した点がゲーム論的アプローチの貢献点といえるだろう。・・・補完的プレーヤーを視野に入れることで、これまで「他のすべてのプレーヤーは自社の利潤を奪う的だ」と考えてきた業界の構造分析とは一線を画した分析視覚を作りだした点が、ゲーム論的アプローチの重要な貢献であると思われる。第二に、このような競争と協調の混在することを強調することで、ゲーム論的アプローチは成熟業界での戦略定石に関して、多様な可能性を探求し、実際、成熟業界で構造不況に陥った企業や買い手に買いたたかれている企業に、そこから抜け出す「お作法」やそのような状況に陥らないための「お作法」を示唆してきた。第三に、ゲーム論的アプローチは思考法そのものの変革をもたらしたを評価することができると筆者は考えている。競争企業間あるいは顧客や取引先との相互作用に注目し、それら主要なプレーヤーが時と共に繰り出す行為の展開を追いかけ、自社の一手が業界全体に引き起こす効果などに注目することで、素人の直感に反する結論が見出される。この思考法を応用して、企業間の相互作用にみられる「意図せざる結果」を研究者は見出すことができるようになるとともに、他社が驚くような「うまい戦略」を戦略家が創出できるようになる。それまでの戦略論の思考法の中にも、同様のものを見出すことは不可能ではないが、それでもゲーム論的アプローチはこれらの思考法を意識的・体系的に活用して社会科学的に妥当な理論を構築してきたということができる。(pp.110-112)
事前の計画・トップダウン vs. 事後の創発・ボトムアップという軸と、経営資源 vs. 環境の機会と脅威という軸、さらには安定的構造 vs. 時間展開・相互作用・ダイナミクスという軸の3つを使うことで、これまでに見られた基本的な経営戦略観を5つ、あるいは6つに分類することができるのである。6つの戦略観は相互に排他的な領域に分けられるわけではないので、一部、割り切りが難しい部分が残されるのだが、それでもおおよその強調点の相違を理解するためには、3次元の図に簡単な領域を描き込む作業が若干の助けになるように思われる。(p.125)
実務家が自分自身で戦略観を構築し、自分自身の戦略を策定していく際に、「これらの5~6の戦略観が互いに論理矛盾をして困る」という場面はそう多くは起こらない。実際、これらの戦略観は宗教のように「一方に帰依したら、他方に共感をもってはいけない」というタイプのものではない。たしかに究極の決断を迫られる際には、どちらの戦略観を優先するかを選択する場面もあるだろう。しかし、そこまで究極の決断を迫られる場合以外は、これら5つの戦略観を複眼的に用いて自らのオリジナルな経営戦略を構築していくのが適切であると思われる。背後の思想はともかく、少なくとも基本的な注目ポイント・考慮事項について言えば、5つの戦略観を併用する「無節操な折衷主義」が実際に行われているし、それが望ましいバランスの取り方である。(pp.125-126)
たとえば次のように経営戦略を考えていくプロセスを見てみればよい。

  1. 会社のミッション(使命)が何であるのか、という問いにいつでも立ち返って考える(戦略計画学派)
  2. 環境の機会・脅威と自社の強み・弱みを大まかにつかみながら列挙して、会社の進むべき方向について議論する(戦略計画派)
  3. より詳細に利益の出る条件が整っている市場セグメントがどこであるのかを明らかにし、そこにうまく自社を位置づけることができるか否かを考える(ポジショニング・ビュー)
  4. 自社の企業活動の背後にある経営資源あるいはコンピタンスが何であるのかという本質を考え抜き、そのコンピタンスに磨きをかけるとともに、それが現行事業以外でどのようなところに生きるかを探索する(リソース・ベースト・ビュー)
  5. 自社が取る手に対して、競争相手や取引先、顧客などがどのような反応をするのか、またその相互作用の結果として最終的にどのような業界が生成するのかを考える(ゲーム論的アプローチ)
  6. 環境の要求する要件に合わせて現状の自社組織プロセスを最適化する(ポジショニング・ビュー&リソース・ベースト・ビュー)
  7. しかし、戦略計画が示すものとは別に、ある程度の自由度をミドルに残し、そこから自由闊達な戦略イニシアティブが発達してくることを期待する(創発戦略学派)
  8. 過去の戦略計画通りに現在の事業が構成されているわけではない。自社が実際に実現してきた事業展開は、ミドルの自主的な努力の結果でもある。この実現された事業展開を振り返り、自社が実際に何をやってきたのかをリトロスペクティブに概念化する(創発戦略学派)
  9. これらをすべて考えた上で、もう一度、自社の追求するべき戦略の方向性と戦略計画を考える(戦略計画学派)

この1~9の戦略思考を読めば明らかなように、我々が措定した5つの経営戦略観は、互いに意見を異にする部分をもちながらも、通常の経営戦略策定作業を行っている局面では混在することが可能であり、またそのように意図的に混在させて相互補完の効果を得ることも可能である。究極のところでは、ボトムアップの事後創発を強化するか、それとも事前計画のトップダウンを強化するかという選択や、経営資源に軸足を置くか、環境内ポジションの設定に軸足を置くかという選択を迫られる場合もある。しかし、その究極のところまで行く前の通常の戦略策定業務を行っている場面では、これら5つの経営戦略観を複眼的に用いていくという方が見落としの少ない思考を助長することができる。(pp.126-127)

まだこの後、実は本文は続いていくのですが、ここで切り上げます。このあとも学ぶべきことがどんどんありますので、書き抜いていきたいところですが、前半が終わったので、ここで一度、締めます。また書き足していく場合もあります。

学ぶべきことが整理されており、かなりの書き抜きをしてしまいました。分量が多すぎますので、エッセンス版を作りたいと思います。

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