Who Gets What ―マッチメイキングとマーケットデザインの新しい経済学

Who Gets What (フー・ゲッツ・ホワット) ―マッチメイキングとマーケットデザインの新しい経済学

Who Gets What (フー・ゲッツ・ホワット)
―マッチメイキングとマーケットデザインの新しい経済学
著者:アルビン・E・ロス

★読書前のaffirmation!
[きっかけ・経緯] 帯にある「最適な組み合わせ」というのが気になりました。
[目的・質問] 「最適な組み合わせ」を学びます。

本書の著者、アルビン・ロスはそのマッチング理論の応用分野である「マーケットデザイン」の研究で先進的な成果を挙げ、2012年のノーベル経済学賞を受賞。

経済学は、希少資源をいかに効率的に配分し、資源の希少性をいかに軽減するかを考える学問なのだ。(P.9)

アルビン・ロスの経済学の定義です。ミクロですね。

 

マッチングとは、私たちが人生の中で、自分が選ぶだけでなく、自分も相手に選ばれなければ得られない多くのものを手に入れる方法を指す経済用語だ。・・・選んだ相手によって自分も選ばれる必要があるのだ。(P.10)
こうした求愛と選別は、構造化されたマッチメイキングの環境、つまり何らかの応募と選好のプロセスを通じて行われる場合が多い。私たちの人生の重大な転機や多くの小さな節目は、このようなマッチングのプロセスによって、またこうしたプロセスをいかにうまく乗り切るかによって決まる。(P.10-11)

マッチングについての説明です。「選ぶだけでなく、選ばれなければならない」というのがポイントです。

 

マッチングのプロセスには、正式なものであれ、自然発生的に生まれたものであれ、時間とともに進化してきたものがある。だが特に最近では、デザイン(設計)されたものもある。マーケットデザインの新しい経済学は、マッチメイキングや市場一般に科学的手法をもちこもうとする試みである。・・・マーケットデザインは、既存の市場では自然に解消されない問題を解決する手段になる。私たちの研究を通じて、「自由市場」が適切に機能できるためにはいったい何が必要かということについて、新しい知見が明らかになっている。(P.13)
ほとんどの市場(market)とマーケットプレイス(marketplace)は、アダム・スミスの見えざる手を一方の極とし、毛沢東主席の5か年計画をもう一方の極とする、広い空間のどこかに位置する。市場は「誰が何を手に入れるか」を参加者自身が決定するという点で、中央計画経済とは異なる。またマーケットプレイスは、ルールが存在することを知ったうえで参加者が集まるという点で、レッセフェール(自由放任主義)とも異なる。(P.13-14)
市場をよりよく機能させるために、ときおり微調整が加えられていくこうしたルールこそが、市場のデザインである。デザインという言葉は、名詞でもあり動詞でもある。ルールが時と共にゆっくりと進化してきた市場にも、誰かが意識して考案したものではないにせよ、デザインがある。(P.14)
マーケットプレイスがうまく機能するためにまずに何より必要なのは、取引を希望する参加者を大勢集めて、彼らが最高の取引を探し当てられるようにすることだ。参加者が多く集まる市場には厚みがある。市場に厚みを持たせる方法は、市場の種類によって異なる。・・・市場の厚みを維持するための取り組みでは、取引のタイミングがカギを握る場合が多い。オファーはいつ出されるべきか。オファーの有効期間はどれくらいが妥当か?・・・適切なマーケットプレイスを通して、実現可能な取引をすばやく検討できるようにすれば、参加者は特定の取引が成立しなかった場合にも、まだほかの機械を検討することができる。コモディティ市場では、価格がこの役割を果たしている。なぜならコモディティ市場では、一つのオファーを市場全体に出せるからだ。これに対してマッチング市場では、一つひとつの取引が個別に検討されなくてはならない。(P.16-17)
豊富な機会を提供するマーケットプレイスは素晴らしいが、せっかくの機会も参加者が検討することができなければ幻でしかなく、その場合市場の利用価値が大きく損なわれる。(P.17)
他人の行動によって影響を受ける意思決定は、戦略意思決定と呼ばれ、これを扱う経済学の一分野がゲーム理論である。多くのプロセスでは、戦略的意思決定が成否のカギを握る。私たちゲーム理論家は、マッチングプロセスの研究を通して、参加者がどのようにして「制度の裏をかく」のかを学ぶことが多い。適切にデザインされたマッチングプロセスには、参加者が戦略的意思決定を行うという事実が計算に入れられている。マーケットデザインは、参加者が制度の裏をかかくなくて済むようにして、自分が本当に何を必要とし、何を求めているのかを考えることに専念させることを目的の主眼に置く場合もある。あるいは、多少裏をかく人が出ても、市場が自由に機能できるようにすることを目指す場合もある。よいマーケットプレイスがあるとき、参加者は安全かつ簡単に市場に参加できる。(P.19)

まずは、マッチメイキング、マーケットデザイン、マーケットプレイスなど、これから語られていく重要ワードの説明でした。

アマゾンは膨大な数の買い物客と出品者を引きつけるうちに、多様な取引を求める多数の参加者が集まる、厚みのあるマーケットプライスを生み出した。アマゾンのマーケットプレイスの厚み、つまり多くの買い手と売り手に容易にアクセスできる状態は、厚みが厚みを呼ぶ好循環を生んでいる。買い物客が増えれば増えるほど、ますます売り手が増え、売り手の種類が増えれば増えるほど多くの買い手がマーケットプレイスに集まる。アマゾンのサイトに行けば、一つの場所で色々なものを簡単に買うことができ、携帯電話があればどこにいてもそこが買い物をする場所になる。(P.33)

アマゾンは、いったい創業時にどこまで考えていたのでしょう。コアなところのブレはないのでしょうが、さすがに今のようなところまでは考えてなかったとは思うんですけどねぇ・・・。なかなか言えないでしょうから、それは分からないことだと思いますけど。

消費者は仲介業者が提供する利便性に対してコストを支払っているが、そのコストは仲介業者―この場合はクレジットカード会社―が価格競争ではなく、むしろ価格を引き上げるような形での顧客獲得競争を繰り広げているせいで、さらに高くなっているのだ。競争はいろいろな形を取りうること、また誰が得をして誰が損をするかを見分けるのは必ずしも容易ではないことを心に留めておこう。(P.40)

市場が複雑になって、たとえばこの場合だと商流のなかでのお金のやり取りが何段階にもなっているのでその段階ごとにマーケットデザインがされているというイメージだと理解しました。

 

本書を通して明らかにしたいことの一つが、市場の持つ「魔法のような力」は、魔法のように市場に備わるわけではないということだ。デザインがまずいせいでうまく機能していないマーケットプレイスは多い。デザインのせいで市場が十分な厚みを持てなかったり、安全でなかったり混雑に対処できない場合には、手を加えて改善できる機会がある。またときには全く新しい市場のためにマーケットプレイスをゼロから構築して、新しいタイプのやりとりを促す機会もある。(P.42)

たしかにマーケットがうまくデザインされていないために、あるプレイヤーが莫大な利益を上げている・・・・そんなマーケットもきっとあるのでしょう。特に規制緩和されているマーケット・・・怪しいですね。

 

市場を失敗に導くさまざまな要因を理解するためには、市場が始まってもいない時点から話を始めなくてはならない。市場に厚みをもたらす方法の一つに、多くの人が一斉に参加する時期を設定する方法がある。だが制度が「早い者勝ち」方式の時に制度の裏を書こうとする人は、競争相手を出し抜いて早く行動することがあるのだ。(P.78)

「抜けがけ」という問題です。

 

マーケットデザインの問題の解決策は、発明されることもあれば、発見されることもあり、またその両方であることも多い。多くの市場のデザインは、人間の長い歴史の中で、試行錯誤を通じて進化してきた。そのため新たな市場の失敗の解決策が、別の市場で開発されたデザインのなかに発見されることもある。とはいえ、一般にそのような解決策には、問題となっている市場の実情に合わせて、何らかの新たな変更を加える必要がある。(P.180)
市場のデザインに促されて、人々がそれまで胸にしまっていた重要な情報をやりとりするようになるとき、市場は劇的に改善される場合がある。だが市場はコミュニケーション過多に陥ることもある。コミュニケーションが安価になればなるほど、その情報有用性が低下するのは、マーケットデザインのパラドックスだ。(P.226)

ロス先生の弟子のスタンフォード大学小島武仁准教授の解説が書かれており、整理するのに役立ちました。

価格だけで需要と供給のバランスを取れないような場面はたくさんあるが、この種の問題の多くに共通しているのは、問題がマッチング(=組み合わせ)の側面を含んでいるということだ。従来の価格による理論が理論がうまく働かないような場合には、どのようなマッチメイキングの方法があるのかが問題になる。このマッチメイキングの分析に使えるのが、マッチング理論(=マッチメイキングの理論)だ。(P.311)
ひとことで(ちょっと乱暴な単純化をしつつ)言うと、マッチング理論とは、様々な好みを持つ経済主体をどのように引き合わせるかや、限られた資源をどのように人々に配分するかを研究する理論である。言い換えると、人と人、人とモノ・サービスをどうマッチするかを研究する学問である。(P.311)
マッチング市場では価格で需要と供給を一致させることができないので、代わりにマッチメイキングの制度をうまく設計する必要がある。「マーケットデザイン」という研究分野がそれである。マーケットデザインはマッチング理論を応用して実際の制度をどのように設計するのが良いのかを研究する分野である。このマーケットデザインという分野の考え方は随分ラディカルなものである。大雑把に言えば、伝統的な経済学では市場や社会制度を既に「与えられたもの」としてその働きの分析に力を注いできたのに対して、マーケットデザインは制度を「設計することができるもの」と考えているのだ。・・・この分野の研究成果は、学校選択や臓器移植のように価格メカニズムが需要と供給のバランスを取れないような「マーケット」で特に威力を発揮してきた。価格という自然な「見えざる手」が無いときには、代わりにスマートな制度を設計してやろうというわけである。(P.311-312)

おもしろかったです。もっと勉強しないといけないと思いました。数学背景についても詳しく知っていないといけないですね。時間が足りませんね・・・・。学ぶべきことは多すぎます。

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